3:リアトの適合者
「ところでよ、試験って何やんの?有志集ってる立場の癖に、有志で来てくれた人間を試すとか何言ってんの感あるけど」
まあ、言いたいことは理解できる
確かに政府は有志を集っているのに、その有志を一度試すような真似をしている
その理由はただ一つ。「適合する人間」が有志軍に入る最低条件だからだ
適合しなければ、戦うことができないから
「・・・夜人、知らないの?」
「知らないって、なんだよ」
「「リアト」のこと」
「・・・りあと?」
「対植物殲滅兵器のことです。名称が「リアト」って・・・なんで山奥暮らしの僕でも知っているような情報を知らないんです?」
「あはは・・・まあ、山奥で最新情報に疎い生活してたもので」
小暮さんは笑って言うけれど・・・やっぱり野生児やってたのかなこの人
流石にリアトの存在を知らない人に会うとは僕も蓮も予想外で・・・どう説明するか互いに目配せをする
互いに困惑しつつも、最初に口を開いてくれたのは蓮だった
「リアトっていうのは、正宗が言ったように対植物殲滅兵器のこと。自我を持った植物の命の結晶・・・「核」っていう種子を元に作られた武器なんだ」
「・・・植物の、命」
「人類側に協力してくれた植物だそうですよ」
「・・・本当に、協力して自らその命を捧げたのか?」
小暮さんがボソッと呟く
それに慌てた僕と蓮は彼の口元を自分たちの掌で覆った
それから周囲の反応を伺い、誰にも聞かれていないことを確認する
・・・よかった。位置が遠いこともあって誰にも聞かれていないらしい
「夜人。妙なことを言わないで。反乱分子で消されるよ・・・」
「まあ、違法なものもあるかもと思いますが、公式には人類側に協力してくれた植物の種子を元に作る武器となっています」
世間知らず。山奥暮らし。思想が植物より
もしかしなくても、彼は・・・と思い口を開く
「・・・小暮さん、山奥で自我持ち植物と暮らしていました?」
「・・・ああ。正確には、擬態植物と山の中で暮らしてたんだよ。五年前に、一緒に暮らしていた植物が軍に捕まったんだ。有志軍に所属して、軍部に関わりが持てたら何か知れるかなって思って探しに来たんだ。けれど、それなら、殺されてる可能性があるかもな」
「そう・・・」
小暮さんは詳しくは語ることなく、先ほどまではしゃいでいた姿が懐かしく思うほど落ち込んで、静かになってしまう
僕らはどう声をかけたらいいかわからず、口淀んでしまった
「・・・まあ、とにかくリアトはその種子を元にして使用者が一番扱いやすい形に変化を遂げる武器です」
「そんな事情もあるそれは、適合者が極めて少ない部類で・・・この入所試験はその適合を確かめる試験なんだ。適合して、武器を得ないと自我持ち植物とは戦えないから」
残りの説明を早口で僕と蓮が行うが、小暮さんの反応は薄い
普通の火炎放射器も、鉛玉も・・・今の植物には効果がない
目には目を、歯には歯を、植物には、植物を
植物を殺すのは、植物の力がいる
山で植物を相手にしていた時も、刃に干し草を軽く巻いていないと止めをさせなかった
植物を殺すには、普通のものでは意味がない。だから植物を使う
生き残るためには、仕方のないことだけれど・・・
・・・人間と共生している植物を捕まえて、種子にする行為は果たして正しいことなのだろうか
「・・・二人とも、順番だって。番号呼ばれたよ」
「ああ。うん。行きましょう、小暮さん」
「・・・ああ」
落ち込んだ彼の手を二人で引いて、指定された場所へ移動する
「十名、集合しました」
「これで最後だな。では」
前に立った軍人さんは、等間隔で並んだ僕らに説明を始めてくれる
「諸君ら、知っての通り植物と戦うにはリアトが必須だ。順番の都合上、リアトの核になる種子は残り少ない・・・が、上級種二つを含めて十二種類用意している。それぞれ上級種に触れた後、低級種に触れて適合を確認してくれ」
上級種と言うのは、なかなか確認されない植物から得られる種子を指すらしい
一方、低級種と言うのは比較的回収が多い種子のことだそうだ
上級種に適合する人間はなかなかいないと聞く
・・・もしも自分が、上級種に二つとも適合なんて自惚れたことを考えるのも現実を見る前のひとときの楽しみだ
もしもそうだったらと考えている時間が一番楽しい気がする
僕はちゃんと適合できるだろうかと言う不安もまた、この時間の間には存在するけれど
・・・緊張して来たな
「質問、よろしいでしょうか」
「構わない。なんだ」
前の方にいる有志が質問を投げかける
「今回の上級種の核はなんなのでしょうか」
「ほぼ確認されていなかった自我持ちになった月下美人だ」
軍人さんはそれにかけられていた布を取って、僕らに見せてくれる
白い輝きを纏うそれは、綺麗だけれども・・・命の輝きみたいで
とても、重苦しい光だなと、心のどこかで感じる
無意識に視線を逸らすが、他の面々はその光に釘付けらしい
蓮と小暮さんはどうだろうか
ふと、彼らの方を見ると、目を背ける蓮と俯く小暮さん
きっと二人も同じだろう。この光は正直、見ていられない
「これが、核・・・種子ですか?」
「ああ。」
「どうやら夫婦をしていたらしい。もう種子になって五年が経過したが、適合者が誰もいない状態でな。有志側にも試験の材料として回ってくるほど倉庫番をしているような種子だ。そろそろ咲かせてやってくれ」
「ありがとうございます。しかし我儘な植物ですね。まるで女王様みたいだ。まあ、斬首されているようですが」
「・・・」
面白くもない話で、なぜか周囲から笑いの声が飛んでくる
違和感と不快感を覚えつつ、僕らは早速、種子に触れて行った
しかし残念ながら質問を投げかけた彼を含めて、月下美人には適合することはなかった
「・・・よかった。俺、ギリギリ霞草で適合できた。武器は・・・何これ、スピーカー?」
「僕は向日葵で適合できた。予想外なことに大鎌、だけど。一応、合格・・・。でも、小暮さん、大丈夫かな」
スピーカーと大鎌を構えた蓮と僕は未だに月下美人の前から動かない小暮さんの方を見る
まだ、触れていないらしい
「・・・もしかして、夜人が探しに来た人って」
「月下美人のご夫婦さんかもしれないね」
「声かけたいけど、邪魔するなって怒られないかな」
「・・・そうだね。一応、試験だし。ここは見守ろう。小暮さんなら大丈夫だって信じて待とう。もしかしたら、縁もあってダブル適合!とかあるかも」
「そんな・・・」
まさか、と蓮が口にする
そう、まさかそんなことが起こるわけ・・・と思うではないか
「・・・二百番。上級種にふれろ」
「二つ同時に触れても?」
「構わんが」
少し、嘲笑するように軍人さんは小暮さんの問いに答える
周囲からも馬鹿じゃないか、と言わんばかりの笑いが小さく聞こえてくる
とても・・・不愉快で耳障りな音が空間に響いていく
しかし、小暮さんはそんな音に気にすることなく、そっと月下美人の種子へ手を伸ばした
「あーあ。こんな再会したくなかったよ」
彼がそう言いながら種子へ手を触れた瞬間、周囲が眩い光に包まれていく
同時に暴風が吹き荒れる。僕らの種子が変化を遂げた時、こんな強い風は生まれなかった
上級種だから?それとも・・・二つ同時だからだろうか
二つの白い輝きは混ざり合い、彼の両手に収められていく
「・・・会いたかった」
周囲はきっと戦う為の武器と巡り合えて歓喜しているとか的外れなことを考えているだろう
その言葉の本当の意味を知るのは僕と蓮だけ
小暮さんが会いたかったのはやはり、月下美人の二人のようだ
彼がそう告げて、光が集った両腕を外側へ勢いよく振った瞬間、それは僕らの前に現れた
小暮さんの手に握られているのは装飾の凝った「大鋏」
白髪の彼と二つの白銀の大鋏
儚げな表情を浮かべた彼は、慈しむように二つの大鋏を抱きしめた
「・・・上級種、二種適合」
「大鋏・・・か」
呆然とする周囲と軍人さんの合間を縫って、僕と蓮は小暮さんの元へ向かった
「小暮さん!」
「夜人!」
「・・・正宗、蓮。どうしたんだよ。二人して泣いてさ」
「よかったですね。よかったです!」
「よかった!よかった!」
「え、ええ・・・なんか調子狂うな。けどまあ、合格もできたし会えたしで・・・いいのかな、これで」
複雑そうに、それでいて嬉しそうに笑いながら、大鋏と一緒に僕と蓮も彼に抱きしめられる
「合格おめでとう、二人とも」
「ありがとうございます。小暮さんも」
「ああ。ありがとう」
慌しくなって来ても僕らは声をかけられるまでずっと小暮さんの大鋏と一緒に彼に抱きしめられていた
『いい友達ができてよかったね、夜人』
『安心したわ、夜人』
鋏から、男性の声と女性の声がした気がした
二人とも小暮さんのことを知っているようだし、会いたかった植物で間違いないらしい
けれど同時にそれは酷く残酷なことに思えた
なんせ捕まった二人は殺されて、種子にされているのだから
彼らは人間と共生していたのに、なぜ殺されなければいけなかったのだろうか
その疑問だけが残りながら、次の召集がかかるまで三人で落ち着いた時間を過ごしていく
僕、蓮、小暮さんの三人揃っての試験合格という事実を、噛み締めながら




