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「人体切断ショー」

 翌日、ドランの人体切断ショーの会場はたった半日の宣伝しかしていないというのに多くの観客で(にぎ)わっていた。


「人体切断だってよ、金貨一枚で見られるなら見てみようぜ」

「いやよ、どうせ【奇術師】なんだから出来るに決まってるじゃない」

「でも切断してからどうなるのか見てみたいだろ? 」

「それもそうね」


 すっかり寝坊して最後尾に並んでいると通りすがりのカップルがそんな会話をして列に並ぶ。彼等の言う通りだ、例えばこれが棺桶に鎖を巻いて脱出とかだったらこうはならなかっただろう。天職戦士の人が生まれつき力持ちで剣や槍の腕も優れているように天職【奇術師】なんだから何の理由もなく外に移動できる。ただ壁の一枚通り受けたから何だというのだ、と人は来ない。だが人体切断は別だ。その後どうなるのかという他では味わえないハラハラを味わうことが出来る、加えてこれだけ人が集まり下手に騒ぎを起こすと入場料だけ持って逃亡されてしまう恐れからか騎士団の姿もない、何と素晴らしきかな人体切断。タッチの差でドランが披露する資格を得たというのが恨めしい。


「はいどうぞ」


 入場時、金貨を渡すと愛想笑いを返す彼と目が合う。


「そんな顔するな、【奇術師】の評価事変えてやるから」


 彼がそう囁くので「楽しみにしておく」と返した。


 ~~

「レディースエーンジェントルメーン。只今よりワタクシドランのワタクシにしか出来ない人体切断ショーを御覧に入れようと思います」


 そう言ってショーは幕を開けた。助手のエイミーという女性は目を奪われるような堀の深い美人だった。

 ……あんな美人の女性がいるなんて殺したいほど妬ましい。

 オレの嫉妬心なんて知る由もなくドランはステージ上のギロチンの真下に置かれた台の上に横になるとエイミーさんがテキパキと彼の身体に箱を被せるとギロチンの側へと移動する。


「それでは前代未聞の大奇術まで3、2、1……0! 」


 彼のカウントダウンと共に下ろされた刃がスパっと彼の身体ごと台を真っ二つにする。


「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお! 」


 瞬間、彼が断末魔のような叫び声を上げる。


「ははは、【奇術師】の癖に大した役者じゃないか」


 後ろの紳士が笑う。釣られて他の客も笑い出しエイミーさんも釣られたのか苦笑いを浮かべながら何やら彼に囁く。演技は止めた方が良いとでも言っているのだろう。でもドランの絶叫はそれから数十秒止むことは無かった、そして止んだ後は一分待っても彼は口を開かない。

 ……おい、どうしたんだドラン。

 彼が元気に立ち上がる姿を想像する、でもオレの想像が現実になるばかりか台から大量の血が滴る音がピチャピチャと響き始めると状況は悪くなるばかりだ。観客も流石におかしいと感じたのか騒がしくなり始める。


「おい、あれ死んでるんじゃないか? 」


 その言葉が合図だった。


「し、死んでる? ああああああああああああああ! 」


 人々が悲鳴を上げ出口へ向かって走り出す者、黙って席で吐き出す者、笑い出す者と各々の行動をする。阿鼻叫喚の地獄絵図、オレはその様子をボーっと眺めるだけで動けなかった。

 ……死んだって嘘だろドラン?

 未だに動かない彼を見つめる。その時だった。


『シャン、シャンなのか? 』


 脳裏にドランの声が響き渡った。だが彼は動かない。

 ……ああオレだ、どうしたんだドラン。何で動かないんだ。


『驚いたな、シャンは……いや【奇術師】は死者と会話をすることが出来るのか』

 ……死者? 死者ってどういうことだよ!

『言葉通りさ、ボクは死んでしまったんだよ。エイミーが冥途の土産と全部話してくれた。彼女は騎士団と内通していた。図書館に行けば本があるかもしれないと言ったのも彼女だ。そうすればボクがこの人体切断の罠にかかると信じて……』

 ……そういうことだったのか。騎士団めそこまでして【奇術師】を……

『シャン、お願いだ。仇を討ってくれ。今すぐとは言わない、何年かかっても良いボク達【奇術師】の仇を討ってくれ』

 ……分かった。


 スッと立ち上がる、信じられない事に身体は軽かった。ドランが生きていないと分かったのならもうこの場所に用はない、オレは人混みに交じり出口へと向かった。


 ~~

 会場を後にして通りを歩いていると何者かに右手を掴まれ歩みが止まる。


「また会ったわね、前回は逃がしてあげたけど。今回は逃がさないわよ。騎士団に突き出してあげるわ」


 セレンだった。彼女は勝ち誇ったようにそう述べる。

 ……は?

 プツンと何かが切れた。次の瞬間、オレはセレンとの距離を詰めその行動に驚いているすきに左手で襟首を掴み持ち上げた。


「お前達は一体何なんだ、何でオレ達をこんな目に合わせる。オレ達がお前達に何をした、言ってみろよ! ええ! 」

「何って騎士団が捕えろって……」

「それだけか? それだけでオレ達を馬鹿にしたのか? 命を奪うのか? オレがお前に何をしたドランさんがお前に何をしたよおい! 」

「それは……それは……」


 想いのまま怒りを吐き出すと彼女は言葉に詰まり右手の拘束が緩んだのを見逃さずに手を払うと人混みに混ざり隠れる。悔しいが、今のオレでは勝てない。

 ……でも、死者と話せる力、これがあれば

 新たに発見した力への期待と人々への復讐を誓いつつ宿へと向かった。

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