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1話・受験




『今日も予定通り行きます。準備して待っていて下さい』

中学生だからと、まだガラケーの私の携帯。

メール画面を閉じると、数学の参考書、ノート、筆記用具を出してテーブルに並べる。

今日は土曜日。

1週間に1度、家庭教師が来る日。

その、家庭教師というのは…

「こんにちは!竹内です。お邪魔します」

部屋から出て、2階の踊場から階段を覗く。

すると、『彼』が上がりながら上を見た。

「よう、元気だったか?」

ちょっとぶっきらぼうな口をきく、先生は25歳。

私より10歳年上。

夏期講習に行った塾の、臨時講師だった人。

今は普通の会社に勤めていて、1週間に1度だけ来てくれるのだ。

母の同級生の息子さんで、母が頼み込んだらしい。



「今日はここのページからな」

問題集のページを指し、私はその問題に取りかかる。

終わると、先生が採点と解説をしてくれる。

ローテーブルの辺と辺。

遠いようで近く、近いようで遠い。

たまに肘が触れることもあったし、先生が私の持ってるシャーペンを取る時、指に触れることもあった。

何気なくされたことでも、私にとってはいちいちドキドキすることだった。

だって私、初めの授業の時先生を好きになっちゃったんだもの。

志望校にはちゃんと合格したい。

でも、受験生じゃなくなったらもう先生に会えない。

身を入れたいけど、身が入らない。

そんな態度を、気づくと注意されてしまう。

「ほら、もっと集中しないと。解けないぞ」

伏せ気味の目元にまつ毛が影を作る。

切れ長の目に見とれてしまうのを誤魔化したくて、

「すいません、先生」

と、そっぽを向いて返事をした。

そっぽを向いたまま手を止めてると、ぐっと顔を寄せて来るからビクッとする。

「何、ビックリしてるの」

口はぶっきらぼうだけど、ふふ、と笑いながら言ってくれて優しい。

優しいのは嬉しいけど、心臓に悪いよ、先生。

胸の中だけで呟いて、問題に取り組んだ。

後少しで本番。

追い込みなんだから、余計なことは考えちゃダメ。

…分かってはいるんだけど。



「一息つこうか」

母がコーヒーとドーナツを持って来てくれて、休憩になった。

休憩になると、先生は必ずスマホをチェックする。

彼女からメッセージが入ってるからだ。

読みながら頬が緩んでるのを見ると、胸の奥がきゅってなる。

分かってるけど…私はただの生徒だって。

中3の子どもだって。

でも、中3だって誰かを好きになれるんだよ。

モヤモヤして、先生に八つ当たりした。

「あーあ、私も優ちゃんみたいなスマホ、早く欲しいな~。それで、彼氏からのメッセージ見てにやけるんだ。誰かさんみたいに」

ドーナツを一口食べてから、口を尖らせた私の鼻がぐーっと摘ままれた。

「高校に入ったらって言われてるんだろ。まず、合格しなきゃな。それから、俺が彼女のメール見てにやけて、何か問題あるか」

指が離れても、尖らせた口のまま黙った。

…狡いよ、こんなこと。

好きになったら、こんなことだって嬉しいのに。

あなたは私なんか、眼中に無いんでしょ。





優太




母の友人に頼まれて、仕方なく引き受けた数学の家庭教師。

生徒は中学3年生の女の子だった。

10も下の中学生か。

子供のお守りみたいなもんかと思い、半年くらいならと通う事にした。

土曜の午後、親がいるとは言えその子の部屋で二人きり。

10上でも、俺だって男。

心配じゃないのか。

それとも、よっぽど子供なのか。



初めて訪ねた日。

玄関で迎えてくれたその子、中村結ちゃん。

予想してたより大人びていたし、物怖じしない子だった。

部屋に通されると、

「ここにいる時は結でいいよ」

と、俺の目をまっすぐ見て言われて、内心焦った。

今の15歳ってもう、大人みたいだなと。

「先生のこと、優ちゃんって呼んでいい?」

しれっと聞いて来るから、尚更。

いやいや、それはマズイよ。

「勉強してる時は先生って呼びなさい」

「…はーい。じゃ、それ以外は優ちゃんて呼んでいいの」

「え?まあ、それは…でも、勉強以外で会わないだろ」

「…そうだけど」

大人びてるけど、この辺はまだ子供なのか。

とにかく、1週間に1回の先生稼業が始まった。



冬になり、受験の本番が近づくと、さすがにふざけたり無駄話をする余裕は無くなった。

ただ、何に気を取られているのか、集中が切れることがよくある。

受験勉強疲れか…

でも、元々は勘の良い子だから、集中してやれば成績はちゃんと付いてきた。

ここまでくれば、後は本番で力を発揮すればいいだけだ。

結果が出れば、俺の先生業も終わり。

ただ…ここ何回か、結からの視線をよく感じる。

目を向けると、見たことのない瞳をしている。

考えてみれば、中3と言ったって女の子。

受験生だって好きな人の1人や2人、いてもおかしくない。

そんな悩みがあるのか。

彼女からのメッセージに緩んだ顔を見せたから、不貞腐れたのか。

やっぱり、女の気持ちはよく分からない。

それが、中学生でもだ。

彼女によく鈍感だと怒られるからなあ…

結を見ると、ドーナツをぱくついてる。

もう、早く合格してもらって、お役御免になりたい。

こんな慣れないことから早く解放されたい気持ちと、結がどうなって行くのか気になる気持ち。

まるで、海の上のボートでゆらゆら揺れてるようだ。









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