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呪界の怪談  作者: もの子
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すみれ

小説を書くのは初めてです。お手柔らかにお願いします。

ジャンル、ホラーと恋愛どっちに投稿すればいいのか迷いました…。

 幽霊なんて存在しない。

 前世の私はそう信じていた。

 夏の蒸し暑い夜にはそういう番組がテレビで放送されるのが恒例だ。

 私は霊なんてこれっぽっちも信じていないと言い張る癖に、毎年そういう番組を予約までして視ていた。

 そして夜中、怖くて眠れなくなる。トイレに行けなくなる。

 そんなことを毎年毎年、馬鹿みたいに繰り返していた。

 だけど、「幽霊なんて信じていない」なんて、今思えば本当はただの強がりだったのかもしれない。

 幽霊はいるんじゃないか。

 私は死んだらどうなるのか。

 冥府は存在するのだろうか。

 そんな考えてもしょうがないことを、真っ暗な天井を見つめながら考える夜もあったから。


 オカルトな話が続いてしまうが、これらの記憶は上記の通り前世のものである。

 そして、それを思い出したのはつい最近のことだ。

 

 私の名前は塔原すみれ。

 今は小学6年生で、私立の小学校に通っている。

 家庭環境は極めて裕福かつ穏やか。

 父は大きな不動産会社の社長であり、娘の私はかなり甘やかされて育ってきた。

 そのせいか性格は自己中心的でわがまま。いつも他人のものを欲しがる嫌な女の子だった。

 しかし両親も年の離れた兄もそんな私のわがままを咎めることもなく、できるだけ要望を聞き入れて面倒な嵐が静まるのを待つような性格だった。

 やれやれしょうがない子だねぇとニコニコする父と母。

 教育方針は間違っているのだろうが、そんな二人からは愛情を感じていたため、私は彼らが大好きだった。

 しかし同じように私を叱らない5つ年上の兄は、私のわがままを何も考えていない人形のような表情でいつも眺めていたので、両親とは違い私のことなど可愛がってはいないようだった。

 生意気な妹をまるで存在しないかのように扱うのは、まぁ対処法としてはアリだろう。

 しかし美しく整っている兄に、人形のように無機質な表情でじっと見つめられると正直、怒られるより怖い。

 前世の記憶を思い出したことで自らを省みておとなしくなった今でも、兄に対しては妙に緊張してしまう。


 前世の記憶は、高校を卒業した後までしか覚えていない。

 ただ単に思い出せないのか、それとも大学に行く前に死んでしまったのかは分からない。

 思い出せるのは前世でも私は女の子で、友達はたくさんいるけど彼氏はいない。容姿も成績も中の中…。

 一言で表すと「ごく普通の女の子」だ。親より先に亡くなる親不孝ではあったかもしれないが。

 もしそうなら前世の両親には本当に申し訳ない…。

 しかし自分は生まれ変わってもう11年も経ってしまっているので、いまさら思い出したところで遅すぎる後悔だ。


 私が前世の記憶を思い出したのは、一週間前に起こった出来事がきっかけだった。

 それは我が家の蔵から見つけた「壱人形」のせいであった。




 2月の下旬、まだ前世の記憶がよみがえっていない生意気な私が家族に向かって吠えた。


「ねぇ、なんでうちにはお雛様はないの?お雛様!毎年飾っていないじゃないの!!無いなら買ってよ、八段くらいある、すごいやつ!!」


 友達の雪音ちゃんの部屋には立派なお雛様が飾ってあって、彼女のお宅ににお邪魔したその日は嫉妬で胸がいっぱいになっていた。

 雪音ちゃんの家のよりすごいお雛様がほしいと喚く私に、困ったような笑顔を浮かべた母が言った。 


「すみれさん、うちにも立派なお雛様があるわよ。でも確かに毎年飾っていないわね。あなたが昔『怖いから飾るな』って泣きだしてから、ずっと」


「えーっ!私、そんなこと言ったかしら?でも、もう人形を怖がるような子供じゃないわよ!!あるなら早く飾ってよ」


 全く覚えていない記憶を蒸し返され、私は顔を赤くして叫ぶ。

 母はますます困ったような顔をしてもごもごと言う。


「うーん……。飾ってあげたいけどねえ。どこへやったかしら?もしかしたら不用品として業者へ渡してしまったかもしれないわね…」

「はぁ!?捨てたの!?」

 

 怒りがこみあげて顔が自分でもわかるくらいに歪むと、母は焦ったようにぎこちない苦笑いを浮かべ、宥めるように言った。


「だ、大丈夫よすみれさん。そんなに欲しいなら新しいのを取り寄せてもらいましょうか。八段ある、立派なやつがほしいのよね?」

「本当!?お母様ぁ、ありがとう!!」


 要求通りになったことで、私はすぐに態度を一変させて喜んだ。

 すると、背後から感情がこもっていないような冷たい声が飛んできた。


「買うのか。勿体ない……。 お雛様ならダンボールに詰め込んで蔵に置いてあるんだろ」

「えっ……」


 私と母が驚いて振り返る。

 そこには普段、私に声を全くかけない兄が無表情で立っていた。


「ほ、ほんとう?お兄様…」

「随分前に蔵で見つけたよ。すみれ、嘘だと思うならついてこいよ。お兄ちゃんが見せてやる」


 兄は薄く笑った。


 普段の私なら、「どうせなら新しいものが欲しいわ!お母様も買ってあげるって言ってくれたし~」とまたわがままを言うところだが、今回は違った。

 お兄様、私のこと嫌っているかと思っていたのに……。

 でも、ようやく可愛がってもらえるんだ!仲良くなれるんだ! 


 有頂天になった私は、すたすたと外に出ようとする兄の後ろについていった。

 兄の微笑んだ口元が嬉しかった。


 目は全く笑っていないことには、気が付いていた。


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