13:作戦会議は自室にて
東雲組との模擬戦が決まった夜
僕らは部屋の中で明日の演習場である「遺跡」エリアの情報を並べ、作戦を練っていた
「今回のエリアは正宗と夜人が最初に模擬戦を行った木で囲まれた森林エリアとは異なり、石で作られた遺跡を模したエリアになるよ」
「・・・結構、見晴らしがいいよね。僕は隠れる必要がないからいいけど、二人は大変じゃない?」
「まあな・・・」
小暮さんは大鋏を手入れしながら静かに考える
蓮も霞草のスピーカーの調整をし、僕も二人と同じように大鎌の手入れをこなす
夜の時間は基本的に自分のリアトの手入れに費やしている
半年ほど経過しようとしている今、毎日のように触れているそれはやっと手に馴染んできた感覚を得てきた
それは僕だけではなく、蓮もだろう
小暮さんは、少し違うだろうけど
「・・・蓮、確かエリアは東雲が選んだんだよな」
「うん。本来ならば挑まれた側・・・今回なら俺たちがエリアを選ぶ権利があるんだけど、これも夜人と正宗、それと俺と軍属確定組のハンデということで、向こうに決定権が行ったからね」
「なるほどランダムじゃなくて、向こうが・・・。あいつ、バカなのか?」
「多分ね。自分に有利なエリアを選んだんだろうけど、裏を返せば俺たちにも有利なのにねぇ・・・ここは頭を使うべきだったんだけどね」
「・・・?」
二人が悪い顔をしながら、意味のわからないことを述べていく
頭の良い人が考えることはわからないや
「正宗、お前訳がわからない・・・って顔するなよ・・・」
「わ、わからないものはわからないんだから仕方ないだろう・・・!」
「・・・向こうに有利なエリアってことは、俺たちにも有利なエリアなんだよ。正宗。見晴らしがいいから隠れにくいってさっき言ったよね?」
「うん・・・言ったけど」
「それはつまり、障害物が少ないってことだ。大きな武器を扱いやすいともいえる」
「あ・・・」
蓮と小暮さんから説明してもらって、次のエリアがイメージ出来やすくなる
なるほど、そういう見方ができるのか・・・
「しかしまあ、何考えてるかよくわからないな」
「作戦かも、しれないけどね」
「・・・蓮、やっぱり東雲はお前に任せるわ。面白いことにならなさそう」
「あー、やっぱり夜人性格悪いね。いいよ。俺があいつを仕留めてくる」
「蓮が東雲さんの相手をするのかい?」
蓮はどちらかと言えば非戦闘員のポジションだ
僕と夜人を使う立場にある、と言った方が良いだろう
それに彼は戦闘特化のリアトを所持していない。持っているスピーカーも、声を届けることに特化したものだ
そんな蓮がどうやってあの東雲さんを倒すと言うのだろうか
「ああ。俺でも正宗でもなく、蓮にやられた方があいつ、面白いことになりそうだろう?」
「性格悪いなぁ・・・」
少し冷めた目で二人を見るけれど、二人とも平気そうに笑い続ける
もちろん、手入れをする手は絶対に止めない
「蓮はいいの?」
「いいって、何が?」
「だから、東雲さんと」
「ああ。いいよ。普通、こう夜人がやる気ないのなら、消去法であれの相手をするのは正宗になる。でも俺は昼間にも言った通り、東雲の強さの度合いで正宗と戦わせるべきか考えているところ。正宗はまだあいつと戦わせるわけにはいかない。だから、俺がやるだけさ」
十八歳にしては少しだけ小柄な彼は、月影の面々の中ではかなり大人しいし、子供みたいな印象を抱く
しかし、こう半年近く軍人として訓練した影響もあるかもしれないが・・・それでも彼は初めて出会ったときに比べたらとても成長している気がした
彼の場合、それが顕著に出たのだろう
僕と小暮さんも気がついていないだけで、この期間の間に変化があったかもしれない
「色々考えてくれてありがとうね、蓮」
「別に。気にしないで」
「蓮は、最初に出会った時に比べたら強くなったよね」
「そう?二人に比べたら全然だと思うけど・・・」
「うん。なんて言うか、堂々と話すようになったよね。小暮さんみたいな感じ」
「まあ、夜人の真似をしているのは認める。参考にはしたから」
スピーカーを床において、彼は僕らに視線を向ける
「まあ、俺にも思うところが色々あったからさ・・・詳しいことは終わったら話す。今は、東雲組のことだけを考えよう」
「わかった」
「で、後の二人なんだけど・・・夜人、どうしたい?こいつは・・・」
それから僕らは作戦会議に意識を戻していく
次に対策をするべきなのは、他の二人
東雲さんだって、僕らと同じように三人組。彼だけではないのだ
蓮の話だと模擬戦は東雲さん達が現在無敗状態らしい。他の組に比べたらかなり強敵になるだろう。強いのは、彼だけではない
「蓮、その人は?東雲さん並に注意した方が良い人?」
「違う。こいつは指平・・・覚えてない?俺たちがここにきた時、月下美人の種子を馬鹿にしていた奴」
「ああ。あれか・・・」
月下美人が小暮さんに関係ある存在という部分を抜きにしても、不快感を与える発言ばかりしていたあれか
まさか、東雲組に属していたとは・・・かなりのやり手だったのだろうか
どちらかと言えば、強者にヘコヘコしていそうな腰巾着ポジションだと思ったんだけど
「腰巾着じゃなかったんだ・・・」
「いや、腰巾着。そこまで強くないよ」
「・・・じゃあ、適当に倒せば良いんじゃないの?それに東雲さんがやられれば降参してくるんじゃない?」
「違う。俺が聞きたいのは指平をどうするか、じゃなくて夜人はどうしたい?って部分」
「俺?」
「・・・一応、ね。月下美人、ご両親代わりの二人を馬鹿にしていたから、夜人としては思う部分もあるんじゃないかなって思って。夜人が報復したいっていうなら、それ前提で作戦を立てるけど」
「うーん・・・まあ、東雲を蓮がやるっていうなら、特に考えなくていいし。その指平って奴も眼中になかったし。そのあたり、蓮は気にしなくて良いぞ」
「わかった・・・じゃあ、この二人は遭遇した方が雑に処理で」
「「了解」」
本当に、東雲さん以外敵とすら見做さないんだな・・・と思いつつ、二人の腰巾着に対する雑な作戦を僕らは伝えられる
「正宗」
「何?」
「俺が先に二人狩るから」
「は?僕が二人狩るんですけど」
「そういう遊びをしようとする時点で二人とも色々とナメてるよね・・・」
そんな僕らの横で、蓮は神妙な顔をしながら東雲さんの写真を見つめる
「・・・うまくやれれば良いんだけど」
「不安?」
「まあ、どこまで騙せるか、だし」
「騙す?」
「気にしないでくれ。それより、夜人。正宗。一つお願いが」
「良いけど・・・」
「まあ、俺たちにできることならな」
「俺が書いた台本通りに喋ってくれる?」
「「はい?」」
蓮のお願いは、明日の模擬戦を蓮の思い通りに進めるための作戦
僕と夜人は台本通りの言葉を喋り、彼が望んだ舞台の土台を作り上げていく
台本の言葉を全て吹き込んだら、後は全て・・・
蓮の、独壇場だ
・・・・・
次の日
模擬戦前に、僕らは里見上官から呼び出されあるものを受け取った
「いやー・・・里見上官も性格がお悪いですなあ。東雲、挑発させるだけじゃないですか」
「好きにいえ」
今日の蓮は、夏服ではなく冬服の、正式な制服
そして僕と夜人も里見上官から手渡されたそれに着替えて、武器を背負った
蓮とは型が違うけれど、それでもそれは立派な制服
月影の名に相応しい夜色の上質な生地で作られた、軍の制服だった
「挑発か・・・もしかして、東雲さんは軍属リーチかかってたりするんです?」
「霜村、お前賢いな。その頭の周り方、ペーパーテストで発揮してもらえるか?」
「ウグゥ・・・さ、最下位でもこれぐらいは考えつくんです!」
「正宗・・・お前、あれほど教本は読んでおけと・・・」
「そんなに悪かったとは・・・」
座学がないとは言え、テストがないわけではない
簡単な一般常識テストだったのだが・・・なぜか点数が稼げない
そんな僕を横目に蓮は総合三位。小暮さんに至っては首位なのだ
なぜ・・・こんなにも無慈悲な差が生まれているのだろうか・・・それは僕にもさっぱりだ
「まあいいや。それで、東雲さんの軍属リーチと俺たちが軍の制服を身につけて、模擬戦に参加するのってどういう関係なのでしょうか?」
「あいつ、自信をつけすぎたみたいでなぁ・・・ちょーっと今の状態で軍入りしたら厄介なことになりそうなんだー」
「つまり、里見上官は俺たちに東雲の、プライドをへし折ってこいと?」
「うん。使える人間は最大限使いやすいようにしたいじゃん?」
「「「最低だ・・・」」」
ある意味、三人の心が初めて一致した瞬間かもしれない
こんな瞬間でなくてもいいとは思うけどね・・・
こうして、僕らはトリオで挑む初めての模擬戦へ挑んでいく
里見上官の企みも、少し混ぜつつ・・・僕らは戦いの舞台へ、足を進めて行った