三野岡 明日と嶽岡 未来が交際をはじめた経緯
あらゆる分野で中央値を取っていた彼には、他人のポテンシャルがある程度推測できた。
何のことはない、自分より優れていればその人は真ん中より上で、自分より劣っていれば真ん中より下だ、とわかるだけだったが。
そして彼女は数多くの分野で彼を上回っているにも関わらず、それを押し隠しているように見受けられた。
彼には理解できなかった。彼がどこかで望んでいた力を彼女は自然と持っているのに、どうしてああまでひた隠しにして抑え込んでいるのか。
あれだけ多岐にわたって人並み以上の実力を持っているなら、人を率いることだってできるだろうに。どうしてひっそり生きているんだろう。
初めはただの好奇心だった。彼は彼女を気にかけはじめた。
どう考えてもあっちが悪いのに、どうしていつもいつも折れるんだろう。やり合えば勝てる相手じゃないか。
次に、もどかしさに歯噛みした。彼は彼女を強く意識しはじめた。
ああ、へたくそ。勉強でなら何もかもわかるくせに、どうしてこんなことにつまずくんだ。人と接するのはそんなに難しいか。人に合わせるのはそんなにやりにくいか。
それから、助けたい、手を差し伸べたい、と願った。彼は彼女に近づく方法を考えはじめた。
まったく目立たない彼は人付き合いでも大きく目立つヘマも大きく目立つ成功もしなかったが、幼少期に身に付けていた処世術により、まあまあな関係を周囲と築いていた。
そして彼は、なんとなしに彼女への好意を、彼女本人ではなく周囲へ悟らせた。
彼女は誰かからの視線に気を配れるほど器用ではなく、埋められていく外堀を崩せるほど豪胆ではなく、そしてコウ意を突っぱねられるほど彼を嫌っていなかった。
そうして、彼と彼女は恋人関係に至って。たくさんの秘密を共有して。『三野嶽夫婦』と、呼ばれるようになっていった。
ただ、その呼称には、『身の丈に合っている』なんて少し不名誉な意味が含まれていた。
彼は幸いにも平凡な自分にきちんと満足していて、彼女に引け目を感じすぎることもなく、対等に接することができた。
彼女にはそれが新鮮だった。中学まではなんとなく『上』に見られ、高校からはなんとなく『下』に見られながら、生きてきていたから。
そして、彼となら、『身の丈に合っている地味なカップル』というレッテルも悪くないな、と思うのだった。




