Fallingstar
「そうする。魔王でも防げない魔法を、見せてやる」
魔法使いはテーブルの向こうから僕へ腕を伸ばし、手のひらを広げた。
「桔梗よ、燃え咲かれ!」
突然、僕は首に熱い感じがした。
首に?僕の首に、なにがある?
首のあたりを手探りすると、指が小さなカップセルに触れる。
ーーそうだ。これは魔法使いが昔僕に渡したネックレス。カプセルの中の濃い菫色の液体は桔梗のエキスって言ったんだよね。
でも、このカプセルが今爆弾してるなら、それって、このネックレスは初めからプレゼントじゃなく保証だったのか?
魔法使いが、「このネックレスは勇者くんを守る」って言ったこと、嘘だったのか?
いや。そんなの、どうしても信じることは出来ない。魔法使いはいい人だから・・・義務感が強くても、魔法使いは根本的にいい人なんだ。多分・・・多分、このエキスは魔法使いの魔力が込めている。だから、守ることも攻めることも出来る。そうだ。魔法は守る力でもあって、攻める力でもある。魔法で生きれば魔法で死ぬ。表裏一体。そんな仕掛けがあると、信じる。
カプセルから硬化した魔力で出来てる巻きひげが八本這いずり、クモがハエを捕まえるように僕の体を取り押さえた。巻きひげは溶けてタールのような液体になって、僕の全身を覆う。
「これで、魔王でさえ勇者くんを助け出せない。さ、人間界のために死んでくれ」
そして、そのタールは紫紺に光って、僕は消滅の炎に焼かれた。
そして一瞬も経たない内に、僕を囲む炎は立ち消えた。
「効かなかった?!」
呆然と眺める魔法使い。
僕には、傷一つも付いていない。
鱗夢は何もしなかったのに、魔法使いの炎は簡単に立ち消えた。
「先日、貴様ら皆が妾と揚羽の話を聞いたのであろう?降星石を集める話。なら少しは考えよ。妾は降る星の力で魔法を無に返し得る。降星石は同じ力を持つ。なら、魔界はなんのために降星石を欲す?」
神官は目隠しの位置を直す。
「だから殺せないと言っていました。空気での魔力の流通は妨げられています。目を凝らせば判ります。ここで魔法で戦うのは無駄です」
「そんな結界・・・存在しないはずなのに・・・」
「そう、存在せぬはずだ。我々悪魔が新しく開発したものだからな。この結界の中、魔法で争うことは不可能だ。それが、降星石の力。魔王の力をも超える、降星石の力だ」
鱗夢はポケットから何かを取り出す。形は小石みたいなものけど、色は全く見えない。それは光のいたずらか?それともただ鱗夢の手の陰にあるのか?
いや、待て。光や陰の問題じゃない。その小石は、鱗夢の鱗と同じく、光を反射しない黒だ。剥ぎ取った鱗、じゃないよね?
「これが、降星石だ。荒地から集めた物の一つ」
鱗夢はその小石をテーブルに置く。
「触って見ろ」
魔法使いは諦めたかのように椅子に腰をかけたけど、降星石に興味を示さない。
神官は降星石に手を伸ばし、人差し指が小石から一センチくらい離れているところで、手を一瞬止めた。
「感じます。石の表面が渦巻いています」
その指先が石に接触すると、神官は熱いコンロに触ったように即時に手を引っ込める。
「なんてことを・・・正に、悪魔の仕業です・・・」
「おい、神官さん!石はどうなってる?」
興味がないという見せかけが消え、魔法使いは必死に聞く。
「魔力を封鎖する石です。触っている限り、体内の魔力は凝結して、魔法を使えなくなります」
顔をしかめながら、神官は手を擦る。
「そうだ。正に悪魔の仕業である。人間や神は、平和のために魔法を一時的にでも譲ることは決してせぬ」
鱗夢は降星石をポケットに戻し、立ち上がった。
「これで、話は終わったな。貴様ら三人は今からどうする?人間界に戻りたければ、揚羽は昼食の後に人間村に連れてあげる」
神官はまだ手を擦りながら、大きなため息をつく。
「・・・少し卑怯なことを言わせてもらいます。私がここにいるのは、主には巡礼のためです。清石さんをサポートするのは二次的です。勇者は元々教会の者ではないので、勇者が戦闘不能になったら、私はただ討伐隊から脱退して巡礼に戻ります。勇者の義務や魔王とかは教会の問題ではありません。なので、ここで手を引きます」
「あの、こちらからも、卑怯なこと言いたいよ」
神官に続いて、バードは話し出す。
「あたしがここにいるのはね、詩を書くためだよ。清石くんが勇者を捨てることもいい詩になるから、あたしは別にどうでもいいよ。それより、出来れば、あたしは魔界に滞在したい。人間界が聴いたことない詩を書くためにね」
「そうか?なら一緒に赤山に連れて上げよう」
「わーい!ありがとうね、鱗夢ちゃん。じゃ、あたしも今から討伐隊脱退。あ、ちなみに、あたしの名前は久澄。よろしくね」
「そして私はミカエルと申します」
「あんた二人も、人間界を裏切るって言うのか・・・?」
魔法使いは怪訝な顔をアリシアと久澄に向けた。
「誤解はしないでください。魔法使いさんと違って、私と久澄さんは元から国王から任務など託されていません。なので、裏切る対象はありません。魔法使いさんも、いい加減諦めて王都に帰った方がいいと思います。この状況で、魔法使いさんは何も出来ません」
「「勇者が魔王に囚われてしまった」とか、そんな話でっち上げればいいんじゃない?」
魔法使いは息を強く吐き出し、起き上がって部屋を出た。
部屋に残っていた僕ら四人は、何も言わず食べ始めた。




