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月影の透明と夜  作者: 鳥路
第二章「トリオの模擬戦」
11/21

11:三人組の理由

午前中の訓練を終えて昼食を摂り終えた僕らは講義室へと向かっていた


「・・・しかし座学まであるとは」

「冊子、結構分厚くて読み応えあるぞ?正宗は嫌いか?」

「・・・今は戦況も落ち着いているし、戦術基本を学んでおく余裕もあるんだと思うよ」

「勘弁してくれ・・・」


項垂れる僕を慰めるのは中央に座る蓮


「よしよし。気持ちはわかるよ。俺も理数以外は苦手だから」

「僕は全部苦手で、お婆ちゃんからよく怒られていてさ・・・」

「え・・・あ、も、もしかして正宗は、座学全般苦手?」

「うん・・・。本とか読めないし。見てたら眠気が」

「すげえ。正宗は見事な脳筋っぷりだ・・・。大丈夫かよ、それで」


窓際の小暮さんは慰めるどころか追い討ちをかけてくる


「しかし・・・俺が意外だったのは夜人の方かな。ほら、生きてきた環境があれだったから・・・正宗よりは大丈夫?座学にはついていけそう?」

「問題ない。安心してくれ、蓮。ここに来るまでは図書館住みだったし。本で色々と知識を得ている分、それなりにやれるだろう」

「そっか。じゃあ問題は正宗だけか」

「少し面倒みないとまずいんじゃね?」

「うー・・・二人とも、帰ったら教えて!」

「・・・上手く教えられるかわからないけれど、任された」

「はいはい。俺にできる範囲でな」


二人から嬉しい言葉を投げかけられつつ、座学への不安も払拭されていく

戦いだけではなく知識もつけないといけないのか・・・大変だ

純粋に戦うだけで済むと思っていたけれど、物事はそう簡単に上手くいってはくれないらしい


「蓮」

「何、夜人」

「お前、一応、正宗と一緒の十八歳、なんだよな?」

「うん。そうだけど・・・」

「身長とか触れていい感じ?指定された席、後ろの一列だろ?蓮は小さいから、板書見えるのかなって思ってさ」

「少し見えにくいけど・・・少しだから。もしも見えないところがあったら夜人に聞いていいい?」


「あいよ。他にも何かあったらちゃんと言えよ?今朝も思ったけど、お前、結構溜め込むタイプだろ?」

「・・・そう、見える?」

「俺にはそう見えたって話。無言で背後にべったりされれば気になるさ。ほれ!よしよしよし!」

「ちょっと夜人、何やって・・・」

「みょ。みょみょ・・・!」


横を見ると、小暮さんに頭を撫でられている蓮の姿

蓮自身、嫌がるかと思ったのだが・・・彼のなでなでを嬉しそうに享受していた

しかも鳴き声付き。特徴的な声で鳴くその姿に愛らしさを覚えてしまう


「はい、おしまい」

「はひゅー・・・」


手を止めたと同時に、蓮は力が抜けた状態で小暮さんの方へ倒れ込む

その顔は完全にご満悦。あれは一体なんだというのだ・・・


「・・・小暮さん、蓮に何を?」

「山暮らしの時に動物と仲良くするために使っていた秘伝術を人間相手にも使ってみた。意外と効くんだな・・・」

「普通の撫で、だよね」

「ああ。そのはずだが・・・効果はかなり高いらしいな。封印しておこう」

「悪用しないなら、いいんじゃないかな」

「そうか?」


むしろここまで蓮が満足するなでなでを僕も貰ってみたいとは言い出せず・・・封印しようとする彼を止めるぐらいしか今はできない

気になるではないか。ここまで、気持ち良さそうな撫で・・・味わってみたいじゃないか


「・・・ゴクリ」

「なんだよ正宗、物欲しそうに・・・欲しいのか?欲しいのかぁ?」

「欲しい、かな」

「・・・マジか。素直な子は嫌いじゃないぞ!」


小暮さんの煽りもどうでもいいぐらいに、僕の興味は撫でに染まっていた

いや、別に!気になるだけだから!蓮があそこまでなる撫でを味わってみたいだけだから!

別に僕は・・・あんな風になりたいわけでは・・・


「分かった。では頭をはいしゃ・・・」


小暮さんの手が僕の頭に伸びてくる

目を閉じて、それを待っていると都合の悪いタイミングで時刻を知らせる鐘が鳴る


「これ開始の鐘だよな。上官にドヤされるのも嫌だし、また後でな」

「・・・」

「ほらー、蓮―起きろー」

「ホニョ!?」


嬉しそうにしていた蓮もまた、小暮さんから容赦なく起こされる

多分、今日が初めてだと思う。鐘に恨みを抱いたのは


「お前ら、席につけ」

「・・・里見上官?」

「なんだ霜村。親でも殺されたような目つきで・・・・俺じゃ不満か?」

「いえ。午前中だけでは、と思っていたので」

「事情だ事情。また「動き出しそう」だから座学とか悠長にしている場合じゃねえんだわ。お前らには実戦同然の訓練をして、少しでも生存率を上げてもらわないと困るんだわ」


軽い感じで言うけれど、その言葉は重くのしかかる

また、動き出しそう

それは今緩やかになっている戦況がまた激化する気配があるということだ


そうなると、悠長に座学をしている場合ではない

実戦を想定した訓練を続け、少しでも早く有志として戦える存在にならなければならないだろう

個人的にはそっちの方が嬉しいけどね!

夜人と蓮は教本を握りしめてしょんぼりしている。正気か・・・?


「教本は各自自主的に読んでおいてくれよー。今日から今朝のような「通常訓練」と、半年後の研修期間が終わる頃に開始しようと考えていた「小隊形式の訓練」を行う。その為に一つ、お前たちにはやって欲しいことがある」


里見上官の言葉に、全員が息を飲む

何が飛んでくるのか。どんな難題を吹っかけられるのか・・・身構えつつ次の言葉を待った


「お前たち・・・」

「・・・ゴクリ」

「・・・三人組、作ってくれるか?」


案外あっけない内容で肩の力が一気に抜けていく

何をしたらいいのかと思いきや、まさか三人組を作るだけとは


「俺たちで組めばいいよな?」

「そうだね」

「・・・いいの?」

「蓮も友達だろうが。畏るなって」

「・・・ありがとう」


小暮さんが真っ先に声をかけてくれたので、僕と蓮と小暮さんの三人でトリオを組むことになった

しかし、それだけでは済ませてくれない

周囲からの絶望的な眼差しをフォローしないほど、里見上官も鬼ではない

最も、僕たちにとっては鬼なのだが


「あーそうそう。小暮と霜村」

「はい」

「なんだ・・・ですか?」

「お前らが組んだら、無敵のトリオができちまう。理不尽だとかハンデつけろとか怒られそうだから・・・霜村は武器変化禁止。小暮は腕と足に重りをつけて戦え。許可するまでな」

「「なああああああああああああああああ!?」」


分かっていたけど、まさか最初から条件をつけられるとは

僕は得意武器を封じられ、小暮さんは瞬発力を封じられる

けれど、それを乗り越えて・・・だろう。やってやるしかない

一度は驚きのあまり叫んでしまうが、冷静さを取り戻したらやることはもう決まっている

小暮さんと目を合わせ、無言で頷き合う「やってやろう」と、視線で会話するように


「あの、里見上官。俺は、そのままで?」

「犯罪にならない程度に。お前につける条件はこれだけだよ、桐間。後は自由にやれ」

「はい」


もちろん、すでに軍属が決まっている蓮にも少し条件が付けられる

しかし、犯罪にならない程度って?

気になることを抱きつつ、僕らは今後の訓練のためのトリオを結成した


「・・・太刀を使えない霜村正宗を相手して勝ってもな」

「・・・?」

「どうした、正宗」

「いや、なんでも。嫌な気配がしただけ。まあ、敵ではないな」

「・・・フーン」


小暮さんの視線は、少し離れた席に座る黒髪の少年の方へ向かっていく

今度の模擬戦は条件付きのチーム戦

僕と小暮さんの得意なものが封じられたこの戦いの鍵は・・・


「・・・頑張らないと」


僕らの間に座る彼に、託されている

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