第肆幕 伊賀の白狐
僕は土方さんを抱え、自陣へ一旦戻った。
「土方さん!死んでる……」
一人の隊士がそう言うと、他の隊士達が「俺達の負けだぁ」「勝ち目はない」など弱音を吐きだした。
「弱音を吐くな!」
僕は叫んだ。弱音を吐くなんて、武士の風上にも置けない。隊士達は下を向いていた重たい顔を上げ、僕を目を見つめた。隊士達は目を見開いた顔をしていた。当り前だ。僕はきっと、諦めていない顔をしている。
「土方さんからの命令だ。僕達にはもう勝ち目はない。せめて、敵に僕達の誠の意志を見せてやれ!」
隊士達と僕の目からは涙が溢れていた。
(確かに伝えたよ。土方さん)
「敵に涙を見せても構わない。けど、背と弱音と退く姿だけは見せるな。いいな!」
「「おぉー!!」」
「かかれー!!」
隊士達は僕の声に応えるように、敵陣に乗り込んでいった。僕は土方さんを降ろし、
「あの世で見守っててね」
そう伝えて、彼らに置いて行かれないように、敵陣に向かって走った。
隊士たちが戦っている中、僕は一直線に敵本陣へと向かっていた。大将同士一騎打ちをし、早く戦争を終わらせるために。
「あんたが大将か?」
「ああ」
「僕と一騎打ちしろ」
敵から見れば死を呼んでるようにしか見えないのであろう。それでいい。僕のたった一つの命で彼らの命が救われるのなら。
「いいだろう。名を名乗れ」
彼は立ち上がり、刀を抜く。
「新選組一番組副組長、九尾一族二十九代目、九尾雷丸だ」
「ほう……あの、伊賀の狐か……来い」
「うわあああぁぁっ!!」
必死だった。早く終わらせて、隊士達の犠牲を無くそうと。
一瞬で終わった。結果は僕の負けだ。今更悔しがっても意味がない。
「一つだけお願いがある」
「なんだ?」
「これ以上の犠牲を出すのをやめてほしい」
「……わかった」
(話が分かる人で良かった)
内心、ほっとした。体の力が全部抜ける感覚がした。僕は悟った。これが死だと。
「伊賀の白狐……か……」
彼の言った言葉があの世へ逝く僕の耳に深く残った。
≪新選組一番組副組長、九尾雷丸 五稜郭で戦死≫