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ララと黒竜

 ーーその頃。

 聖女食堂にて、ララは黒龍と二人で膝を突き合わせて話し込んでいた。

 黒竜にとっては魔王以外との交流は楽しいらしく、若い男の姿で上機嫌にインタビューに答えてくれた。

 人間の姿になっても、ララよりも二回りくらい大きな体の男だけれど。


「なるほど、ね」


 ララはノートを片手に、黒竜から聞き出した真実をまとめた。


「シノビドスは魔王。魔王の本名は尾藤志信ビトウシノブ。聖女異能を持つ男だった。竜繭半島ドラゴコクーン統一のために初代国王と協力し、黒竜と契約を結んで魔王になった。けれど……時代の流れでいつの間にか『初代国王に征服された、竜繭半島の魔王』ってことにされちゃってたわけ、ね」

「そういうこと」


 ちなみに主従契約を結んでいるので、黒龍は魔王の名前ーービトウシノブの名を口にできないらしい。

 ララに説明するときでさえ、「ビールのビに、トーマスのト。そして……」という感じに説明した。

 話はわかった。しかしまだララには疑問があった。


「でも聖女異能持ちなの、あれが? 光輪ないじゃない」

「契約の時に食ったからなあ、俺が」

「あれ食べられるの!?」

「魔力の質や強さで味、全然違っておもしれーんだよ。魔王サマの光輪わっかはワカメで出汁取ったような味したぜ。ヒイロちゃんはどんな味なんだろうなあ」

「食べないであげてよ……」


 前にヒイロが言っていた。光輪は他人に触られるとしんどいくらいデリケートなところだったはずだ。

 それを食べられてしまうなんて、どれだけの苦痛を伴ったのか。

 ララはノートを閉じ、はあ、とため息をつく。


「つまり国のために、光輪まで食べさせて、ずーっと貧乏くじ引いてるってわけね……」

「そ。ヒイロちゃんと魔王様ってそっくりなんだよね」

「ほんと。話聞いてると、結局王国を許しちゃいそうよね、魔王アイツ


 話を聞けば聞くほど理不尽な話だ。


「まー、自分のことになったら我慢しすぎるやつだけど、今回はヒイロちゃんを守るって目的があるからよ。ちゃんとケリつけて戻ってくるだろうさ」

「そうね。ヒイロも自己犠牲はいくらでもしちゃうけど……誰かを守るためなら、ちゃんと立ち向かえる子だから。きっとヒイロも大丈夫よね」

「逆に言えば、そういう時じゃないと立ち向かえないんだよな〜」

「ほんと、それなのよね」

「危なっかしいよな〜」

「ね〜」


 パーティではヒイロに頼り切りだったララと、魔王の光輪を食べて契約した黒竜。

 二人の人生に負担をかけてしまっている罪悪感を持つ者同士、顔を見合わせて苦笑いする。


「そうそう。ヒイロが焼いて作り置きにしてくれたパンケーキがあるの。一緒に食べましょうよ」

「おっ、いいな」

「座ってんじゃないわよ。準備手伝いなさいよ」

「へーへー」


 ヒイロが焼いて作り置きにしていたパンケーキを食べながら、軽口を叩いている場合ではないことはララも承知だ。けれど、笑う余裕があるからこそ色々考えられる。

 甘いものを食べていると自然と笑う余裕が湧いてくる。

 ちなみに食べているのは、薄くフライパンで焼いた甘い生地に、蜂蜜やチョコソースや砂糖をまぶしてくるくると巻いて食べる、甘ったるくて簡単なスイーツだ。

 ララも黒竜みたいにベタベタに甘くして食べたいけれど、事務職になったので節制! というわけで、甘い生地にちょこっとだけ蜂蜜をかけて四つ折りにして口にしている。

 高級茶葉で出した緑の苦いお茶に、甘いスイーツがよく合う。


「そういえば、聖女が生まれるのも大地あんたの加護の一つらしいけど、ヒイロの聖女異能が小麦粉で出るのはどうして?」

「さあね。わかんねえ」


 ララにとって最大級の疑問の一つだった。けれど黒龍はけろりとした顔でいう。


「大地なのにわかんないの、あんた」

「きっとこれは俺じゃなくてさ。魔王様の願いが自然と土地の魔力と絡み合って、効果を出したんだと思うんだよな」


 薄焼きにした生地を摘んでそのまま、あーんと食べながら黒竜は目を細める。


「甘ぁ」

魔王シノビドスの願いって何よ、教えてよ」

「ん。何もかもを失った民でも、すぐに焼いて食べて元気になれる小麦粉を出せる異能は、戦乱で荒れた土地でこそ重宝されるんだ」

「……魔王シノビドスの、民が飢えることがないように、と言う願いが……ヒイロみたいな子を生んだってこと?」

「そうそう。やっぱ獣も人間もさー、美味い飯は基本だよ、キホン。それくらいは俺もわかるぜ」

「確かに……」


 ヒイロの料理は気取らないものばかりで、優しい味で。

 いつだってチャチャっと作って私たちを幸せにしてくれる。 

 光輪を輝かせて粉を出し、楽しそうに料理をする彼女はーーなんだか幸せの原点を知っている子のように思うのだ。 


「もしかして彼女が料理に使う火の魔法を使えないのもーー彼女が周りの人と、食卓を囲むためなのかもしれないわね」

「や、それは流石に考えすぎじゃね?」

「突っ込まないでよ野暮ね! いい事言ったのに!」

「ははは。でもそれ真実じゃねえからなー」


 お茶を飲み干して少し考え、ララは黒竜に話しかけた。


「……ねえ。黒竜」

「ん?」

「もしヒイロと魔王シノビドスがピンチになったら、遠慮なく二人を守ってね」


 ギラギラの金瞳を見開いて、黒竜は首を傾げる。


「勿論そうするけど、あらたまっちゃって、どうしたんだよ」

「ヒイロ、今私やスタッフさんの生計を守ってるでしょ? だからもしかしたら、それを切り捨てられなくて逃げられない事もあるかなって。でも……私はちゃんと、ヒイロが食堂を閉じてもなんとかなるように、影で色々やってるから。だからあの二人が躊躇しても嫌がっても、あの二人は絶対守って」


 黒竜はにかっと犬歯を見せて笑った。


「りょーかい。俺をまだ覚えててくれてる村出身のララちゃんのお願いなら、喜んで聞いてやるよ」

「ありがと」


 ララは微笑み、空を見上げた。


「……早く、帰ってこないかな。明日以降の対策について早く話したいのよ」

「そーだそーだ。全部食べちまうぞー」

「黒竜は食べ過ぎなのよ!」


 二人は魔王シノビドスとヒイロを待つ。

 また笑って、食堂を開けることを願いながら。


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