「蔑まれし者」
「さあさあ、珍しい指噴水ですよ」
「わー指から水が出てる」
「しっみちゃいけません」
5歳くらいの子供が駆け寄ろうとするのを母親らしき女性が止め腕を引っ張り遠ざかっていく。いつもこんな感じだ。この世界ではオレ達人間は占い師に出してもらった転職が全て、職は戦士とか商人とか色々あるがオレの天職は一番悲惨な奇術師だ。
奇術師が何故悲惨なのかというとこのように街の広場で芸をやっても人が集まることはほとんどない、というのもこの指から噴水にしろトリックがないからだ。
トリックがないということは宣言した大抵のことは出来てしまう。そこには見破ろうという楽しみも本当にできるのかというハラハラもない。だから人は集まらない。
「奇術師か、大変だな。これで旨いものでも食いな」
「ありがとうございます」
とはいえ、捨てる神あれば拾う神ありというべきかこのようにそんな身分を憐れんで金を用意しておいた帽子に投げ入れてくれる人もいる。同情というのが悲しいところだが仕方がない。奇術師として生まれた以上こうして街を転々として暮らしていくしかないからだ。
街を転々とする理由は二つ、一つは毎日のように同情してくれる人から恵んでもらうのは忍びないこと、もう一つは……
「やば」
腰に剣を下げている三人組の姿が視界に入り慌てて片付けを始める、しかし向こうの方が早かったようだ。
「ねえ、君、奇術師でしょ」
一瞬で間合いを詰めた戦士が尋ねる、同い年位のピンク色の髪の女の子だった。ツインテールに顔立ちに喋り方とどれもほんわかとしているが職は戦士だ。彼女がその気になればオレは一瞬で自由を奪われ連行されてしまうだろう。
もう一つの理由は、奇術師は騎士団の連中に目を付けられているということだ。理由は不明、一度捕まった奇術師をその後見た者はいないという話まで流れている。騎士団は王に忠誠を誓うもの、戦士はギルドで仕事を貰うフリーランスと違いはあり鎧で判断できるのだが、戦士だからと言って連れていかれない保証はない。
普通の通行人からすれば引き渡した所で報酬もないばかりか連行される時に散々恨み節を唱えられ寝覚めが悪くなるというデメリットしかないため無視もしくは施しをくれるのだが、戦士の場合は騎士団に就職するためのきっかけ作りとして最悪引き渡される可能性がある。
王都から程よく離れており戦士ギルドが存在するため配置されている騎士の数が少ないからと油断せずに念には念を入れて見つからないように巡回ルートや時間を初日に把握し陰に隠れ、戦士がモンスター討伐やら草刈りの手伝いやらをしている昼間を狙ったのだがすべて水の泡だ。
しかし伝説のシャノルマーニュ十二勇将に憧れ戦士を目指していたオレが騎士団からこそこそ隠れないといけないのは何という皮肉だろう。
「…………はい」
観念して正直に答える。すると彼女は更に近付いてきた。
「お水頂戴? 」
「はい? 」
「お水、指から出せるんでしょ? 喉乾いちゃって」
「あーはい……どうぞ」
言われるがままに人差し指から水を出す、すると彼女は美味しそうにその水を飲み始めた。
「あー……おいしかった、ありがとう~」
彼女が満面の笑みを浮かべて言う。
……か、かわいい。
その瞬間、ストンと恋に落ちる音がした。一目ぼれという奴だろうか。
……いや身分差だから流石にマズい。上位の戦士様と明日の生活も分からない奇術師だなんて。
「フェリーヌ! こんなところにいて、何してるの! ? 」
「い、いつの間にかいなくなっているから。さ、探したんだよ」
甘い妄想をしているといつの間にか目の前に更に二人の女性がいた。一人は言葉も見た目もキツそうな黒髪ロングのこの女性、もう一人は金髪ショートで大人しそうな子だ。
「何ってこの人からお水貰ってたんだあ~ 名前なんていったっけ」
「シャンです」
名乗るのは初めてなのに彼女は思い出したように手を叩く。
「そう、シャン君、シャン君がお水くれたの」
「く、くれたって……水筒見当たらないよ? 」
「まさか貴方奇術師じゃないでしょうね? 」
……マズい、退散。
勢いよく駆け出す、しかしそれも虚しくあっという間に黒髪の戦士に首を掴まれる。
「ダメだよセレン、お水くれたんだから~ 」
「ア、アタシも恩を仇で返すようなのは良くないと思う……な」
「分かったわよ、フェリーヌとルミに免じて今回だけは見逃してあげるわ」
セレンと言われた女性はそう言うとオレを投げ捨てる。受け身を取れずに尻餅をついた。
……奇術師ってだけでこれだもんな、嫌になるよ。
「大丈夫? 」
またもやいつの間にか目の前に来ていたフェリーヌさんがオレの目を覗き込む。
「はい、大丈夫です」
「良かった、じゃあはい! これお水のお礼ね」
そう言って彼女はオレにずっしりと金貨が入った袋を手渡した。
「ちょっとフェリーヌ、それ今日の貴方の取り分全部じゃない、そんなに渡す必要ないわよ」
「ボクにとっては命の恩人だもん! セレンはああ言ってるけど気にしないでね」
彼女はそう言うとオレにウインクをして人混みの中へと入って行った。
……フェリーヌさんか、あんなに優しい戦士もいるんだなあ。
お先真っ暗だと思っていた人生を照らしてくれる大きな太陽が現れた、そんな気がした。