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「ビッグス・パイダー」

 目的地の洞窟目指して走る馬車の中、オレはセレンと隣り合って座る。偶然とはいえ悲しいことに目当てのフェリーヌさんは対角線上の遠い所だった。


「それでどうしてシャン君が? 」

「大きな声では言えないけど彼はあの伝説のシャルルマーニャ十二勇将を呼ぶことが出来るのよ」


 御者に聞こえないようにと声を潜めてセレンが二人に伝える。その意図を汲んだのか二人は顔を近づける。


「え、あのシャルルマーニャ十二勇将を? 」

「凄いじゃんシャン君! 」

「まあ……へへ」

「で、でもAランクのモンスターってそんな凄い人を呼ばないと歯が立たないのかな? 」

「保険よ保険、彼にはいざと言う時私の合図で動いて貰うわ」

「確かに後ろにそんな凄い人達を呼べる人がいたら心強いかも」

「そ、そうだね」


 反発されることも危惧していたけど、すんなりと二人は受け入れてくれた。セレンの思い通りになったのは(しゃく)だがこのパーティーで良かったのかもしれない。


「さて、それなら今度はワタシ達の番ね」

「番って? 」

「ワタシ達の実力を貴方に見せるってことよ、洞窟の目標に着くまでに何とも遭遇しないなんてあり得ないのだからたっぷり見せてあげるわ」


 セレンは自信満々に言った。


 〜〜

「驚いたなあ」


 森で遭遇した狼と闘う三人を見て呟く。狼を真っ向から斬り裂くパワーのフェリーヌさん、スピードで狼の突進をひらりと(かわ)し隙を突くルミさん、そして両方を兼ね揃え周りに指示も出すセレン。Aランクも納得の最強チームだ。もしかするとSランクというのも夢ではないのかもしれない。


「三人共剣を使うんですね」

「そう言われるとそうだね~」

「い、色々試したんだけどね」

「モンスター相手ならワタシ達、もう襲ってくるのはいないみたいね、それなら先を急ぎましょう」


 セレンの言葉を合図に馬車に乗り洞窟を目指す、その道中目標が何なのか知らされていないことに気が付いた。


「そういえば、洞窟行くのは分かったけど目標のモンスターはなんなんだ? 」

「ごめんなさい言い忘れていたわ、目標はビッグス・パイダーよ? 」

「ス・パイダーってあの足が沢山あって巣を作ってるやつか? 」

「そ、それの大きいのということ? 」

「辛くも生き延びた戦士の報告を読むと……そうみたいね」

「うえ~ボク、ス・パイダー苦手」

「大丈夫ですよ、フェリーヌさん。オレはス・パイダーには慣れていますから」


 すかさずフェリーヌさんに対してアピールをする、貧乏宿生活で毎回ス・パイダーと顔を合わせるのですっかり慣れてしまった経験がこんな所で生きるとは人生何が起こるか分からないものだ。


「ありがとう、シャン君、とても頼もしいよ。でも珍しいね、セレンが誰かに言われるまで依頼内容を言わないなんて」

「う、うんもしかすると初めて……かも」

「たまたまよ……たまたま」


 指摘されたセレンは顔を赤くしながらオレを見る。


「……そうよ、貴方のせいよ。貴方が入るってことをどう伝えようかとか考えたせいでごちゃごちゃになってしまったのよ! 」

「おいおい、オレのせいかよ」

「そうよ、絶対今日は役に立ってもらうんだから! 」


 セレンがぷいと顔を背ける。その様子を見てフェリーヌさんが笑う。


「何か子供っぽいセレンも初めて見た気がするな~」

「あ、アタシもそう思う」

「ちょっと、それは……それも彼のせいよ」

「それもオレのせいかよ! 」


 このまま何もかもオレに責任転嫁されるのではなかろうか? そんなオレの疑問を他所(よそ)に馬車は進んでいった。


 ~~

「洞窟内は光がない私が松明(たいまつ)を持って先導するわ」


 セレンはそう言うと火打石で松明の火を付け残りをオレに手渡す。確かに剣を腰に下げているとはいえ使う機会なんて来ないだろうし荷物持ちとなるのは当然の流れだ。


「それじゃあ行きましょう」


 セレンの後について皆で歩き出す。流石一度戦士達が奥まで進んだとあって洞窟内で敵と遭遇することは無くスムーズに進むことが出来た。モンスターに警戒しながら十分程進んだ時だった。


「あら、明かり? 」


 目の前から差し込む光が眩しくて思わず目を瞑る。


「きっとビッグス・パイダーがいるところには陽が差し込んでいるんだよ」

「た、たしかにこの洞窟はビッグと付けられるモンスターが生息するには狭いね」

「予備を持ってもらったシャンには悪いけれど松明の灯りだけで戦わずに済みそうでよかったわ」

「はは……まあ安全第一だからな」


 確かに松明を持ちながら大型と戦うなんてやりにくそうだと想像しながら進み洞窟を抜ける。洞窟を抜けると数分振りの太陽を浴びる。


「やっぱり陽の光が差し込んでいたんだね、でもモンスターは何処だろう」

「おかしいわね、地図の場所はここで間違いないのだけれど」

「す、住処(すみか)が変わったとか? 」

「天井がありませんからね」


 と口にしながら辺りを見回す、確かに周りにはまるで天井を壊したかのように通って来た洞窟の岩とそっくりな岩しか見当たらない。

 ……ん?

 ふと奇妙な影があることに気が付いた。木か三人の影だと思っていたがこれは違う。この独特のフォルムはもしや……半信半疑で頭上を見上げて腰を抜かす。


「ど、どうしたのよ……」

「大丈夫シャン君」

「そ、空に何か……」


 三人が一斉に頭上を見上げる、そして数秒固まった。空には天井の代わりにビッグス・パイダーの名にふさわしい全長八メートルほどのス・パイダーが巣を張っていたのだ!

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