世界を捨てる恋
少し涼しくなる、秋の夜。薄い明かりの部屋の中、私と、私の恋人は、ロープを結んでいた。
「できたよ」
彼女はそう言いながら、ワッカができたロープを掲げる。それは、ドラマでよく見るような、首吊りロープ。私の手元にも、それと同じものがあった。
私と彼女は付き合っている。女同士ではあるが、私たちは互いに好き同士の仲だ。付き合った当時から、この関係は二人だけの秘密にしようと決めていた。世間一般に受け入れられないことは分かっていたからだ。
しかし、二人の平穏な日常は1年と続かなかった。
私と彼女が付き合っているという噂が学校中に広がってしまった。クラスや学年だけでなく、学校中。私たちは常に好奇の目に晒されることになった。時には、心ない人からひどい嫌がらせを受けることもあった。
誰も頼れる人はいなかった。友人だと思っていた人も、離れていった。先生も、警察も、誰も動いてくれなかった。私たちは孤独だった。たった二人きりでいた。
しばらくは精神的苦痛にも耐えていたが、周りからの嫌がらせや無遠慮な振る舞いはエスカレートしていった。もう耐えられない。私がそう思っていると、彼女もそう思っていることがわかった。
私たちは、もうこの世界にいる必要はない。私たちに冷たくするこの世界には、存在する必要がない。なら、この世界を捨ててしまえばいい。
その考えに至るまで、時間はかからなかった。
私は今から彼女と一緒にこの世を去る。悔いはない。ロープを高いところに掛け、いつでも吊れる状態にする。ちょうど、30分ぐらい前に飲んだ睡眠薬が効いてきた。
「もうこの世界ともお別れか」
死ぬ直前になって、これまであったことを思い出してきた。辛いこともあったが、楽しいことや嬉しいこともあった。彼女との出会いと、その後彼女と過ごした日々。それが走馬灯のように頭の中を駆け巡っていった。
「死ぬのが怖くなった?」
彼女がからかうように笑いかけてくる。
「まさか」
彼女の目を見つめながら答える。すると、彼女が私の頬に手を添えた。
「しばらくお別れかもね。でも、またいずれ会えるわ」
どちらからともなく、口づけを交わす。それは別れのキスか、約束のキスか、たくさんの意味を含んだキス。
「そうだね、また会おう。その時は幸せになれるかな」
「もちろん。そろそろ、時間ね」
台に乗り、ワッカに首をかけながら最後の言葉を告げる。
「永遠に愛してるよ」
「私も。愛してる」
もう一度口づけをして、私たちは同時に足場を蹴った。