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第6話・いじめられっ子とのやり取り②

ちょっと遅れました!急いで書いたので、後で手直しするかも。

 そして、翌日。


 なんやかんやでクラスは平和になった。


「いやいやいや! ちょっと待ってください赤坂くん!」

「なんですか、可奈田先生。もう放課後ですよ。俺、この後輪泉(わいずみ)と一緒にクレープ食って帰る予定なんですけど」

「仲良しっ! いえ、そうではなく、いつの間にそんな……」

「普通に友達になっただけです。俺はコミュ力が高いので。――コミュ力が、高いので」

「何故二回言ったんです?」


 実際には周囲をそれとなく煽ってあえて輪泉をイジメさせ、彼女が泣きそうになったところで割り込む(など)といったマッチポンプを仕掛けたが、まあ、些細なことだろう。


「ハッ。どいつもこいつも、愚かよな」

「なんですかその黒幕ゼリフ! 赤坂くん今すごい悪い顔しませんでした!?」

「失礼ですね。顔は可愛いでしょう、俺」

「自分で言った!」


 そう、自分で言うのもなんだが、俺は美少女だ。それもそこらのアイドル顔負けの、絶世と言って過言ではない超絶美少女。その整った美貌からは、治療を担当してくれた整形外科医の先生の圧倒的なワザマエが伺える。好きな人がいる俺だって、気を抜けばうっかり恋に落ちかねないほどに魅力的だ。


「そんな美少女と仲が良い子をイジメる? いやあ無理ですね。少なくとも男子には無理です。ヤツらはもうこっちの気分を損ねる行動は絶対に出来ません。もはや俺の下僕ですよ、下僕」

「ど、同級生を下僕呼ばわり……! 赤坂くん本当に男子だったんですか!? やり方が完全に悪女なのですが!」

「男だったから男の行動が予測出来るんでしょうに」


 とはいえ、男子はそれで良くても女子は考え方が違う。


「でも女子はダメでしたね。みんなで仲良く輪泉(わいずみ)をいびってる時に、自分たちより遥かに顔の良い女が突っかかってくるもんだから、そりゃもう敵愾心(ヘイト)稼ぎまくり。いやー美少女だと不細工から嫉妬されてつらいわー。かーっ」

「逆に腹が立つレベルの無表情棒読み! 生徒にこんなこと言いたくはないですが、これはうざい!」


 だがしかし。いつか伊良部(いらべ)にも言ったが、男だろうが女だろうが所詮は人間、勝手は同じ。


「ですが先生。男子に美少女をぶつければ良いのなら、女子には美少年をぶつければ良い。そうは思いませんか?」

「え、ええ……?? それは、まあ、そうかもしれませんが……美少年をぶつけるったって……」

「あいにく、俺にはいるんですよ。顔が良い上に性格も良い、学力が高い上に女子力も高い、女にモテモテの――親愛(じゅうじゅん)なる、友人(てごま)がね」

「今何か単語に別の意味を乗せませんでしたか!?」

「普段中々会うことの無い、クラス外のイケメン男子。しかも顔だけじゃなく中身も良い。そしてツッコミも上手い。これはもう完全に優良物件ですよ、特にツッコミ」

「ツッコミが上手いことは別に評価点にならないと思います!」

「そんな彼を紹介してくれるとなれば、これはそうそう無下に出来ない――あ、そうですね。せっかくなのでその時の状況をカードゲーム風に例えますか」

「急に!? 何故!?」

「『味方モンスター「顔の良い親友」をフィールドに召喚! イケメンをイケニエに捧げることで、フィールドに存在するあらゆる女子からの攻撃をキャンセルする!』」

「『イケメンをイケニエに』って言いたかっただけでしょう!」


 ここでようやく会話が一段落する。

 ツッコミ疲れで息切れする可奈田先生に、俺は静かに微笑みかける。


「そういうわけで――安心してくれていいですよ。なんやかんやでクラスは平和になりました。もう輪泉が理不尽にイジメられることは無いし、俺がいる間は、誰かがイジメられたりすることなんて、絶対にありませんから」

「あ……」

「じゃあ俺、輪泉とクレープ食べに行くんで。それじゃ」


 俺はカバンを持って職員室を出る。

 背を向けて扉へと向かう俺に、可奈田先生の声が投げかけられる。


「あの! 赤坂くん――赤坂 (ひじり)くん!」

「どうしました?」

「ありがとうございます! その、私、まだ新任で、田中先生みたいに上手く出来ないので、F組の担任が不安で……でも、キミのおかげで、またみんな仲良く出来て……」

「……良いんですよ。これからもツッコミ、よろしくお願いしますね」

「はい! ――っていや、ツッコミは別にお願いされたく――」


 ばたん、と俺は職員室の扉を閉めた。


「――ふぅ」


 小さくため息をつく。

 放課後ではあるが、まだ生徒は残っている。

 今はまだ、一年F組のクラスメイトに俺の『素』をバラしたくない。

 俺はサラリと後ろ髪をかき上げるようにして、自分のスイッチを切り替えた。

 綺麗に背筋を伸ばし、一人淑やかに放課後の廊下を歩いていく俺。そこに、よく知った声が呼びかけてくる。


「やあ、聖くん――いや、赤坂サンって言った方が良いかな、今は」

「あら、伊良部さん。ご機嫌よう。私に何か御用でして?」

「あっちの廊下なら、今はほとんど誰もいないから、良かったら玄関まで一緒にどう?」

「わかりました。では、ご一緒させていただきますわ」


 伊良部とともに大回りをする形で人気の無い廊下を歩いていく。

 コツコツと響く二人分の足音。

 放課後の少し穏やかな喧騒が、徐々に遠ざかっていく。

 やがて、誰にも話し声が聞こえない場所まで来る。


 俺は演技をやめ、態度を元に戻した。


「――しっかし、大人って馬鹿だよなあオイ! 愚鈍にも程があるぞあの女教師! 伊良部にも見せてやりたかったぜあの浮かれた滑稽な顔をよぉ! ハッハハハハ!」

「いや落差! 一旦お嬢様モードを挟んだことで落差が酷い!」


 (こら)えきれない哄笑(こうしょう)。俺は悪辣な笑みを浮かべて語り始める。


「あァ、みんな仲良くゥ? はっ、全く。自分たちにも出来ないことをほざきやがるぜ、大人がよ」

「おおう、いつにも増してギャップが……」

魯迅(ろじん)も言ってただろうが、人間の世界に平和なんか無いってよ。こんなやり方でいじめられっ子を減らしても、F組が持つ構造的な問題は解消されてない。その内また別のヤツがイジメられるに決まってる。分かるか伊良部。真の平和は共通の敵と圧倒的恐怖によってしか得られないんだ」

「なんで聖くんこんなに価値観歪んじゃったの? 無駄に頭が良いせいなの?」

「しかし、今日一日でここまでしか来れなかったのは失敗だったな。クライマックスにはとっておきのショーをお見せする予定だったんだが。ククッ」

「もう完全に黒幕じゃん。何がしたいんだ君は」

「あ? バカ、伊良部。夏休みの時から言ってただろ」


 俺は一拍置いて、言う。


「――"二学期は上手いことクラスメイトから腫れ物扱いされて、一人優雅にぼっちライフを満喫する"、って」

「……え」


 呆けたような伊良部の顔。俺はそれに一度だけ目をやって、前を向き直す。


「面倒なんだよ、クラスの中で他に浮いてるヤツがいたら。()()()()()()()()()()()()()()

「…………。聖くん……」

「これでようやく明日ネタバラシ出来るな。今の状況で俺が元男だってバラせば、男子も女子も、輪泉も、全員自分たちを騙してた俺を敵視するだろ? クラスもしっかりまとまったな。どうだ、最高のショーだとは思わんかね? ん?」

「……君はさぁ」


 伊良部は片手で頭を抱え、呆れたようにため息をつく。


「なんでそう、やたらと偽悪的なやり方をするんだろうね」

「偽じゃねーよ。悪だよ、俺は」

「高一になっても未だに中二病抜けてないしさ。頭が良いのに馬鹿ったらないよ。僕なんかより、君の方がずっとお人好しじゃん」

「お前がそう思いたいんならそう思ってろ。あれだぞ? 輪泉なんか、一度心を許した相手に裏切られるんだぞ? どこがお人好しだよ」

「分かった分かった。どうせ僕が何言ってもやるんでしょ。さっさとクレープ食べに行ってきなよ。僕は友達でいてやるからさ」

「うっせバーカ。死ね」

「はいはい、ツンデレツンデレ」


 疲れたように伊良部が階段を降りていく。

 俺たちは生徒玄関で別れ、校舎の外へと歩いていった。


「……でも、俺も疲れたなあ、今日は」


 少し赤みがかってきた空を見上げる。

 今日は朝からずっと演技演技で、気を抜く暇もなかった。


 だが、後もう少し踏ん張らなければならない。玄関前の自販機で一本コーヒーを買う。

 ちょうどそれを飲み終え、缶をゴミ箱に投げ捨てた頃に、たたたっ、とこちらに走ってくる足音が聞こえてきた。


「赤坂さん! ごめんなさい、わたし、遅れてしまって……」

「いえ、大丈夫ですわ、輪泉さん。私も少し遅れて、今来たところでしたから……さ、行きましょう?」

「はいっ!」


 昨日の暗い顔はどこへやら。にこにことした笑みを浮かべながら、輪泉は俺と連れ立って歩き出す。


「わたくしの方は先生とお話していて遅れてしまったのですけど……輪泉さんは、何かあったのかしら?」

「い、いえいえ! そんな、わたしはちょっとした野暮用で、えへへ……。頑張ったんですけど少し遅れちゃいました……」


 そう言って、照れ臭そうに笑う輪泉。少し息が切れているところを見ると、どうやら何か運動をしてきた後らしい。


「そうでしたか。私としては、ゆっくり来てもらっても良かったのですけど……」

「いえ、そんな! わたしから赤坂さんを誘ったのに、こっちの都合で遅れてしまって……わたし、今すぐにも手首を切りたい気分でいっぱいです……」

「とりあえず、そのカッターナイフは今すぐしまってくれますこと?」

「あ、あ、ごめんなさい! つい、うっかりしちゃいました……」


 笑いながら、何か赤いものが付いたカッターを仕舞う輪泉。うん、これはイジメられるわ。やっぱどっか頭おかしいよコイツ。

 表面上はにこやかに笑う俺に対し、輪泉は心からの笑みを浮かべ、二人で街を歩いていく。


 夕方になると街にも人影が増えてくる。俺に刺さってくる視線が気になるが、まあ、役に入ってる分には問題ない。


「あ、あの、赤坂さん……」

「うん? どういたしました、輪泉さん?」

「その、あの……出来たらで、いいんですけど……」


 輪泉は少しおどおどとしながら、意を決したように言う。……こういうところは、昔の美咲みたいでちょっと可愛いな。


「わたしのこと、(はるか)って、呼び捨てにしてもらえませんかっ!?」

「あら、そんなことでしたら。わかりましたわ、これからよろしくね、遥」

「はぅ……っ!」


 心底嬉しそうにはにかむ遥。うーん、そういえば、美咲以外の女子の名前を呼び捨てで呼んだことって、これが初めてだな。


「あのあの、それじゃ、ついでって言ったらダメですけど、赤坂さんのことも……」

「ええ、遥の好きなように呼んでくれて結構ですわよ」

「本当ですかっ!? じゃあ、わたしからもこれからよろしくおねがいします――お姉さま!」

「ええ、よろし――」


 あれ?


「どうしました、お姉さま?」

「いえ……そこは、聖と呼んでくださるのかと……」

「お姉さまにそんな失礼なことは出来ません!」

「そ、そう……まあ、遥が良いなら何でも良いのですけど……」


 なんだろう、最初からどこかヤバいやつだとは思っていたのだが、同級生をお姉さまって……。

 まあ、いいか。どうせ明日になればネタバラシして、こいつと疎遠になるのだし。今は好きに呼ばせておこう。


「えへ、えへへ……。今日は、助けてくれて、本当に嬉しかったです。本当に、本当に……」


 しみじみとした様子で言う遥。その顔に浮かべる笑みが少し不気味で、俺はわずかに距離を取る。


「ずっと、一緒にいてください、お姉さま……」

「遥……?」

「いえ、なんでもありません! ……えへへっ」


 だから、彼女が口の中で呟いていた言葉は、結局わからずじまいだった。



 翌日。

 さーてどういう演出でネタバラシしようかなーと考えつつ、クラスの前で立ち尽くしていた俺に、背後から声がかけられた。


「お姉さまっ、おはようございます!」

「わっ……!?」


 そのままトン、と背中にくっつかれる。

 後ろを振り返ると、にこにことした遥の顔。わ、悪巧みしてる最中に急に来られると心臓に悪い……。


「さ、教室に入りましょう、お姉さま?」

「ちょ、ちょっと待ってくださいまし――って、あ」


 思わず昨日までのキャラで答えてしまう。

 気を抜いた隙に、するりと教室の中に連れ込まれる。くそ……まあいいか、別に今じゃなくてもチャンスは――


「……あの、遥?」

「はい? なんでしょう、お姉さま?」

「そこの方たちは――」


 俺は教室の床を見下ろす。

 そこにいたのは、昨日伊良部を紹介するまで、俺に敵愾心を向けていた女子達。

 当然、伊良部を紹介したからと言って悪感情自体が消えるわけではなく、俺はそれを踏まえた上でネタバラシをする予定だったのだが……。


「――なぜ、私が入ってくるなり土下座をしていらっしゃるのでしょう……?」


 俺は微妙に引きつった声で遥に問いかける。

 遥はにっこりと笑みを浮かべて――にっこりと、狂的な笑みを浮かべて、言う。


「だって、お姉さまに歯向かう人間は完膚なきまでに叩き潰して、自分がただの豚でしかないと認識させなければならないでしょう?」


 何言ってんだコイツ。


「あの、えっと、はる、か……?」

「あ、あと、男子にも一人、お姉さまが実は男だとか言ってる輩がいたんですよ! 酷いと思いませんか!? ねぇ! お姉さまは女の子なのに! ねぇ!」


 ぞわり、と背筋が何かに撫でられるような感覚が走る。

 ゆっくりとクラスを見渡す。

 もう、クラスメイトは全員揃っているのに、一人いない。一昨日の自己紹介の時に、一人だけ微妙に疑問に思っていたやつがいない。


「だから少し――ゴニョゴニョしちゃいました、えへへっ」


 何も可愛らしくない「えへへっ」だった。


「その、ゴニョゴニョというのは――」

「やだ、お姉さまったら聞かないでください、きゃっ」


 そう言って両手で顔を覆い、くねくねと身体をよじる遥。その勢いでポケットの中からカッターナイフが落ちる。やはり、昨日見たときと同じように、刃先には何か赤いものが付いていた。


 …………。


 よし。


「(ネタバラシは、また今度にしよう!)」


 そうして俺は、未だしばらく、このお嬢様キャラを演じることを決意したのだった。

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