Correlation, Not Causation
「おう、勇者では無いか!よく眠れたそうだな。降星石の影響はあまり受けていぬみたいのう」
その古臭い喋り方とその妙に大きい微笑みは、夢の魔王にそっくりだ。でも、髪の色は違う。この状況から出る結論はただ一つ・・・
この人は昨夜、長い時間僕の部屋の前に立って喋っていた。だから、口調と感情表現は夢と同じで、髪の色は違う。
「さ、朝食の時間だ。ついてこい」
手を掴まれて、強引にテーブルに案内された。そこに座っているのは、片腕で頬杖をついている銀髪の女性だけ。パーティーの皆は、どこ?
「あ、この子が勇者?確かに、いい顔してるね」
「正に。さ、勇者よ、座れ」
ま、ファンへの対応も、勇者の仕事だから・・・
テーブルに座ると、二人は食べ物いっぱいの皿を僕の前に押す。腹は減ってるから、厚意に甘えよう・・・
食べ始めたら、ザクロ色の髪の子が話しかけた。
「さ、今回はまともに自己紹介せむ。妾は竜属性の鱗夢である」
今回?いや、これは初対面だよね?あ、昨夜の記憶はちょっと曖昧だから、酔っぱらいながら歩き回っていたとか、そんな風に出会ったかも。
「そしてあたしは蝶属性の揚羽。一応鱗夢の友なんだ。で、あんたは?」
夢の中で、揚羽と呼ばれる悪魔もいたな。そいつも、銀髪をしてた。ま、夢で鱗夢の髪色は違ったから、揚羽の髪色が一致してることは多分偶然。
「・・・僕は勇者だ」
パンを頬張る合間に名乗った僕に、揚羽は不満そうに即答えした。
「そんなのどうでもいい。名前は?」
勇者であることは、どうでもいいって?この人、変わってる・・・
あ、魔界に近い人間村は悪魔と馴れ合ってると、聞いたことがある。なら、「勇者」という魔王を倒す役割はその人にあまり意味を持たないんだろう。
「名前はない。生まれた時に魔王を倒す運命が決まり、一生「勇者」と呼ばーー」
「名前がないって?」
揚羽は悪戯っぽい微笑みをうけべた。
「弟に名前がないなら、姉が名付けるべきじゃない?」
「いや、僕は一人っ子でーー」
「あ、そうだな」
鱗夢は笑いながら僕の肩に手を回した。その抱擁から抜け出そうとしたけど、鱗夢の腕力は僕のより遥かに強くて、僕を掴んだ腕はびくともしない。
「じゃ、妾ぞ勇者に名を授ける」
その発言に、夢の出来事を思い出し、僕はビックリした。
「え、なぜ鱗夢さんが?!」
「妾は勇者のお姉ちゃんであるから。昨日決めたでは無いか?」
鱗夢は困惑した顔を僕に向けた。いや、なぜ?!この場合僕の方が困惑するべきじゃない?!それに、顔近すぎ!鱗夢の息が顔に当たってくすぐったい!こんな破廉恥なこと、魔法使いとでもしてない・・・!
「いや、そんなの認めた覚えはないけど?!」
クスクス笑いながら、揚羽はパンの一切れを口に入れた。ーー光の悪戯かもしれないが、その大きく開いた口の中に、尖った牙が見えた気がする・・・
「勇者くんは勘違いしてるようだね。ここは魔界だから、魔王の決断はあんたが認める必要はない」
「揚羽、妾にそんな権威はーー」
「鱗夢は黙ってて名を考えてて」
「あ、ああ」
魔界?魔王?まさか。聴き間違いに違いない。あれは、ただの夢だったはず・・・
「・・・待って。今、揚羽さんが何て言った?」
「ん?」
揚羽も、困惑した顔を僕に向けた。
「ここは魔界で、鱗夢は魔王」
「・・・え?」