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「・・・待って。今、揚羽さんが何て言った?」


「ん?」

揚羽も、困惑した顔を僕に向けた。

「ここは魔界で、鱗夢は魔王」


「・・・え?」


「「え」って何よ?知らずに鱗夢と戦ってたのかよ?あんた、簡単に喧嘩を買うタイプ?」


「魔王さんとの戦いは、夢だと思ってたから・・・」

いや、まて。この状況は腑に落ちない。僕は本当に魔王と戦って負けたら、なぜここにいる・・・?僕はなぜ、まだ生きている?魔王に殺されたはずなのに・・・死んだはずなのに・・・

「夢じゃないなら、ここは冥土なのか?」


「夢?冥土?」

揚羽は鼻を鳴らした。

「人間は、想像力だけがいい・・・」


「勇者はなぜいつも死のことを想っておるか?死はそんな軽いものでは無い。それより、皆が幸せに生きて行くことを想像して見ろ」


今すぐ立ち上がって怒鳴りたい。でも、魔王が僕の肩に回した腕は岩のようにてこでも動かない。僕は動きたくても動けない。座りながら怒鳴るのは勇者に不似合いな行為だから、平静に話すしかない。


「僕の仲間を殺そうとしたのは、あんた二人だったよ。だから、僕は死のことを考えずにはいられない」


「何?」

魔王は頭を搔いた。

「揚羽、勇者が何を言っているのか、分かるか?」


眉をしかめながら、揚羽は答えをゆっくりと出した。

「分かる・・・かも。勇者くん、誤解はしないでよね。「処分」とは、魔界に迷い込んだ人間を近くの人間村に帰すこと。誰も殺してはいない。どうせあたしは血に弱いから、殺したくても殺せない」


なんと紛らわしい言葉遣い・・・!


「へえ、人間界で「処分」に「殺す」と言う意味もあるのか?」


「あたしが知る限り、人間は常に殺しあってるから、殺し方を区別するために「殺す」の同意語がたくさんある。でも、「処分」の意味合いはあたしにはよく分かってない。勇者くん、「殺す」と「処分」の違いを説明してくれない?」


「あ、ああ。「殺す」は一般的に使われている単語。「処分」には意味がいくつあるけど、「殺す」と言う意味を表す時、具体的に「支配下の者を殺す」と言う意味だ。例として、戦い中に人を殺したら、それは「処分」ではない。でも、その人を倒して抵抗出来ないようにしたら、その人は支配下になるから、その時に殺したら「処分」だ」


勇者はどこに行っても、地元の人と関係を構築しないとダメだ。知識を分け合わないとダメだ。だから、僕は思わずに答えた。


揚羽も魔王も、ばつの悪そうな顔をした。いや、僕は別に変なことを言ってないよね?


「気まずい話はさておき。この状況で誰も死ぬ必要はない。勇者くんの仲間も無事に眠っている。で、鱗夢は名前を考え付いた?」


「あ、そう」

魔王は僕の肩から手を離し、一回だけ手を叩いた。

清石きよしと、名付ける」


「え・・・?」


「あ、分かる。清らかな心で、石のような頑固さ。この子にピッタリだ。よろしくね、清石くん」

と揚羽は笑った。いや、笑いより、これは嘲笑いだろう?


ーーそれでも、その言葉は・・・すごく変な気持ちになる。「勇者」と言う重責が、一瞬でも取り除かれたように・・・二十年も心配してきた義務が消えたかのように。


僕は魔王を殺すことは出来ないが、魔王はいつでも僕を処分することが出来る。揚羽の言う通り、僕は悪魔の言いなりになるしかない。ギロチンが頭の上にぶら下がっているような圧迫感だ。でも、それは勇者(・・)としての圧迫感。僕が勇者である限り、魔王に殺させることを常に怯えなくてはならん。その一方、僕は勇者ではないなら、この二人の親切さを恐れる必要はない。


「妾からもよろしくな、清石」

鱗夢は晴れやかな笑顔を見せた。


魔王の顔を見るたび、僕は激しい緊張を感じる。死期が迫っているかのような緊張感がする。


でも、今回だけは、緊張感は全くない。鱗夢がそばに座っていても、僕の肩は軽い。


名で呼ばれるのは、悪くないかも・・・



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