Red Cliffs (2)
雲の下から出たら、僕は再び滝の方を見る。流星が夜空を駆けるように、儚い煌めきが滝の水面を走る。崖そのものは地層が重なって、上から見えた乾鮭色だけじゃなく、赤色系統と橙色系統の地層が多くある。鱗夢の髪色に似たような大きな地層に目を引かれると、そこにはーー
「ーー崖に、ヤギが?!」
「ん?清石は、アイベックスを見たことが無いのか?なら、近くから見て見ようか?」
「いや、僕は別にそんなことーー」
不満そうな声で、鱗夢は僕の話の腰を折る。
「清石、よく聞け。弟は、姉に甘えるべし。欲しいものがあるなら言えばよい。だから、次にそんな風に「別にしたくない」とか言ったら、お仕置きす」
なんて横暴な魔王・・・!
「じゃ・・・ヤギを、近くから見たい」
「そうだ。求めよ、そうすれば、与えられるであろう」
鱗夢は崖に接近し、空中で止まった。ここから、そのヤギへの距離は数メートルだけ。
竜が近くにいても、ヤギは怯えずに、ただ僕の目をジロジロと見た。
「挑戦か?!僕は負けない!」
僕は、ヤギを睨み返した。だがヤギは怯まず目を瞬かず、ただ僕を凝視した。
「このやろう、いい度胸してるね・・・」
「・・・清石は、思ったより子供っぽいかもしれぬ。ま、それは別に悪いことでは無い。大人すぎたら、お姉ちゃんの出番はなくなるからな」
鱗夢の言葉で激しい恥ずかしさを感じて、僕はヤギから目を逸らした。ヤギはメーメーと笑って、崖を走り出した。
笑い声みたいな音が、竜の喉から響いて来た。
「清石の負けだそうだ」
僕は酷く赤面し、話を変えた。
「あ、話を少し戻すけど、魔法使いのことについて・・・なぜ消滅の魔法ででも傷付けないのか?バードさんと神官さんのエンチャントも、全く効かなかった」
「それは、妾が降る星の祝福を得たるから。初めて会った時にも言ったよな?」
「確かに言ったのだけど、降る星は一体ーー」
突然、鱗夢の体が大きく揺れた。振り落とされるかと思うと、どうか片手で鱗に掴まって取り付けた。
「おい鱗夢!揺れるな!僕、掴まれ切れない!」
「鱗夢姉だぞ!」
「そんなのどうでもいい!揺れは、何とかして!でないと、僕落ちてしまう!」
「んんん・・・すまんな、清石。妾はこの状況で何も出来ぬ。妾の尻尾の方を見よ」
顧みると、鱗夢の尻尾に巨大な触手が巻くついている。吸盤に覆われてるから、それは間違いなく巨大タコの触手だ。
問題ない。僕は巨大タコをいくつ倒したことがある。仲間の皆がいなくても、剣さえあれば僕は勝てる。
「僕が戦おう」
僕は剣を抜いてーーいや、待て。剣は持っていない。
「黙ってて妾の鱗にしっかり掴まれ」
鱗夢の言葉が聞こえた途端、僕らは触手に滝の中に引きずられた。