君の歌
私達の学校にはアイドルがいる。
"如月柊"
イギリス人の父に日本人の母のいわゆるハーフです。
雲の上の存在の彼に関わることなんて一生ないと思っていた…―――
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「好きです!付き合っ」
「ごめん、無理」
泣きながら去っていく女の子。
「あーあ、今の子結構可愛かったのにね~」
親友の山崎彩夏は隣でダルそうに言った。
「ね、ってか多くない?如月に告る人。何が良いんだか…」
私、山口凜音は一度も恋をしたことがありません!
「顔でしょ。」
「まぁ、顔はいいけどチャラそう。」
色素の薄い柔らかな髪に焦げ茶色の目。
猫みたいだなぁと思わせるその見た目。
「どうでもいっか!帰ろ。」
「うん、」
そっか、もう帰っていいんだった。
女の子の告白がインパクト大きすぎて忘れてた。
正門を出て駅につく頃に気づいた。
「スマホ忘れた…」
「一緒に戻ろうか?」
そう言ってくれる彩夏だが彩夏の家はかなり遠い。
「ううん、大丈夫!先帰ってて。」
私は笑顔で言った。
「そっか、じゃあまた明日。」
うん、じゃあね、と言って私は走り出した。
今は5時か…急がなくちゃ。
タッタッタッ
はぁ、間に合った…。
私は息を整えながら教室に近づく。
~♪
ん?何か聞こえる。
私は吸い寄せられるように教室のドアまで行った。
「……き、そ……いの…」
誰か歌ってる?
もっと聞きたいと思いドアに更に近づいた時、
ドンッ
足をドアにぶつけてしまった。
やっちゃった…。
スマホは明日で良いや!
そう思い走ろうとした。
「待って!入って来て。」
中にいる人に呼び止められた。
恐る恐るドアを開けると、
「如月?」
学校のアイドルがいた。
如月は人懐っこい笑顔で手招きしている。
冷たい印象を持っていた私にとって意外だった。
「……。」
「……。」
え!?無言?
気まずい…。
気まずい空気に耐えられず声をかけた。
「あのー?」
「俺の歌、聞いた?」
「へ?」
ここは聞いてないと言って空気を和らげた方が良いのか、それとも正直に言う方が良いのか…
「聞いたよ。」
「歌詞は?歌詞聞いた?」
「か、歌詞はあんまり聞こえなかった。」
そっかと答えてまた無言になる。
帰っていいかな?
「ね、俺の歌聞いてくんない?
人の意見聞きたいから」
「良いよ」
如月は窓の方を向いて歌い始めた。
夕日に照らされながら歌う姿はとても美しい。
「君が好き。
この想いを今すぐ伝えられたらいいのに。
ねぇ、君が好き。」
スゥと息を吸い出した声は凄く綺麗だった。
透明感のある透き通った声。
歌を歌いながらチラッと私を見て微笑んだ。
まるで私に言っているようでドキッとしてしまう。
「どう?」
「すっごく綺麗!」
すると照れたように笑って、
「そんな目キラキラで言わないでよ。」
と言った。
「如月は凄いね。」
「何が?」
「見た目良いし、人気者で頭良くて。良いところありすぎだよ、」
フフフと笑みがこぼれる。
「山口はさ、普通だよね。」
「なっ!」
それはそうだけど…。
「嘘だよ、山口面白い。
山口可愛いし友達多いじゃん」
そう言われると照れる…。
「じゃ!これからもよろしく。」
「ん?何が?」
なんのことだかさっぱり分からない。
「歌の練習付き合ってよ」
「えっ…」
突然過ぎて固まってしまう。
放課後は彩夏と帰るし…、どうしよう。
「あー、やっぱ迷惑だよねごめん。」
いや、違う。
何ならもっと聞きたいくらいだし。
「やだ、やる!
もっと聞きたい。その声も歌も…聞きたい。」
「ありがと」
そう言って彼は優しく笑った。
私はその日、彼の声と歌に心を奪われた…―――。