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倉庫爆破のお詫びを兼ねて。

 翌日。

 私は早朝から女冒険者の皆さんと共に乗合馬車に乗り、昼過ぎには魔王城そばの停留所へと到着した。

 親切な冒険者さん達と別れて、私は先日爆発を起こした倉庫を確認しにいく。もともと廃墟だったそこは、あの日爆発したままだ。


「お嬢ちゃん、そんな所で何をやっているんだい」


 私に声をかけてくれたおじさんは、明らかに冒険者という身なりではない。ごく普通のパンツにジャケット、ハンチングを被った男の人だ。手には箒を持っている。


「突然失礼します。おじさま、この停留所を管理しているメイタルト村の方ですか?」

「ああ、そうだけど」


 質問に質問で返されて、おじさんは面食らった顔をしつつ頷く。


「私、メイタルト村に行きたいんです。それでもしよかったら、村長さんに繋いでいただきたくて」

「村ぁ?」


 心配する親切な表情は一転、おじさんは露骨に怪訝な顔になった。私を上から下まで眺め眇めつ、警戒を露わにしている。


「君みたいな女の子が、どうしてまた……」

「実はこの倉庫を爆破したのは私なんです」

「えっ」


 驚くおじさんを前に、私は頭に被ったスカーフの一辺を捲る。

 窮屈そうにしていた光輪が、ぽんと飛び出して存在を主張するように淡く輝いた。


「え、君、聖女様かい!?」


 予想外だったのだろう。おじさんは目を瞠る。


「ええと、待ってくれ。倉庫を爆破したとか、聖女様が一体……村に用事なんて……えっと……」

「村長さんに、倉庫を爆破したことをお詫びしたいのと……少し、ご相談したいことがありまして。顔繋ぎをお願いすることは可能でしょうか?」

「まあ、それくらいなら別にいいけれど……」


 しかし君みたいな子がなんでまた、そんなことをぶつぶつと首を捻りながら呟きつつ、おじさんは荷馬車に私を乗せ、そのまま村まで送ってくれた。


「帰りは最終の乗合馬車に間に合うように帰るんだよ?」

「はい。ご無理を聞いてくださってありがとうございます」


 馬車に揺られながら、私はおじさんにお礼を言う。そして景色へと目を向けた。

 徒歩でも大したことのない距離だけど、荷物が多いから荷馬車を使っているらしい。すぐに村と畑が見えてきた。

 周囲の畑は半分ほど耕作が追いついておらず、耕作地の半分ほどに草がぼうぼうに生えている。集落は遠目から見ても半分ほどは廃墟に近いボロ屋だった。

 耕作が追いつかない畑に、明らかに修繕が追いついていない家屋。

 働き盛りの男手が不足した集落の、典型的な状態だ。


(やっぱりね……)


 魔王の森に通っていた頃から気になっていた村だったが、やはり予想は当たりだったようだ。ここは恐らく、訳ありの人々だけが暮らす村。

 村に入った荷馬車は、一旦厩に戻される。そこから私はおじさんに連れられて村長宅に向かうことになった。

 外の人間、しかも聖女が来たのが珍しいのだろう。人が続々と集まってきた。


「女の子だ」

「聖女?」

「頭の輪っか、何あれすごいでかい」

「物とか乗るのかな」

「焦げるかな」


 私が村長宅にお邪魔して応接間の椅子に座った頃には、窓の外にはびっしり村の人たちが顔をくっつけていた。物珍しい来訪者くらいしか娯楽がないのだろう。

 村長さんは年老いたおじいさんで、片目を怪我で失っていて、足が不自由なのだろう、杖をついてようやく歩けるといった様子だった。

 出された水が入ったコップも少し欠けている。


「で、つまり……」


 私の自己紹介や事の経緯を聞き終え、村長さんは、話を切り出した。 


「君があの倉庫を壊したというのだね」

「申し訳ありません」

「あの倉庫は元々私たちが王都の商人に貸し出していたが、その後賃料を踏み倒されて、そのままになっていたものだ。元々壊れていたものだったし、そう気にしなさんな」


 村長さんの話によると、あの馬車の停留所の敷地は村所有の敷地で、王都の商人や貴族家から利用料を取って収益としているらしい。不動産収入があるというのは旨みがありそうな話だけど、どう見ても村の経営が安定しているように見えない。

 やはり、踏み倒されたり安く抑えられたりすることが多いのだろう。

 私は単刀直入に切り出した。


「あの倉庫の場所、私に貸してもらえませんか? 倉庫を一旦解体して、食堂を開きたいんです」

「食堂……?」


 村長さんが隻眼を剥く。外の野次馬さんたちもざわざわし始めた。


「あんな女の子が食堂……?」

「こんな土地に食堂を建てても、どうせ穢れてるとか難癖つけられて売れないんじゃないか?」

「勘弁よ、また踏み倒されるなんて……」


 外野の声を聞きながら、村長さんも渋い顔をして顎をさすった。

 もしかしてこの野次馬さんたちが放っておかれているのは、リアルタイムに村の総意を聞くための意味もあるのかもしれない。なるほど。


「ヒイロさんと言ったかね。聖女様とはいえ、若い女の子一人がいきなり食堂を切り盛りするなんて無謀としか思えない。それにあそこは荒っぽい冒険者や貴族が集まる場所。安全の意味でもおすすめ出来ないなあ」


 村長さんが言いたいことはわかる。ここで机上の空論で押し問答をしても意味がない。私は窓の外の野次馬さんにも目を向けながら、笑顔で提案した。


「ところで村長さん、お腹すいていらっしゃいませんか?」

「いつだって空腹さ」


 苦笑いを返される。私はことさら明るい態度で、手をぱん、と叩いた。


「ではとりあえず、私の料理を食べていただけませんか? 皆さんも一緒に。台所をお借りできれば、後は材料もここにありますし」


 ここ。そう言って私が指さしたのは頭上の光輪だ。


「あの光輪食えるのか?」

「もしかして揚げ物?」


 野次馬さんが困惑気味だ。流石に光輪は食べられません。美味しそうに見える時もたまにあるけど。


「私の二つ名は『大地に愛されし聖女』。人呼んで粉物の聖女です。無限に出てくる粉物で、皆様にご馳走させてください」


 あちこちから「お腹すいた」「せっかくだし作ってもらおうか」と声がする。村長さんはしばらくじっと考えていたが、


 ぐううう……。


 お腹の音で、私の提案に快諾してくださった。やったね!

数ある小説の中からこの小説をお読み頂き誠にありがとうございます!

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お手数おかけしますが、宜しくお願い致します。

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