第12話・転校生とのやり取り③
少し遅くなりました。でもまだ26時なのでセーフ。
そろそろ毎日投稿が厳しい……!
奢って貰った缶コーヒー片手に、どうにか一年棟の前まで戻ってきた。
伊良部はもう自分の教室に戻っていったが、俺はまだうじうじと授業に参加することを躊躇っていた。
……行きたくないなあ、教室。今のこの気持ちで一体どう美咲と顔を合わせろと?
「はぁ……」
ため息をつきながらプルタブを上げる。
口の中に広がる無糖の苦味。いつもの五倍ほど苦く感じるそれを、顔を上げて一気に飲み干した。
カフェインがすぐさま脳に効き始める。ダダ下がりになっていたテンションが強制的に上がりだした。俺は空き缶をトラッシュボックスに投げ入れ、親指で唇の端を軽く拭う。
よーし、ぐだぐだ悩んでいてもしょうがない。
とりあえず、キャラに関してはいつものお嬢様でいこう。
ここで俺が聖だとバラして美咲に余計な気を遣わせるのは嫌だ。あいつは優しいから、俺がクラスから孤立するようなことになれば絶対にどうにかしようとお節介を焼いてくるだろう。
それぐらいならもういっそ、他人として振る舞う方がいい。俺としても、しばらく美咲とは距離を取りたい。
いずれカミングアウトしなければならない時は来るだろうが、それは別に今日でなくたっていいはずだ。やるならもっとこう、伊良部とかと相談して、ちゃんと場を整えてからにしよう、うん。
「よし……」
かきあげるように後ろ髪をさらりと梳く。なんとなく始めたこの仕草も、今ではかなりルーティーン化してきた。条件付けの如くスイッチが切り替わり、意識が役へと入り込む。
「申し訳ありません、少々遅れました」
何事もなかったかのように扉を開けた。
教室中から突き刺さる視線。その中には当然、美咲のものも含まれている。……大丈夫、オーケー。この程度で演技を揺らがせる俺じゃない。カフェインによるブーストがよく効いている。
数学教師が怪訝そうな目を向ける中、俺は悠々と自分の席へと戻っていく。
が、その途中で美咲に小声で話しかけられた。
「あの、赤坂さん、大丈夫だった? 私、何かしちゃった……?」
「……な、何でもありません、わ、よ。ききき気にしないでください、まし」
「明らかに何かがあったよね!?」
クソッ! やっぱり好きな子相手にお嬢様言葉で会話するのは流石にキツい!
俺は再度後ろ髪を勢いよくかき上げ、恥ずかしさを誤魔化すために勢いよく叫ぶ。
「何でもないと言っているでしょう! しばらく話しかけないでください!」
「ええ……? よ、よくわからないけど、ごめんね?」
「何を謝っているのですか! あなたは何も悪くありません、単にわたくしがあなたと口を利きたくないだけで!」
「そっちの方が逆にショックなんだけど!?」
「あと、自分に落ち度がないと思っているのになんとなく謝っておくというのはよくありませんわ! 自分がやったことを認識していないのに謝罪するのは、相手に対しても失礼です!」
「す、すいません!」
「だから謝らないでと言っていますのに! そういうところですわよ、パッと見明るそうに見えて根は引っ込み思案の三日月 美咲!」
「この短いやり取りで既に私の人柄が看破されてる!」
「か、勘違いなさらないで! あなたのことなんて、小学三年生の頃の夢が『スーパーサ○ヤじん』だったことぐらいしか知らないのですから!」
「むしろ何故それを知っているのかひたすらに疑問なんだけど!」
「……ただの当てずっぽうですわ!」
「凄まじい直感力っ!」
そこで、数学教師がごほんと咳払いをした。俺と美咲は慌てて口をつぐみ、自分の席で授業を聞く態勢へと戻る。
俺は授業を半分聞き流しながら、こみ上げる想いを外へと出さないよう必死に押し留めていた。
それにしても、チクショウ……なるべく距離をとっておこうと決めた矢先から……! そしてあんな会話でさえ、久しぶりに美咲と話せたことに喜んでしまっている自分がいる……!
いや、喜んでちゃダメだ。俺はぎゅっと目をつむり、自分の額をシャーペンで小突く。
例えどんなに好きだったとしても、俺はもう美咲と恋仲になることなんて出来ないのだ。美咲には既に好きな相手がいる。俺がいつまでもこんな風に未練を抱えているわけにはいかない。
初恋を三年も引きずったんだ、もう十分だろう赤坂 聖。ここですっぱりと諦めなければ男らしくない。今女だけど。
だが、未練とはそう簡単に断ち切れないからこそ未練なわけで。
「…………。……っ」
無意識にちらちらと美咲の方に視線をやってしまう。あちらもあちらでさっきのやり取りを気にしていたのか、不意に目が合ってしまった。
俺は慌てて顔を逸し、授業に集中する。
教科書と黒板しか見ないように意識していたのだが、ふと、クラスメイトの囁く声が耳に入ってくる。
「……ねえ、赤坂さんと転校生の子、なんかいきなり仲悪くない……?」
「やっぱ朝のアレだろ……自分の取り巻きがいきなりボコられたからキレてんだって、絶対……」
「あー、ああ見えてプライド高そうだもんね、赤坂さん……」
何もかも間違ってるぞ。お前らそんなんだから遥の本性未だに見抜けねえんだよバカ。事情知ってるF組メンバーもそろそろ説明してやれ。
……だが、この際あいつらの言う通り、俺が美咲を嫌っているということにしてしまったほうがいいのかもしれない。
そうすれば美咲だって俺には関わってこないだろうし、俺だって美咲のことを諦められ――いや諦められるのか、俺……? だって三年も初恋引きずってたんだぞ……今さら嫌いなフリした程度で冷めるか、この重過ぎる片想い……?
――いや、違う。
俺は小さく頭を振る。
諦められるのか、ではなく、諦めなければならないのだ、もう。
美咲だって、女になった男に好かれるとか気持ち悪いに決まってる。あいつには好きな人だっているのだ。俺みたいな中途半端な人間が今さら美咲の傍にいるわけにはいかない。
それに何より……美咲は、今も絶対に優しいから。俺に叶わない想いを抱かれていることを知ったら間違いなく心を痛める。あいつは何も悪くないのに。
だから、この好意だけは絶対にバレないようにしよう。
俺は静かに決意して、この片想いを諦めることを誓ったのだった。
……そういや、美咲が気になってる男って一体誰なんだろ。
ちょっと短めですが、プロローグに至るまでのストーリーは終わったのでここで一区切り。
次回は少し時間が飛んで、プロローグの後からのスタートです。




