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一般人、ファンタジーに挑む。  作者: ストゼロが友達
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金髪お嬢様

使い方がわからん


あぁ、やはり夢だったか。


白金はそう思った。

今日も一日、何事もなく過ごした。高校生活初日、入学式は何事もなく終わり、一般人白金は帰宅した。


放課後、真っ黒な体に蒼い美しい瞳の猫についていった。そのあと、それ以降の記憶が抜けている。

気が付いた時にはここにいた。自宅のベットの上。対して大きくもないベットの上でいつも通りの天井を見上げた。

最悪の夢を見て起きた。

全身汗びっしょりだ。


「……もうこんな時間か…ご飯食べようご飯」


揺れる頭、完全に無理をしていた脳を片手で支え、手すりを使って一階のダイニングへと向かう。

異常に身体がだるいが、家族に余計な心配をさせないがため、白金は一人ダイニングへと至る扉の前で深呼吸をした。



◆◇



白金には仲のいい友がいる。


名は黒田雄二。

いわゆる細マッチョというやつで、日々筋トレに励む少し怖いお兄さんである。その風貌により、周りから恐怖されていた時、白金が話しかけたところから関係は始まった。


「……お前もか…」


なんと雄二も同じ夢を見ていた。


死体の山、三人の不思議な男、ビルの影に散らされた血飛沫。

連れて行ったのは白い体毛に、赤い瞳が怪しく光る狼だったという。


「珍しいこともあるもんだね」

「…だな」


そう言うしかない。


あれが現実であったなど、信じられるはずもないし、ましてや別々に帰った悪友同士が同じ光景を見るだなんてありえない。それもあれ程の凄惨な現場をだ。どんな偶然だ。

最悪の入学式であった。

昨日の夕飯はアレを思い出してしまったがために、なかなか食い終わらなかった。吐き出さなかっただけ、二人とも優秀だ。


「にしても…」

「このクラス、結構濃いよね」


逃げます。

この話題から逃げました。


「学校の勇者様に金髪お嬢様、不出来な会長の妹、ツンデレ幼馴染、女にしか見えん男、拗らせてるチビ女、超根暗オタク、寡黙でなにか抱えていそうな男……他にも何人か変なのがいるな」

「ん~ちょっと複雑すぎるね」

「いや、このクラスは勇者様中心に回っていくだろうし、下手に動かなけりゃ俺たちの生活は穏やかなもんだろうよ」

「…ほんとかなぁ」


今にも物語が始まりそうだ。というか、もう既に始まっている可能性すらある。

中学のころからあれならば、ここは延長戦。三年間を修羅場ありの世界へと導いてくれるであろう。迷惑すぎる。


「まぁまずは勇者様に目をつけらんねぇことだ」

「難しくない?」

「なぜだ?」

「いやだってさ、あいつ『みんなで協力』大好きじゃないですかぁ、いやだぁ」

「巻き込まれたくねぇな」

「雄二は無理じゃない?君目立つし」


顔はそこそこ程度だが、体はがっちりしていて、存在感もある。

そこらのチンピラでは相手にならないほど喧嘩も強い。モテ要素はある程度高めである。


「ならおめぇは物資援助係か…」

「いやすぎる」


白金はモノづくりが特技だ。木材を使うのも、小物つくりも、電子機器もお手のものだ。

自分もしくは仲のいい雄二なんかに使いつぶされるならば文句はない。だが、よくも知らないバカに使いつぶされるのは我慢ならない。


「勇者には要注意だな」

「だね」


勇者呼び、確定である。


「うっしゃ、ホームルーム始めんぞ~!」



◇◆



その日の放課後。

恒例の自己紹介イベントは平和に終わった。やはり、この世界は勇者様中心で回っていた。


白金と悪友はそのまま帰るという選択をせず、駅近くのカラオケ屋へと寄り道することに決めた。

部活?んなもん、入るわけねぇだろ。高校入学前から決めていたことだ。

今しかできないこと?遊びに決まってんだろ。集団活動、上から押さえつけられる苦痛、大人になればいやでも味わうもの。それに、大人になれば遊べる時間なんてない。そもそも、友人や恋人と同じ時間を過ごせることなど、滅多になくなる。その時間が腐るほどある学生。学生が唯一持て余すものだ。使わねば損だとは思わんかね?


行きつけのカラオケ屋に向かう途中。

それなりに賑わう駅前交差点抜けた先、少しだけアウトローな雰囲気を感じる狭い路地。なぜか乱立するごみ箱と、そこからはじかれたごみ袋たちがひしめく場所。


「ん?ありゃぁ…」

「どうしたの?」


そんな場所に似つかわしくない女が。

それも、二人が今日であった人物である。そう、勇者様の取り巻きの一人


「金髪お嬢様じゃねぇか?」

「あれ、本当だ。勇者様と帰ったわけじゃないんだね」

「場違い感すげぇな」

「ん~なにしてるだろ」

「ちっと様子見していくか?」

「そうしようか。どうせカラオケ行ってもグータラしてるだけだし」


乱立するごみ箱たちの影。ギリギリ見えない位置に構え、金髪お嬢様の様子を伺う。


今のところ、金髪お嬢様以外に人はいない。

しかし、だれかを待っているのか、妙にソワソワしているように見える。勇者様が来るとは思えないが、他の人は思いつきやしない。金髪お嬢様はほかの男子を寄せ付けないし、同性の友人がいるという話も聞かない。


しばらく待っていると、金髪お嬢様のもとに三人の男が近寄ってきた。

いたるところに刺青をいれたすこしイタイお方たち。俗にいうヤーさんである。最近はめっきり見なくなったが、まさかこんなところで拝むことができるとは。


「おっそいですわ!!この私をいつまでも待たせるだなんて!ごみくずが!!」

「……くそうぜぇガキだな」

「なんですの!?文句があって!?」

「んでもねぇよ」


温度差がすごい。


「ふん!まあいいわ。それで?アレは手に入ったんでしょうね?」

「……ほらよ」

「ほめてあげますわ。さすがは叔父様の部下なだけはありますわ」

「俺たちゃ金が貰えりゃそれでいい」

「約束は守りますわ。指定口座への入金。忘れていないわよ」

「あっそ。んじゃ俺たちゃ帰る。この辺は化け物どもの巣窟だからな。あんたも気をつけな」


白金たちはてっきり誘拐案件かと思っていたのだが…まさか、物の取引現場だったとは。

男たちが帰った後、金髪お嬢様はしばらくニヤニヤふっふと気味の悪い笑みを浮かべていた。受け取ったものはUSBメモリ。中になんらかが入っているのだろうが、いいもの、ではないだろう。

どうやら、勇者様の取り巻きの一人はやばいやつだったようだ。


勇者様は鈍感が過ぎる。


「これであの女は終わりですぁ!!」


お嬢様はスキップでもするかのような軽い足取りで路地を抜け、表の世界へと戻っていったのであった。


見てしまった。

聞いてしまった。


「はてさて、どうなるんだか……」






次の日、勇者様の取り巻きの一人、ツンデレ幼馴染は学校に来なかった。


嫁さんはそっけないし、二人の娘は返事しないし。

やっぱりお前だけが恋人だよ、ストゼロ。

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