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第7話・義姉とのやり取り②

 ところでウチの義姉、赤坂 (みやこ)はコスプレイヤーである。

 その界隈では結構有名人で、専業主婦ゆえの時間的余裕を活かして様々な活動に手を出している。

 無論あくまで個人レベルの、ただの趣味だ。しかし、それでも同人作品等では結構な儲けを出しているらしく、我が家の家計にそこそこ貢献。(みやこ)さんのコスプレのおかげでおかずが一品増える上、母さんがやっている貸衣装屋の宣伝なんかもやっている。そのため、(みやこ)さんの趣味は基本的に家族全員に諸手で歓迎されていた。


 が。


「ひーじりちゃーんっ! 早速だけどお姉さんのコスプレに付き合いなさいな!」


 時々俺を巻き込むのはどうにかしてもらいたい。

 俺は疲れ切った身体を起こし、ジト目で(みやこ)さんをにらみつける。


「……俺、疲れてるんですけど」

「なにさー、(ひじり)ちゃん学校始まってから毎日疲れた疲れた言ってるじゃん!」

「マジで毎日毎日疲れてるんですよ……今日もヤンデレ狂犬ヤバ女の世話とか頑張ってたんです……」


 遥の本性が発覚した日。

 目覚めさせてはいけないものを目覚めさせてしまった俺は、責任を取って遥の面倒を見ることにした。流石にあのクレイジーを覚醒させて放置したままというのは寝覚めが悪い。俺の身だって危ないし。


 遥に『ゴニョゴニョ』されて朝から保健室送りになっていた男子生徒、近東寺(こんとんじ)くんにはこちらから頭を下げ、二人の間で密約を交わした。俺が転校生でないと気づいた彼に協力してもらうことで、F組内における遥の対処プロトコルは確立。現在では基本的に俺が遥の手綱を取って制御し、近東寺くんによって真実(元男であること)が隠蔽され、万が一の暴走時には即座にクラス全員で協力して避難及び牽制、時間を稼いでいる間に俺が駆けつけ制止する体制が整っている。


 こうして、当初俺の思っていた方策とは全く別の方向性で、現在の一年F組は一致団結し、まとまったのだった。

 なお、協力を拒んだ生徒には、俺の方から遥をけしかける旨を伝えてある。相も変わらずひでえクラスだ。まあ、あのまま遥をイジメていたらいつ爆発するともわからなかったので、これはこれである種の改善と言えるだろう。


「やはり、平和を作るのは圧倒的な力と共通の敵だけなんですね……」

「何言ってるかわからないけど、コスプレしよう! 今ならご褒美もついてくる!」

「じゃあやりまーす……今日は何のアシスタントをすれば?」

「ふふん。聞いて驚くなかれ。まずはこの露出度高めの衣装をねー」

「はい」

「聖ちゃんが着る」

「はいお疲れ様でーす」


 部屋からご退出願おうとする俺に、必死に抵抗する(みやこ)さん。く、俺の筋力はまだ男性並にはあるのに、なかなか手強い……! (みやこ)さんの一族は無意味に戦闘能力が高いから困る!


「やだー! お姉さん今日までずっと我慢してきたんだよ!? 病人を着せ替え人形にするのは悪いなあとか登校初日は疲れてるだろうし休ませてあげようかなあとか! それなのに聖ちゃん毎日疲れた疲れたって! いいじゃないもうすぐ週末じゃないゆっくり休めるじゃない、聖ちゃんのばかぁ!」

「疲れてるとか関係なしにイヤです! 普通に恥ずかしい!」

「もうスカートにも慣れてるじゃない!」

「慣れてねえよ! 気にしてる余裕がなかっただけ!」

「今の聖ちゃんがブレザー制服着てればそれだけでコスプレみたいなもんだよ!? 私のツイッターアカウントに『親戚の子がやってたコスプレです☆』って聖ちゃんの制服画像を貼り付ければ『可愛いですね! (任意の学園モノ)に登場する(任意の金髪赤目キャラ)ですか?』って返信(リプ)が山のように来ること間違いなし!」

「なんか急に制服着るの恥ずかしくなってきたんですけど!?」


 確かに金髪だし赤眼だし、該当するキャラも多そうな容姿だけど! いざそんな言い方されたら妙に今の姿でいるのが照れくさくなってきた!


「今の聖ちゃんはもう、何着ててもコスプレなんだよ! いっそのこと全裸でもコスプレ!」

「それは流石に暴論!」

「そういうわけだから、今更どんなコスプレしても問題無し!」

「問題あるわ! それならもうジャージしか着ませんから!」

「ふぅむ……ジャージで金髪赤眼のラノベキャラは、と……」

「やめい!」

「ぐふぅ!」


 などとコントを繰り広げつつ、(みやこ)さんと会話する俺。

 鬱陶しい義姉を部屋から蹴り出し、ベッドの上に寝転がる。


「うぅ~。聖ちゃんがかまってくれないよぉ」

「兄貴とでもイチャイチャしててくださいよほら。しっしっ」

「旦那様今日残業だもん! かまってよ聖ちゃぁん、さっきだって私が一人強盗と相対して苛烈なバトルの末に圧倒的な勝利を得たというのにぃ」

「何やってんだアンタ。ていうか強盗って……こんな一般家庭に何盗みに来るっていうんですか」

「知らなーい。下着泥棒だったのかな、多分」

「え、マジで来たんですか?」

「うん。女の子だったのかなあアレ。なんかマスクの下からお下げ髪出ててさぁ。結構手強かったし、最終的には逃げられたんだけど、こてんぱんにしてべそかかせて靴を舐めさせながら『(みやこ)さまに逆らったわたくしめが間違っておりました、もう二度とこの家に手は出しません』って誓わせるほどのトラウマを刻み込んだからもう大丈夫」


 俺はスプリングのように立ち上がり、即座に九十度の礼をした。


「ありがとうございましたお義姉さん! 俺で良ければぜひともコスプレさせてください!」

「おおう、どうしたの急に」


 そういうわけで。


「じゃあまずは、某英雄ゲーに登場する冥界の――」

「いやあの、出来たら版権モノ以外にしてくれませんか……?」

「ええ? なんで?」

「その、規約の関係といいますか……」

「よくわからないけど仕方ないなあ」


 ひとまずパブリックイメージ的な、RPGによくいるエルフさんからとなった。……さらっと「まず」って言ったけど、他にもやるつもりなのか……。

 (みやこ)さんの見ている前で(なんで当然のように見てんだ)、男だった時から使っているジャージを脱ぐ。恥ずかしくはあるが、まあ裸を見られているし今更だ。最初に身につけるのは茶色いホットパンツに、やたら丈の短い若草色のタンクトップ。何の意味があるのかわからない飾りのベルトを腰と胸に二本巻く。


「……(へそ)が出てしまったのですが」

「出してるんだよ」


 ……その上から小さな外套を羽織り、ニーソックスを履いて膝まであるロングブーツを身につける。髪を三つ編みにしてとんがったつけ耳を装着し、革の手袋をはめた。その後、(みやこ)さんの指示に従い色々と調整。カラコンやアクセサリー等を身につける。


「よーし、とりあえず完成、っと」


 (みやこ)さんに促され、鏡を見た。

 ……うわ、もう普通にゲームキャラじゃん。恥ずい。別にそこまで女の子っぽい格好というわけでもないのに、露出度が高いこともあって女性らしい体つきが強調されている。女子制服を着た時とはまた別種の恥ずかしさ。演劇をしていた時に多少は派手な衣装なんかを着た経験もあるのに……。なんだろう、自分の、女の子の身体まで衣装の一部として使われているような。なんというか、羞恥心の中の鍛えてない部分を責められている感覚がある……!


「……ど、どう、ですか」

「ふーむ……。…………」

「…………」

「百点満点で、二点」

「判定が厳しいっ!」


 (みやこ)さんは、はぁー、とため息をつき、大御所のように回転椅子にどっかりと座る。


「うーんなんだろうなー。良いっちゃ良いんだけど、明らかに聖ちゃんが手抜いてるの見え見えだからなー」

「ぐ……」

「しかも中途半端なんだよねえ、手の抜き方が。『さっさと終わらせたいからとりあえずやろう』みたいな。そのせいで逆に照れてるところあるじゃん」

「ぐぐ……!」

「でもま、自分の格好見て恥ずかしがってるのはなかなか眼福だから許しちゃおう! エルフちゃんのコスで照れちゃってかーわいっ♪ 百点!」

「ぐぁああああああっ!」


 なんだ、なんだこれ! よくわからないけど恥ずかしい! 顔が熱い!


「じゃ、撮影するよー」

「む、無理、やめ――」


 ぱしゃり。


「普通に撮ってんじゃねえ!」

「いやあ可愛かったのでついつい。てへり。ほーら、ポーズしないと恥ずかしがってるところ撮っちゃうぞー」

「う、うぅ……!」


 そうして、俺はその日いっぱい、(みやこ)さんに弄られ続ける羽目になったのであった。

ハーメルン版では微妙に内容変わってます。

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