君の不安
「……ね!」
………。
「凜音っ!!」
「え!?な、何?」
「聞いてなかったな…。まぁ、良いや。」
昨日から何だかおかしい。
如月のあの声が頭から離れない。
「あ、彩夏あのねっ!きさら…」
あ、誰にも言っちゃダメって言われたんだ…。
「ん?如月が何?」
ヤバいヤバい、如月凄い睨んでる。
「きさら、木皿って知ってる?オシャレだよね~」
「木のお皿?まぁ、サラダとかのせたいよね。」
何とか乗りきった?
ホッとした時、
「後で教えてね、如月のこと♪」
彩夏がズイッと私に近づいて耳打ちをした。
バ、バレてる。
キーンコーンカーンコーン
私は不安を抱えたまま昼休み、午後の授業が終わり放課後になった。
「凜音!かーえーろー!」
私に相当話を聞きたいらしくウキウキしながら席にやって来た。
「あの…彩夏ゴメンね。これから一緒に帰れないんだ…」
「え?」
彩夏は眉を八の字にして悲しんだ顔をしている。
そんな顔されたら無理だよ…。
「ちょっと凜音、カモン!」
え、え、と戸惑う私をよそに彩夏は無言で私の手を引っ張った。
「凜音、如月と何かあった?」
人気のない階段まで連れてこられた。
「う、うん。でも言えない…」
「はぁー」
私がウジウジしながら言うと彩夏は盛大に溜め息をついた。
「凜音が言いたくないならいいけど、何かあったらちゃんと言ってね、いつでも相談のるよ!」
彩夏の言葉に涙が出そうになった。
「あ、あやかぁ~、ありがと!いつか言うから、待ってて?」
「はいはい、あ。
帰り一緒に帰れないなら彼氏と帰るから気にしないで…」
「えっ!?」
急に視界がフワッと暗くなった。
これ、誰かの手?
長い指、でも大きいな…男子?
「山口、教室行くよ。」
視界が明るくなったと思ったら手首を掴まれまた引っ張られた。
私はあたふたしながら
「彩夏!ありがと!
また明日!」
空いている右手でブンブンと手を振った。
「き、如月、」
さっきから何も言わないで歩いている如月。
怒らせた?
呆れたかな?
あれこれ考えてるうちに教室に着いた。
「山口。」
ビクッ
「はい!」
「ゴメン。」
「ご、ごめん………え?」
え、今ゴメンって言った?何故に?
「話してたのに、山口帰っちゃうんじゃないかと思って…」
シュンとしている如月を見て可愛いなと思ってしまった。
「帰んないよ。だって聞きたいもん、如月の声。」
そう言うと如月は笑顔で歌い始めた。
「君が好き」♪
如月の歌っている姿を見て歌いたくて歌った。
すると急に歌が止まり如月がバッとこちらを見た。
「あ…ごめん、邪魔しちゃったね」
「いや、」
如月はボーッと私を見ている。
「おーい、どうした?」
如月の顔の前で手を振る。
「凄く良い、」
「へっ」
「山口何もかも普通なのに声良い」
今、さらっと悪口言ったよね?
「え、褒めてる?」
「うん、山口の声好きだわ。」
まただ、
山口に"好き"と言われるとキュンと悲しくなる。
[そろそろ下校時間です。校舎内にいる生徒は早くかえりましょう。]
「帰ろっか。」
「うん」
そう言って二人で教室を出た。
「山口どこに住んでんの?」
「○○駅の近く」
「あ、俺隣の駅だ。良く朝会わなかったね。」
「如月いつも来るの遅いじゃん」
如月は完璧なのに朝は遅い。
常に遅いがその内1週間に1回は遅刻する。
「そんなに俺のことみてんの?」
と意地悪そうな顔で見てくる。
くっそー、ムカつく。
「遅刻する人なんて珍しいなと思って見てただけだから。」
反発して答えを返したが、
「でも見てたんだ?俺のこと好きなの?」
如月の方が上手だった。
「~っ!!」
「如月ウザい。ムカつく。嫌い。」
「山口普通。普通。普通。」
あーー!ウザい!!
さっき少しでも可愛いなって思った自分がバカみたい。
「そのくらい知って…」
「でも、声は綺麗。」
褒められると何も言い返せない。
[○○駅~○○駅~]
あ、降りる駅だ。
あと少しで駅に着きそうになった時、
「!!?」
隣にいた如月が私の肩に頭をのせて、手をギュッと握った。
プシューという音と共にドアが開く。
「如月、私降りなきゃ」
「また明日な。」
耳元でそう言われて手を離された。
私は如月の顔を見ずに降りた。
いや、見られなかった。
そして、ドアが閉まる直前に
「バイバイ、如月!」
顔をあげてそう言った。
「………。何、あの顔。」
電車が走り去り一人で呟いた。
如月は何とも思わずにあんなことしたのかな?
だって、
あんなに…
上っ面だけの笑顔。
如月の本当の笑顔なんて知らないけど、あれはどうでもいい女の子に絡まれた時にする笑顔だったはず。
悲しい。
そう思うとまた、心が悲しく音をならした。