「最強の能力」
5分位するとセレンがドアを開いた。
「気を利かせてくれたのね、ありがとう」
「まあ、そんなところだ」
先程まで殺されかかった相手にお礼を言われるというのに奇妙な感情を抱きながら中に入るとカレンさんの姿はなかった。どうやら続いて五分ということだ。
「それで、今のはどういうことなの? 今目の前に人はワタシの事を知っていた、昔のことも家のことも知っていた、本物のお母さんだった。どういうことなの? 」
「どうって言われても……どうやらオレは五分間だけ死者を現世に呼び戻せるとしか」
「俄かには信じられない話だけど、信じるしかないわね。騎士団が【奇術師】を警戒していたのもこれで分かったわ」
セレンの言う通り、騎士団が【奇術師】を連行する理由はこれで分かった。一時とはいえ死者を呼び戻すとなると混乱が起きてしまう。
「でも丁度良かったわ、貴方の能力はワタシ達にも役に立つ、これからはワタシのパーティーに【戦士】として加わりなさい? 」
「はあ? 何を言っているんだ? 何でオレがお前なんかと」
……フェリーヌさんはともかくとして。
「まだ自分の立場が分かっていないようね、ワタシがその気になれば今から貴方の首を絞めることも騎士団に突き出すことも可能なのよ? それとさっきの件も不毛にしてあげるって言ってるの、これ以上の譲歩はないでしょ? 」
「そっちこそ自分の立場が分かっていないようだな」
「なんですって? 」
「お前の考えなんて手に取るように分かる。オレにこういうことをさせたいんだろ? 『召喚』出でよ、シャノルマーニュ十二勇将最強の騎士、ポーラン! 」
ポーランの肖像画を頭に浮かべ名を叫ぶ。狙い通り、大層な鎧に身を包んだ戦士が姿を現した。
「ウソ、本当に呼べるなんて」
「ハハハハハ恐れ入ったか、さあポーラン! あの女が『ワタシを下僕として貴方のパーティーに入れてください』と懇願するようになるまで痛めつけてやれ! 」
いくら新進気鋭の戦士とはいえ伝説の戦士には及ぶまい、と高らかに宣言した次の瞬間、身体に激痛が走る。
……な、なんだ何が起きた副作用か?
薄れゆく意識の中「俺様に命令すんじぇねえ! 」という声だけが脳裏に響いた。
~~
「あら、起きたのね」
「痛っ……一体何が」
目の前のセレンに腹部の痛みを訴える。
「貴方、ポーランに殴られたのよ。一応手加減はしてくれたみたいだけど、今日は身体を起こさない方が良いわ。それと……その……ごめんなさい」
「いきなりどうした? 」
「貴方に【奇術師】だからと冷たく接したとか色々の事に対してよ」
「そっか……え? 」
突然のしおらしい対応に困惑する、思えば患部である腹付近も濡れタオルをあててくれたのだろうひんやりとしていた。
「なるほど、ポーランはやることはやってくれたんだな」
「どういうことよ」
「どうってオレの下僕になるって言わせたんだろ? 」
「言ってないわよそんなこと、彼、貴方が気絶したらすぐ消えてしまったし」
「消えた? じゃあ何でこんなに優しくしてくれて謝罪までしたんだ? 」
「当然でしょ、貴方も今日からワタシのパーティーの一員なんだから」
さらりと彼女が言う。どうやらオレは負けてすっかりパーティーの一員にされてしまったらしい。
「でもさっきの見ただろ? 凄い戦士呼んでも従ってくれなきゃ意味がないじゃないか」
「だから、従ってくれそうな人格者を呼ぶのよ、同じ十二勇将のボリヴィエさんとかなら協力してくれるんじゃない? 」
……なるほど、それは盲点だった。シャノルマーニュ十二勇将には文献に残されているだけでもポーランの他にボリヴィエ、ドナルド、ラストルフォ、ピュルパン、カロリマール、スロモン、ネモといった戦士がいる。彼等全員が拒否という可能性は低いし中でも彼女の言う通りボリヴィエさんは従ってくれる可能性が高い。
「でもそんなこと教えて良いのか? ボリヴィエさんが協力してくれたらパーティー抜けるかもしれないぞ」
「それは無理よ、だって貴方の能力だとお母様との会話から判断するに5分が限界なのでしょう? さっきの口ぶりだと戦士になりたいようだったけどモンスター討伐と言っても目的のモンスター以外のモンスターと戦わなくてはならない場合もあるわ、そういうケースを考えると五分では足りないわよ」
「5分なだけで何度も呼べるのかもしれないぞ」
「なら今ワタシのお母様を呼んでみなさいよ」
言われた通り先程と同じようにカレンさんを呼び出そうとする、しかし彼女は現れなかった。
「やっぱりね、5分という制限から疑問に思っていたのだけど、貴方のその滅茶苦茶な能力にも限界はあるのよ、呼び出せるようになる間隔も把握しておきましょう」
「おきましょうって何だよ」
「言った通りの意味よ、貴方のケガが治ってパーティー登録するまではここに泊まるって言ってるの」
「と、泊まるってオレの許可なくそんな。ここ宿だぞ、それにセレンの父親も心配するだろ」
「2人分の宿泊費は払っておいたし父はこの街に住んでいないわよ」
手際の良くオレの逃げ道は全てふさがれてしまったようだ
「それに貴方、そんな身体で食事はどうするのよ」
その言葉がトドメだった。食料のストックもない今ここで彼女に帰られては断食をせざるを得なくなってしまう。観念してオレは彼女との恐らく数日続くであろう同居生活を受け入れることにした。