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月影の透明と夜  作者: 鳥路
第二章「トリオの模擬戦」
12/21

12:東雲詠一

チーム式での模擬戦が訓練に入り込むようになってからしばらくが経過した

実際訓練が始まったのが四月の頭

だった、はずなのに・・・


しかし今はなんということでしょう

気がつけば蓮の制服は半袖に衣替え。僕らは相変わらず工務服感溢れる服のままだけど

街を覆う植物も成長し、春らしい新芽からしっかり青い植物へ

照りつける日差しがそれらをさらに成長させていく

そう。気がつけば八月下旬です

研修期間も終わりが見えてくる時期だが・・・

僕らは未だに、チーム式の模擬戦を行ったことがない状態だったりする


「いつまでもー戦わせてもらえないー」


両手両足に重りをつけた小暮さんは全速力で駆けつつ、途中に設置されているハードルを易々と飛び越えていく


「だって、僕たちに挑んでくる物好きがいないからー」


僕は大鎌のリアトをバトンのように回しつつ、小暮さんの声とノリに合わせて軽く歌ってみた

最後に小暮さんは僕のところにやってきて、大鎌を持ったままの僕を持ち上げる

俗にいう抱っこ状態だが、春先のお姫様抱っこに比べたら可愛いものだ

最後に揃って死んだ魚の目のように退屈を視線に込めて、思ったことを叫んでいく

僕と小暮さんの考えは、同じだ


「「それじゃあ訓練にならないじゃーなーいー」」

「・・・夜人も正宗も、自主訓練飽きたんだね」


そんな僕らの様子を遠目に、蓮はタブレットを片手に戻ってくる


「おかえり、蓮。偵察ありがとう」

「うん。今日は東雲組と円城組。もちろん勝ったのは東雲組だよ」

「だろうなぁ・・・正宗の家のライバル道場だっけ?」

「うん。お婆ちゃんが目の敵にしているだけかと思ったけど・・・普通に強いね」


小暮さんとの模擬戦の後、家のことを二人には軽く話している

僕の生家がかなりの歴史を持つらしい「霧霜流」剣術の道場であること

祖母が師範だったこと。そしてその霧霜流のすべてを唯一継承したのが僕であること

今、話せることはすべて二人には告げている

東雲との因縁は、話していない。僕自身も記憶にないし・・・

それに僕の家族は、お婆ちゃんだけだから


「普通に?」

「うん。普通。小暮さんほどではないかな」

「基準がおかしいけど、理解はできる・・・」

「まあ、チーム戦で実績は作れなくても、個人でも評価はされるからね。現に僕も小暮さんも軍属内定を貰えたし。けれど・・・一度でもいいからやりたい気持ちはあるよね」

「同感だ。せっかく三人で組んだんだからな。里見上官に直訴しにいくか?退屈だーって!」

「アリかな」

「・・・いいのかな?」

「当然の権利なんだからいいんだよ。ほら、いくぞ」


小暮さんに連れられて、僕と蓮は里見上官が待つ執務室へと向かっていく

しかしそこまで行かずとも、偶然道の途中で里見上官と出会うことができた


「どうも、里見上官。少しお願いが」

「言いたいことはわかる。模擬戦のだろう?お前ら一度も挑まれないもんな」

「挑んでもお断りされますからね。もう重り付きの新体操は飽きました。ハードル走もしたくないです」

「僕も最近は大鎌でバトントワリングができるようになりまして。随分扱えるようになりました。しかし・・・そんなことできても、ねえ?」

「・・・目を離した隙に妙な曲芸まで身につけやがって。自主訓練で遊んでいるかと思いきやそんなことできるようになってたのかよ」


呆れも混ざるが関心も混ざる

そして次はというように、彼は蓮へと視線を向けた


「俺は・・・情報収集を。他のチームの模擬戦を見て、人の癖とか色々とデータを取ってみました」

「見せてくれるか?」

「はい」


蓮からタブレットを受け取った里見上官は、蓮が収集したファイルに目を通す


「・・・よく収集しているな。特に東雲」

「はい。もし、実際に戦うとなると一番懸念しなければならないのは東雲詠一と思いました」

「ほう。では今回、もし東雲組と模擬戦をするなら、東雲とどちらを戦わせる?」

「武器変化アリなら正宗かな・・・と。同じ武器ですし、別の剣術道場の子供だと聞いています。他流の剣士と戦うことで正宗自身の成長も促せる可能性もあります。彼には技術も盗んで欲しい・・・最も、賭けの要素が大きいですが」

「賭け、か。なぜそう表現したんだ?」

「・・・長い時間をかけて精錬された剣術を「不純物」と言っては失礼かと思われますが、正宗が他流の剣術を見て、受けて・・・彼の技術に影響が出る可能性も否定はできません。彼が強くなろうと模索し、他流の影響を取り入れて、強くなる可能性だってあります」

「しかし・・・不純物を取り入れて彼が今まで培ってきた技術を壊してしまう可能性の方が大きい。それほどまでに霧霜の、霜村正宗は剣士として完成されていると俺は思います。彼に武器変化のハンデがなくても、なるべく東雲さんとは戦わせたくありません」


いつになく饒舌に語る蓮の言葉に里見上官だけではなく、僕と夜人も聞き入っていた

できれば、蓮の情報を他の人に渡したくないのでこんな屋外ではなく室内に案内したいのだが・・・

盛り上がっているようだし、周囲に気を配りつつ、様子を伺おう


「・・・そうか。では、もし今回ならば小暮をぶつけるのか?」

「そうですね。今の正宗では不利ですし、それに夜人と東雲さんとの戦いで得られるものもあります」

「それは?」

「正宗と東雲さんの比較データ、ですかね。基準として東雲さんが夜人の動きについていけないようなら・・・比べるまでもありません。彼は要注意人物になり得ない」

「それ、重りなしでの想定か?」

「今回、もし模擬戦を行ったら、という推定をしているので、もちろん夜人と正宗のハンデも考慮した上で話しています。重り付きの夜人について来れない程度の凡人なら・・・さらに正宗と戦わせるわけには行かなくなる」


「・・・なるほど。だそうだ、東雲」

「相当舐められているようですね。困ったな」

「・・・彼が東雲詠一」


黒髪を揺らし、不機嫌そうにこちらを睨みつける彼こそ、噂の東雲君だ

蓮の話だと、今日、彼らの模擬戦だったみたいだし・・・終わってから蓮をつけてきたのだろうか

暇だなぁ・・・


「あれ、お前ら気づいてなかったの?あいつ、蓮の背後にいたぞ?」

「俺は気付いてた。里見上官が探りを入れている感じだったから、あえて話した。ストーカーとかやめて欲しいんですけど・・・」


言えない。僕は全然気付いていなかったと


「・・・霜村、お前は何か言いたいことないのか?」

「・・・眼中になかった。以上」

「鬼かよ・・・流石に俺もそこまで言わないぞ」

「流石にそれは酷いよ、正宗・・・」

「まあいい。霧霜流如きが東雲流に負けることはないからな!」

「・・・あ?」


今、なんて言ったこのぽっと出モブは・・・

お婆ちゃん、関わるなっていう理由がやっと理解できたよ。今まではどこか身内に起きたことだけれど他人事だった

けれど、けれど・・・東雲流の人間と対面して初めて自覚する。心の底からむかつくな、と

こいつだけじゃない。東雲流の連中は・・・特にこいつの母親は・・・!


「ステイ正宗。また沸点が超えそうだ。ほら、お前、ドロップ好きだろ?好きなだけあげるから落ち着け?」

「くーる!だうん!すていすてい!ほら、正宗。今度この近くの美術館で古美術展やるらしいよ。日本刀いっぱい並ぶんだって!情報見ようよ!」

「・・・ドロップ、古美術」


好きなものを小暮さんと蓮が持ち上げて僕に見せてくれる

それを面白くなさそうに東雲君は見つめて、小さく鼻で笑うのだ


「・・・ふん。ちょろいな」

「おい。あんまり挑発するなよ、東雲とかいうの。度が過ぎるなら今すぐそのプライドをズタズタにしてもいいんだぜ?」

「・・・小暮夜人。俺はお前には興味がないんだ。俺が戦いたいのはただ一人。霜村正宗だけだ。余計なハエ虫は遠ざかってくれないか」

「・・・へえ」


彼は夜人にも挑発をしていく

考えなしなのか、それとも・・・


「里見上官。明日の模擬戦。小暮組に挑むことにします。この日を、待っていた」

「よかったな。小暮、霜村、桐間・・・やっと・・・って」

「・・・お婆ちゃんのいうとおり。こいつは生かしておけない」

「・・・直々に切り刻んでやる。覚悟しろよ東雲詠一」

「・・・やだなあ、この空気の二人は」


やっと。僕らの初めてのチーム式模擬戦が決まる

めでたいことなのに、その空気は重く

睨みつける僕と小暮さんの間で、困ったように蓮は肩を竦めていた

決戦の日は、もう少し

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