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Warm Embraces

揚羽は立ち上がった。

「清石くんが魔界に来るのは、これは初めてだよね?なら、姉さんと観光とかしたら?滝沢の滝はすごく綺麗よ」


「僕に姉などーー」


「今更知らんぷりはいらないよ。鱗夢と一緒に観光してこい」


「よい案だ。それに、滝沢の景色は、妾の背中から見た方が一番素晴らし」

鱗夢も立ち上がって、僕を後ろから軽く抱きしめた。


何よこの感じ?


抱かれる感じは、こんなものだったっけ?


僕は、抱かれたことがある。地方の姫とかに抱かれたんだけど、こんなホンワカとした温かい感じはしなかった。


それはなぜなのか?理由は多分、その度は勇者として(・・・・・)抱かれたんだから。その時地方の侯爵とかは、勇者に期待を課していた。本当を言えば、「期待してます」とか言われて抱かれるのは、いやだ。

でも、今鱗夢が何気なく抱いて来て、僕は人として(・・・・)抱かれているんだ。これは見返りを求めない、単なる愛(?)情表現だ。これは、人生初めてかも・・・


「さ、かむ」


鱗夢が抱擁を解こうとすると、僕は思わず鱗夢の手を握った。


「お?お姉ちゃんにもっと抱かれたいか?なら抱いてあげる」


「いや、僕は別にーー」

焦りながら、僕は自分の衝動を否定しようとした。


だが、鱗夢はその嘘に耳を貸さなかった。


「恥じることは無い。抱かれたいなら抱かれればよい」


鱗夢はよりきつくぎゅっとした。


・・・ほっこりする。




僕と鱗夢は一~二分そのままだった。食堂の皆に見られて、それ以上は恥ずかしすぎ。


「もういい。観光しに行こう。でもその前に、仲間の安全を確かめたい」


鱗夢はようやく手を放した。

「仲間を大事にするのは立派であるぞ。ついてこい」


---


鱗夢が宿屋の奥の部屋に僕を案内すると、そこに仲間の三人はベッドに横になっている。


魔法使いの元に走って、彼女の手首に指を当てた。


脈拍・・・に問題はない。魔力の流通にも、問題はない。


バードと神官の状態を確認すると、問題はない。


本当に無事だ。


「清石の仲間は明日までに目を覚めるのであろう」


「なら、なぜ僕だけが今日目覚めたのか・・・?」


「降星石への耐性の問題に過ぎぬ。悪魔も人間も、初めて降星石に晒される時、疲れ果てて三~四日間眠ることになる。あ、清石が三日間眠っておったぞ」


三日間・・・?勇者が三日間魔界の中で無防備に眠っていたのか?僕にまだ命があるとは、奇跡のようだ・・・


僕は立ち上がって、魔王に顔を向けた。


「さ、「観光」しに行こう」


なんかすごい挫折感がする。仲間が気を失ってる間に魔界を歩き回るのは、勇者にはみっともない行為だ。でも、僕は所詮捕虜だ。悪魔達が僕に「観光」させて欲しければ、僕にあまり選択肢はない。


「うむ。ならついてこい」


---


鱗夢は僕を宿屋の背面にある空地に導いた。周りを見れば、後ろに滝とかが見えるけど、前に見えるのは遠くの山脈しかない。


「滝は逆方向だろう?なぜここに来てるのか?」


鱗夢は空地の真ん中に止まり、僕に振り向いた。


「当然、化けるためだぞ」


突然、僕の体に巻きつくヌルヌルの感じがした。下を見ると、僕の胴体より太い尻尾が僕の体に絡み付くところが見える。光を反射しない鱗に覆われた尻尾。鱗夢の背後から這い出て来る漆黒の尻尾。


間違いない。これは、夢で見た竜魔王の尻尾だ。この尻尾が僕の体を縛って、僕は四肢を動かせない。


そして、気のせいかもしれないけど、魔力が体から吸い出されているような感じがする・・・


僕はこうやって死ぬのか?抵抗も出来ず、絞殺されるのか?処分・・されるのか?


僕は気力を振り絞り、大喝した。

「ようやく僕を殺す気になったのか?!なら上等だ!」


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