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「究極の奇術」

 目を覚ますと部屋にはベッドとテーブルが一つしかない簡素な宿の天井が見える。幸せな夢を見ていた。フェリーヌさんがオレに凄い甘えてくる夢だった。


「これが夢だけで良いのだろうか、(いな)! オレはこれを正夢(まさゆめ)にするぞ! 」


 声に出すとその勢いのまま部屋を出て支払いを済ませ街へと繰り出す。目的地は図書館だ。悲しいことにフェリーヌさんは一日で袋が破裂するくらいの金貨分、金を稼げるのに対してオレは帽子にお情けで数枚。現実にするには天と地程の差がある。その差を埋めるためにはこの世の中を引っくり返せるような奇術が必要だ、その奇術を記した本があれば……という期待からの行動だった。

 宿から歩くこと数分、幸先が良いだなんて考えたオレは目の前の光景に愕然とする。


「広っ! デかっ! 本多い! 」


 言葉通り図書館は広く三階建てと大きくそのほとんどは本棚と本で埋め尽くされていた。この中からあるか分からない奇術の本を探すのは至難の業だろう。しかも一人で探さなければならない、本来は司書に尋ねればある程度の場所の検討どころか記憶を頼りに本を見つけ出してくれるかもしれない。だがオレにはそれが出来ない。理由は明白、奇術の本を探すのなんて【奇術師】しかいないからだ。そして【奇術師】がいると分かれば騎士団が呼ばれるだろう。バレたら一巻の終わりだ。

 ……だがオレはやるしかない。フェリーヌさんとの明るい未来のために!

 昨日の記憶と遥か先の二人の未来を想像し自分を鼓舞すると本の山へと飛び込んだ。


 ~~

「これも違う……これも……」


 時刻は夕暮れ、覚悟していたとはいえここまで探して成果がまるでなしというのは堪える。昼頃からあるとすれば人が寄り付かないような場所だろうとアタリをつけたにも関わらずこの様だ。


「これ……は……」

「すまない」

「いえどうぞ」


 次の本に手を伸ばすと人の指に触れたので慌てて放す。疲れの余り人がいることにも気が付かなかったようだ。いや人がいるとなるとここを探したのは丸々無駄だったのか?

 愕然としていると男が何やら奇妙な動きをはじめた。笑いを堪えるあまりに身体が震えてしまっている様子だ。


「クククやった……やったぞ、遂に奇術の本を手に入れた」


 男が興奮のあまりそんなことを言う。お目当ての本が見つかったというのは良いことだろう。

 ……ん?


「奇術の本? 奇術の本だって」

「うお……いや違うんだボクは【奇術師】という訳ではなく」

「ならその本オレに譲ってください、オレは【奇術師】なので」

「なんだってボクも【奇術師】だ! 譲るわけには行かない」

「やっぱり【奇術師】かクソ」


 珍しい同業者との出会いだけどこの状況だと嬉しさよりも落胆の方が勝ってしまう。でも悲しいことにこれ以上騒ぎを起こして騎士団が出てくるのも嫌だったので譲ることにした。


「物分かりが良いじゃないか、これはタッチの差でボクの物だ」

「そういうことで良いよ仕方ない、でもちょっと位見せてくれないか? ショーで使う権利は譲る」

「まあそれ位なら良いだろう、せっかくの同業者との出会いをこれ以上汚すつもりはないしタッチの差だったからな」


 そう言うと彼はオレにもその本を読ませてくれた。でも残念なことにそのほとんどがオレが知っている内容だった。ただ一つを除いては……


「人体切断だって! ? 」

「これは凄いな、こんなことが出来るなんて考えてもみなかった。これは世界の【奇術師】の認識そのものを変える凄いものかもしれないぞ」

「確かに切断されても無事ってたのは凄いな」

「よし、それなら明日早速人体切断ショーに取り掛かろう」

「でも、これ助手必要だろ? オレがやろうか? 」

「それには及ばない、ボクには頼もしい助手がいるからさ」


 オレの提案を彼はキッパリと断る。

 助手か……助手がいれば脱出ショー等出来る奇術の幅が広がるも全ての経費が単純計算で二倍となるためオレには程遠い存在だ。その助手すらもいるとはますます妬ましい。


「そういえば、名前聞いてなかったな。なんて言うんだ? 」

「オレはシャンだ」

「そうか、ボクはドラン。シャン、明日は凄いものを見せてやるからな」


 そう言うと彼はポケットから金貨一枚を取り出して手渡す。


「これは? 」

「明日の入場料だ、それじゃまたな」


 彼はそう言うとスキップをしながら去って行った。

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