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一般人、ファンタジーに挑む。  作者: ストゼロが友達
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乗り込み

うん、難しい。

成長したい。



荒くれものどもが闊歩する危険な地帯。


周囲は閑散としており、通りかかる人間はネジの外れたいかれ人間か、見るからに輩といった印象を受ける人間か、何もわからなくなった年寄りくらいなもの。

ビルが立ち並ぶこの周辺はもしも若者らが元気に一杯やっていれば、にぎやかになったであろうが、ここには居酒屋はおろか、コンビニもない。あるのは黒シミが現れ、ところどころにへこみがあったり、穴が開いていたりするビルのみで、その中にはヤクザどもが巣を作っている。

この辺りにある巣は黄色いクマがぶっとい腕を突っ込んで必死に探すような甘いものではない。腕も、足も突っ込んだ瞬間に削ぎ落されるだろう。


ここらでは、しょっちゅう行方不明者が出るし、喧嘩という名の殺し合いも日常茶飯事。裏の密約により無法地帯として守られている地獄である。

近隣住民はまず立ち入らない領域であるし、ヤンチャ坊主たちが無謀な挑戦を仕掛けることもない。それほど、この土地は地獄として認知されている。


だから余計に目立つ。


無法地帯であり、犯罪の温床であるこの地域にまだ若い少女が堂々と歩いていれば。

少女は物珍しそうに彼女を見つめる荒くれものたちを一瞥することもなく、目的地へと最短ルートで進んでいく。少女をおいしいそうに見つめる害悪たち。スマホを覗きながらちらちらと視線を移すものがいれば、ゴミ箱の影から気味の悪い目を向ける者もいる。

うっとおしい。

だが、それを口にすることはないし、そんなことで彼女は足を止めたくはなかった。

なにせ、ここは彼女にとってゴミだめどもが集まる地であり、高貴な生まれであり、生まれながらにして勝ち組の彼女にはふさわしくない場所であるから。こんなところに長居するなど、ありえない話である。とっとと用事を済ませ、広い屋敷のフカフカなベットで横になりたい。


「君なんでこんなところにいるの?ここは危険地帯だよ?ほら、僕と一緒に駅のほうで遊ばない?こんなところにいるよりも絶対に楽しいからさ」


話しかけてきたのは金髪の男。ここにいるにしては顔がまともで、陰気は感じない。

しかし、明らかに罠でる。そもそもここにいる時点でやばいやつであることに変わりはないのだ。温くいっても体を金に変える仕事を強制されることとなるか、わけもわからず金を落す立派な廃人にさせられるだけだ。


この場にかの勇者様がいれば、彼女は即弱弱しいふりをしていただろうが、奴はいまここにはいない。

金髪お嬢様は取り繕うことなく言い放った。


「話しかけないでくださる?ゴミ特有のにおいが移ってしまうわ」


恐れることなく、そう言った。

ピキッと額に青筋が走りそうになるのを男は耐えきった。彼もクズで、ゴミではあるが、一応貢がせる、廃人に作り替えるプロたちの端くれ。この程度でくじけるような男ではない。それに、彼の成果、勝利を期待している同じゴミどもが見ているのだ、恥はさらせない。


「え~?お嬢さん、結構厳しいね~。あ、もしかしてここに用事があったの?その用事僕が手伝ってあげるよ。これでも顔広いし、人探しとかなら大得意だからさ」


「必要ありませんわ。場所は事前に本人たちから聞きました。というか触らないでくださるかしら。獣臭いにおいがついてしまいますわ」


「酷いな~。僕これでも草食系だってよく言われるんだけど?僕結構誠実なんだけどな~」


「……何か勘違いしているようね。誠実だとか、そういった話をする以前の問題ですわ。私には心に決めた彼がいますの」


「じゃぁ、僕もその恋模様に乱入しちゃおうかな!男はかわいい女の子を奪い合うものだもんね」


「何を言ってるのかしら……動物園にいるサルをオスメス気にしてみる人なんていませんわよ」


もはや恋人だとか、そういう次元の話ではない。


金髪お嬢様にとってはそれこそサルにしか見えていないのだろう。

勇者様を想う心はまるで操られているかのように真っすぐで、それ以外は邪魔な獣でしかない。

うっとおしく隣を歩く男も、クラスメイトも、教師も、ライバルである勇者の取り巻きたちでさえ、彼女にはサルにしか見えない。なぜ、ただのサルどもに人間様が遠慮せねばならない?なぜ人間様がサルの事情を考慮しなければならない?なぜ下等生物ごときが唯一の人間様たる勇者と金髪お嬢様の関係を邪魔している?


「そろそろ離れなさい。うざいわ」

「冷たいな~。ちょっとくらい遊ぼうよ」

「……いつまでもそこにいると言うのならば、実力行使にでるわ」

「あっはっは。僕は確かにマッチョでもなんでもないけど、男だよ?君みたいな美しいお嬢様にどうにかできるほどよわっちくないよ」

「そう……」


金髪お嬢様はこぶしを握る。


そして、一瞬加速したかと思うと、ナンパ男の腹を思いっきり殴りつけた。渾身の一撃。まだ幼いお嬢様から繰り出されたとは思えない一撃であった。微塵も容赦を感じさせない一撃はナンパ男の薄い腹にクリーンヒットし、余裕の表情を見せていた男をはるか後方へと殴り飛ばした。男は殴られた衝撃と強打した背中の痛みにより、意識を失くし、その閉じられることのなかった口をようやく塞いだ。


「やっぱりバカサルでしかなかったわね」


そう零すと、金髪お嬢様はナンパ男に一瞥をくれてやることもなく、再び歩き出した。

サルが一匹死んだくらいでは人間様は悲しまない。心は動かない。

あ、そう。

の領域なのだ。


「さて、この辺りのはずだけれども…あぁ…あれみたいね。もう少しわかりやすくしてほしいものだわ」


金髪お嬢様は自然とこぼれてくる独り言を隠すことなく吐き出す。

このようなゴミダメが集まる場所に人間様を呼びつけること自体生意気であり、許されざることだというのに。自分のことをなめすぎではないか?そう思わずにはいられない。


「んあ?あぁ、あんたがボスのお客人か」

「そうなるわね。全力をもってもてなしなさい」

「あー……すまんな、俺たちゃこのゴミ捨て場で育ったんだ。あんたらみたいな高貴なお方のもてなしかたは知らねぇんだわ。すまねぇな

「ふーん、まぁいいわ。話が通じるだけマシってものよ」

「なんだ?なんか疲れてんな?」

「えぇ、さっき変なのに絡まれたばかりなのよ」

「ふむ……俺にゃぁ偉そうなこと言う権利もねぇが、たまには肩ひじ張らず適当に過ごすのもいいもんだぞ」

「……考えておくわ」


見張り役の男からわけのわからないお説教をいただき、金髪お嬢様は薄暗いビルの中へと乗り込んでいった。


見るからにボロボロで、いまにも崩れてしまいそうなビルの中。

切れかけの蛍光灯、途中で折れた役目を果たせていない手すり、階段に積み上げられた表紙に裸の女が描かれた大人向け雑誌、なぜか室内に放置されている車の残骸などなど。廃れた世界をほうふつとさせる荒れ具合。これでこそ無法地帯である。


そんな世紀末ビルの最上階。下の階よりも比較的綺麗に、状態のいいまま残されたこの階の最奥。もともと、このビルが全盛期だったころ、社長室として使われていた部屋。

他の部屋とは違い、両扉となっているその部屋こそが金髪お嬢様が目的地として定めていた場所である。


「邪魔するわよ」


高貴なお嬢様はノックなどしない。

サルが住む檻にノックするおバカさんがいるのかしら?


「ノックはしろや」


しません。


「私からきてあげたのよ。その程度笑って見逃しなさいよ」


たとえそうでなくても、ノックはしません。


「はっ、俺が行けたなら行ってるっつうの。いくらあんたがつえぇつっても、まだガキだ。こんなところ来るべきじゃねぇからな」

「誰がガキよ!年齢で価値を決めるのは愚か者の考えだわ!」

「はいはい」


確かにそうだ。

実年齢が低くても、成人した人間より優秀なのは結構いる。まだ若いから、その一言で片づけるのは愚かだ。そういう人間は心配しているように見えて、可能性や人間の意思を殺しているだけなのだから。


「……話が進まないわ。はやく本題を言ってくれるかしら」


今日は疲れる。お嬢様は額に手をあて、ため息をつく。普段我慢せず生きているため、相手に合わせるということに慣れていないのだ。


「あーわりぃわりぃ。今回呼んだのはアレの件だ」

「あら、今回は早かったのね」

「まぁな。ターゲットがそちらの世界ではかなりの有名人だったからな」


金髪お嬢様、次のターゲット。


鈴木京子。学園一の才女として学校内にも知らぬ者がいない美少女優等生。

その正体は、裏の世界、つまりはファンタジー世界、そこでも有名な唯一無二の天才魔法使いである。


それが陥落する姿を想像したお嬢様は自分の口元が醜く歪んだのを感じ取った。


娘たちの扱いも難しい。

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