Surfacing From a Dream
ハッとして、僕は目を覚ました。
ここはどこだ?周りを見ると・・・ここは宿屋に違いない。
ここが宿屋なら・・・その変な魔王はただの夢だった。魔界に一番近い人間村を、僕らはまだ出ていない。そうだ。そうに違いない・・・
安心した。そんな強力な魔王、倒せる訳がない。魔王が倒せなかったら、僕は死なねばならない。だから、それがただの夢で、安心した。
部屋から出て廊下に入ると、階下から大きい声が聞こえてくる。だれの声?頭がちょっとぼーっとして、会話が聞き取れない・・・バードがまた何かをやらかしたのだろう。
階段を降りて食堂の方を見ると、そこに大勢の人がテーブルに座って食べている。パーティーの皆はどこだろう?あいつらを探そう・・・
僕はぶらぶらと食堂を彷徨った。そして、聞き覚えのある名前が聞こえて来た。
「鱗夢、あの子を本当に弟にする気なの?」
鱗夢とは、あの魔王の名前じゃなかったっけ?
「ああ」
いや、鱗夢は夢の中の魔王の名前だった。多分、僕が寝ていた間に、廊下からその名前が無意識に聞こえて夢に組み入れてしまった。
「でも、あいつ勇者だから、危ないかも」
僕が危ない・・・?ま、勇者とは罪を暴く者だから、汚職に巻き込まれている者の視点から見れば、僕は確かに危ない・・・
「弟の誤りを正すのは、お姉ちゃんの仕事であるぞ」
「そう?まあ、降る星の祝福がある鱗夢を殺せるものはこの世に存在しないから、別に危なくないね」
「いや、降る星よりも、時間の経過が遥かに強かろう。妾もいずれ、すべての生あるものと同じくーーあ、噂をすれば、勇者がやって来たぞ」
突然、食堂は静まった。皆は僕に向き、僕の次の行動をただ待つ。
こう言う対応は、別に稀じゃない。僕は勇者なんだから。でも、普通はパーティーの誰かが手を掴んでテーブルに案内する。大抵は魔法使いが赤面しながら手を掴んで来る。なら、魔法使いを待とう。
でも、食堂の人込みをすり抜けて僕の前に現れたのは、魔法使いじゃなく、ザクロ色の髪で僕より背が数センチ高い女性だった。
誰だこの人?見覚えがあるような感じがするけど、ザクロ色の髪をした人を一度も見たことがない・・・いや、髪の毛がザクロ色であることは、肉体的に不可能じゃない?
「おう、勇者では無いか!よく眠れたそうだな。降星石の影響はあまり受けていぬみたいのう」
その古臭い喋り方とその妙に大きい微笑みは、夢の魔王にそっくりだ。でも、髪の色は違う。この状況から出る結論はただ一つ・・・