むちむちぶりっ子聖女
「そういうことだ」
「は?」
「ダッセーーーんだよ、お前は!!!!!」
どん、と足を踏み鳴らし、苛立ちをあらわにするカス、もといカスダル様。
彼は堰を切ったように周囲の注目も気にせず、私を罵倒し始めた。
「ヒイロ!! お前は確ッッかに、建国以来類を見ない聖女異能をもつ『大地に愛されし聖女』だ!!」
「二つ名のご説明までどうも」
「どうも、じゃねえよ!! ご大層な二つ名を教会から与えられながら、その実、『聖女最強、ただし能力は小麦粉で出る』だあ!? あまりにクッッソダサいんだよ!!!!」
ヒステリー起こすと結構面倒なんだよなあ、と私は小さくなる。
小さくなりつつも、ちょっとムカついたので言い返したいことは言い返す。
「そう言われてもカスダル様。さっき黒竜の吐息一つ避けられずにグロいことになって死にかけたじゃないですか。その時なんとかお好み焼きを口に突っ込んで、息を吹き返したの覚えてます?」
「うるさい、お前の防御異能が間に合わなかったのが悪いんだろ!?」
「いやそう言われても。あまりに無茶な特攻且つあっけない即死だったせいで、私だって不満が残ってるんですよ?」
「不満ってなんだ、不満って!?」
「お好み焼きの麺、もうちょっとパリパリにしたかったかなってあたりが自分的には70点だったんです」
「んなとこ気にしてんじゃねえ!!!!」
どん、と馬車の壁を殴る。怖い。
「ま、まあ勿論、秒で復活してくださってホッとしましたよ。……あ、そうそう、味はいかがでした?」
「美味かったさ!!! 悔しいほどな!!!」
「よかった〜!!!」
「いや、そういう話じゃねえんだっつってんだよ、俺は!!!」
カスダル様は髪をぐちゃぐちゃに掻き乱す。
わがままというか坊ちゃんというか、カスダル様は思い通りにならないことがあるとすぐに癇癪を起こす。けれど美形だし家柄もいいし、基本的にこの駄々っ子を知ってるのは内輪だけだし、多少キレてても彼の方が正義に見えてしまう。いいなあ、イケメンって徳だなあ。
「あああ、ケガするたびに粉物食ってたまるか! 緊張感なさすぎるだろ! ずーっと美味しそうなソースの匂いしてるし!」
「緊張感って……そもそも本当に討伐するわけじゃない儀礼的な挑戦なのに、そんなこと言われても」
「口の減らない女だな、ああ?」
カスダル様がぎろり、と私を見下ろす。
ーーやばい、この雰囲気、絶対平手打ちが飛んでくる!
「カスダル、まだ馬車出さないの?」
そう思って防御の体勢を取ろうとしたところで、凛とした声の美女がカスダル様の横から出てきた。
燃えるような真っ赤なロングヘアを膝裏まで伸ばした黒装束のおしゃれな魔女さん。
18歳のララ・スタヴィチューテさんだ。身分は男爵令嬢。
ララさんは勝ち気な紫瞳を眇めて私を見下ろした。
「今だから言っておくけど、あたしもあんたの追放には賛成なのよ、ヒイロ」
「ララさん……」
ララさんが隣に来ると、カスダル様はわかりやすくデレっとなる。ムチムチで豊満な胸元に、明らかに視線を奪われている。
ララさんはカスダル様を見ずに、髪の毛をかきあげながら溜息をついた。
「あたし緊張感とかそういうのはどうでもいいんだけど、太るのよ」
「太る……とは?」
「このあいだ言われたのよ。久しぶりに会った実家の嫌味な親族たちに『お嬢様、最近なんか丸くなりました? 肉厚で魔王倒すんですか?』なんて!!!」
「あら、まああ……」
「ほんっとムカつく!故郷では一番の美少女扱いだったあたしが!!! あたしが!! よくも!! あんたはなんで細っこいのよ! 骨格からムカつく!!」
「ひいい」
そのまま、ララさんは上からぺちぺちと杖で叩いてくる。
私を叩こうと手をかざしていたカスダルは満足したのだろう、私を見下ろしてにやにや笑っていた。
そんな風にしていると、ララさんと私の間に黒い影が割って入った。
「ララ殿ララ殿、八つ当たりはダメでござるよ。そういうのはちゃんと運動して痩せるのが一番で」
「あなたは黙ってなさいよシノビドス・イガハン!!!!」
「いたたた」
私を庇うように杖で叩かれ出したのは、黒装束のシノビドス・イガハン。
なんでも遠い異国から来た人らしいんだけど、何かと素早くて気遣いが細やかで、頼れる男の人だ。主張が強めメンバーの中で緩衝役をかって出てくれている。
ひょろっとした体に黒装束、頭巾を被って白いお面をつけたシノビドスは、顔は知らないけれど何かと私を庇ってくれていい人で。
お好み焼きとか箸巻きとかいう料理も、シノビドスが教えてくれたレシピだったりする。
「しかし率直なところ……」
シノビドスは私を見下ろして、申し訳なさそうな声音で呟く。
「拙者も、ヒイロ殿がこのパーティから離れるのは賛成でして」
「えっ」
割と仲良くしていたシノビドスにまで言われて、私はグサリと胸が痛くなる。
シノビドスにも要らないと思われてたのだとしたら、ちょっと、ちょっと堪えるんだけど。
「シノビドス……」
「ヒイロ殿、」
何かを言いかけたシノビドスの言葉を遮るように、カスダル様が手をパン!と叩いた。
「ハイハイ!! というわけで! パーティには新しい聖女を迎える! ささっ自己紹介を」
「はーい♡」
呼ばれて、他の馬車から銀髪巻毛をふわふわのボブにした、美しい女の人が現れた。
睫毛が長くて灰青色の垂れ目で、美しいS字曲線の肢体に纏うのは、私と同じーー聖女の白装束。
聖女の証である『光輪』が、ぷかぷかと頭の上に浮かんでいる。
肩幅くらいある『光輪』の私より二回りほど小さい、手のひらサイズの可愛い『光輪』だ。
甘ったるく、彼女は私に首を傾げて微笑んだ。
「初めまして。聖女のヴィヴィアンヌ・パスウェストです♡ 年は16、能力は赤銅ですが、精一杯がんばりま〜す♡♡」
「というわけだ、ヒイロ。王都の屋敷にくれば手切金は寄越してやる。じゃあな」
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