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第8話・先生とのやり取り

 始業式からそれなりの日数が経過したが、今でも金髪赤眼のこの容姿は人目を惹く。

 F組のクラスメイト達は少しづつ慣れてきたようだが、教室の外に出ると他クラスの生徒からの視線が一斉に突き刺さる。いくら俺が演劇で視線慣れしているとはいえ、これはなかなかのストレスだ。学校外でも通行人からチラチラと見られるし、正直に言ってウザったい。

 夏休みまでは「鏡見ればいつでも美少女映るとか目の保養になっていいじゃん」なんて気軽に思っていた俺だが、いざ自分が目の保養にされると妙にムカつく。見せもんじゃねえんだぞ、金払え。


「〜♪」

「……その、遥?」

「はいっ! なんでしょうか、お姉さま!」

「歩きづらいので、少し離れてもらえると嬉しいのですけれど……」

「あ……。ご、ごめんなさい! 怒らないでください! 許してください!」

「いえ、別に怒っているわけでは……」

「どうしたら許してもらえますか!? お願いです、わたしのこと嫌いにならないでください、お姉さまのためなら何人でも刺しますから!」

「やっぱりくっついていて結構ですわよ」

「本当ですか!? ありがとうございますっ!」


 加えて厄介なのが、この、今まさにニコニコ顔で俺の左腕を抱きしめているヤンデレだ。一応そこそこ可愛い女子に引っ付かれている形なのだが、正直全然嬉しくない。なんつーか毒蛇に巻き付かれたような気分。

 こいつがいる限り演技をし続けなきゃならないし、俺の本性がバレたらまず間違いなく暴走一直線だ。全くもって気が抜けない。

 正直なところさっさとブタ箱にぶち込んでやりたいのだが、コイツはこれでなかなか証拠を残しやがらない。バーサーカーのくせして頭が回る。今のところコイツを真っ向から打倒出来たのは(みやこ)さんだけだ。


 遥に密着された状態でゆっくり廊下を歩いていると、唐突に横合いから軽い衝撃を受けた。床に何冊ものノートが落ちる。


「……っと」

「あっ……! す、すいません、赤坂さん。大丈夫ですか?」


 曲がり角から出てきた男子生徒とぶつかったようだ。

 ……ていうかこいつ、今一瞬胸に触らなかったか? わざとじゃないんだろうが、それでも微妙に顔を赤くしているのが気持ち悪い。気持ちは分からんでもないが、なんで男子に欲情されにゃならんのだ。唾でも吐いてやりたい気分――


「――お姉さまが不快なようなら斬りますが」

「いえ、全くもって平気ですわ! あなたの方こそ怪我は無い? ほら、落としたノートです。日直のお仕事でしょうか? 頑張ってくださいね!」

「は、はい! ありがとうございます!」


 不快でないことを示すために、にっこりと微笑みかける。男子生徒は、真っ赤に照れて去っていった。

 ……こんな感じで、遥のせいで俺がやたらと善人のように扱われ始めているのも厄介だ。

 近東寺(こんとんじ)くんを代表とする一部F組メンバーは事情を察してくれているが、その他の鈍いクラスメイトやクラス外の生徒には無駄に人気が出てしまっている。もはやそのうち学内アイドルにでもなってしまうのではないかという勢い。俺の平穏なぼっちスクールライフはどこに行った。本当もうあらゆる面で厄介だなこのヤンデレ。


 無意味に注目を集めつつ、廊下を歩いていく。……二学期最初のテストの学年順位が見たかったんだが、どう考えても悪目立ちするな、この流れだと。貼り紙の前にもそれなりの数の生徒が集まっているし。


「遥、一つ頼んでもいいかしら? わたくしの代わりに順位を見て、こっそり教えてほしいのだけど……」

「はい、お任せください! この輪泉(わいずみ) 遥、貼り紙に群がる虫共を蹴散らしてでも――」

「わたくし、列にはきちんと並ぶ子が好きですわね」

「順番を待って見てきます!」


 そう言って、生徒達の後ろにつく遥。ここで重要なのは「順番を待てない子は嫌いですわよ」というような、マイナス方面での苦言を呈さないことだ。暴走する。めんどくさい。


「あ! ありましたお姉さま! 一位です! 学年順位総合一位は赤坂 (ひじり)ですよ、赤坂お姉さまー!」

「そしてコイツ何もわかっていやがりませんわね」


 微笑を(たた)えたまま口の中でぼそりと呟いた。遥の叫びとともに、ざわっとした生徒達のどよめきが広がる。先程の数倍の密度を持ってこちらに集う視線。次々と上がる静かな感嘆の声。

 ……いや、お前ら一学期の頃は俺が総合一位でも全然興味なかったじゃん。総合二位の伊良部(いらべ)が女子にちやほやされてただけじゃん。見た目が美少女になった途端、露骨に態度変えやがって。気持ちは分かるけども。


 これ以上ここにいても面倒なだけなので、遥を連れて教室に戻る。

 復学後も継続して一位を取れていたのは嬉しいが、それ以上にフラストレーションが溜まった。なんだこれ。


 ……というか、最近はどうにもイライラすることが多い。

 外に出ればじろじろ見られるし、学校にいる間はずっと演技しなきゃならないし、ヤンデレの見張りはしなきゃいけないし、家に帰ったら(みやこ)さんのおもちゃにされる。


 そして問題なのが、これらの大半が俺の自業自得という点だ。

 登校初日の悪ふざけとしか言えないお嬢様自己紹介。

 他人と関わりたくないが故のイジメ問題介入。

 覚醒ヤンデレを見て見ぬ振りに出来なかった心の弱さ。


 俺に全ての原因があるとは言わないが、下手を打ったことは間違いない。絶対もっと上手い立ち回り方あったってこれ。誰に責があるとかではなく、自分の愚かさが許せない。


 どうにかしてこのストレスを発散したいが、最近は俺の親友(おもちゃ)も何だか忙しそうだし……あぁ、何だか無性にゲーセンに行きたくなってきた。アーケードで格ゲーがやりたい。

 でも、今の俺が一人で行くと絶対変なのに絡まれるよなあ。身体能力は男の時と同等――むしろ柔軟性や足の速さなんかは見違えるぐらい上がっているのだが、それでも面倒を避けるに越したことは無いし。


 ……困った。気晴らしがしたい。

 と、そこで、休み時間の教室に若い女性教師が入ってきた。


「赤坂く……赤坂さーん、少しお話があるのですけれどー」

「おや、私のおもちゃ二号――こほん、可奈田先生。どうもご機嫌麗しゅう。何かご用でしょうか?」

「今、先生を何か別の呼び方しませんでしたか!?」

「いいえ、そんなことはありませんわ! わたくし今、先生が来てくれてすごく嬉しいです!」

「すごくサディスティックな笑みが浮かんでいるように見えるのですけれど! ええと、とにかく! お話があります!」


 教室から連れ出され、空き教室へと移動する。

 当然のように遥がついてこようとしたが、先生に止められて教室で待機となった。……目上と認識している人間には一応従うんだよな、コイツ……。


 静かな教室内で二人きり。可奈田先生は、簡素なプリントを差し出しつつ言った。そこに書かれていたのは……。


「生徒会役員への立候補に関するご案内です!」

「どうぞお引き取りくださいまし」

「即答!」

「おっと、お嬢様ロールが抜けていませんでした。俺そういうのいいんで帰ってください」

「わざわざ言い直さなくて良いですよ! それに生徒会役員になれば内申も上がりますし、そんなに悪いことじゃないと思うのです!」

「学年一位に内申上がるとか言われても」

「ぐっ……で、でも、赤坂くんはなんだかんだ言って輪泉さんの面倒も見てくれていますし、教室内も赤坂くんが来てからなんだかまとまっているので、面倒見の良さとリーダーシップはあると思うのです!」

「おっ、節穴――いえ、先生は優しい価値観をお持ちなのですわね。ふふっ」

「お嬢様モードで何かを誤魔化されました!」

「けど本当、そういうの面倒臭いからいいですよ。ただでさえ二学期から色々あって疲れてるのに」

「それは、まあ、先生にもなんとなくわかります。性別が変わって、色んな人からも注目されて気疲れするっていうのは……」


 可奈田先生は少し同情するように顔を伏せた。


「でもだからこそ、他人に気兼ねしない、過ごしやすい環境を学校内に作ることが重要だと思うのです! 見ていた感じ、輪泉さんも少し赤坂くんに依存し過ぎな気がしますし、生徒会という、限られたメンバーしかいない場所で活動するのも悪くないと思いませんか?」

「むっ……」


 ……確かに、先生の言うことにも一理ある。

 学校内でも遥に纏わりつかれない場所。なかなか魅力的だ。


「言われてみると良さげな気もしてきました……すいません、先ほど節穴と言ったことは取り消します」

「やっぱり酷いこと言ってたんですね君!」

「ですが、それでも素の態度で他人と接するのは抵抗ありますよ。俺、見ての通り性格悪いじゃないですか」

「それに同意するのは可哀想ですが同意せざるを得ません! しかし今、生徒会には赤坂くんの大好きな伊良部くんも入る予定なのです!」

「その言い方やめてくれます?」

「伊良部くんからは赤坂くんがツンデレだと聞き及んでおります!」

「べ、別にわたくし、伊良部のことなんて全然気にしてませんわ! 勘違いしないでくださいまし! ふん!」

「あ、そういうのやってくれるんですね!」

「でも、伊良部以外の生徒会役員とは初対面じゃないですか」

「正直な話、生徒会長は受験を控えた三年生なのでほとんど生徒会活動に参加することはありません。副会長の二人も二年生なので、一年生とは予定がズレることが多いです。伊良部くんと二人きりになれるチャンスも多いことでしょう!」

「だからそういう言い方やめてくれます?」


 だがしかし、ふむ。


「わかりました、やりましょう」

「やった! ありがとうございます、赤坂くん! 会計係が埋まらなくて、本当に困ってたんです!」

「先生はなかなか話術が巧みですね。授業はそうでもないのに」

「こら!」


 プリントにサインをする。赤坂 聖、と。


「赤坂くんはクラス外でも評判が良いので、絶対に就任できると思いますよー」

「そりゃどうも。それで、役員選挙っていつなんですか?」

「今日です」

「は?」

「今日の六時限目の全校集会です。それまでに演説内容とか考えておいてくださいね!」

「先生は教師より詐欺師になった方がいいんじゃないですかね?」

オチがついたのでここで区切っちゃいました。

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