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*** Side A ***

 この世界には、四季を司る4人の神様が居る。春を司る春の神。夏を司る夏の神。秋を司る秋の神。冬を司る冬の神。それぞれの神に、『眷属』と呼ばれる季節に応じた神霊が付き従っていた。

 春の神様には桜の精霊。夏の神様には渡り鳥を守護する風の踊り子。秋の神様には林檎の乙女。

 そして。冬の神様には眷属が居なかった。

 冬の神様だけが眷属の居ない、ひとりぼっちの神様だったのだ。世界に眠りを。時には死を与える冬の神様。冬の神様は、ずっとずっと長い時間をひとりぼっちで過ごしてきた。独りきりで過ごす日々が、寂しくて、哀しくて、耐えきれずに涙が零れた。はらはらと零れ落ちる涙は雪へと転じ、世界を白く染め上げる。冬の神様の心を映すかのように、世界を冷たい白の世界に染め上げるのだった。



「冬なんか良いところないじゃない」

「寒いだけでしょ」

「春は喜びに溢れているし、夏は命が溢れている。秋には実りが獲られる。でも、冬にはそうやって言えるものがない」



 何時だったかは覚えていない。しかし、冬の神様はそんな言葉を言われた事だけは覚えていた。そんな風に言われ、本当はとても繊細なその心に深い傷を負った。いつか独りではなくなるかもしれない、そう信じじて独り過ごす時を数えていた事もあった。けれど、流した涙が雪になり、何百年何千年という長い時を掛けて美しい水晶になる頃には、終わりの見えない未来(さき)に絶望し、過ごしてきた年月(とき)を数える事も止めてしまった。



 春から夏へ。

 夏から秋へ。

 秋から冬へ。

 そして。

 冬から春へ。



 眠り、休む為の季節(とき)を世界に与え続けてきた、神でありながら忌避されてきたひとりぼっちの冬の神様。

 移ろいゆく季節の中、冬の神様は淡々とその役割を果たしていた。唯過ぎゆく季節(とき)を凍てついた瞳に映し、そこにある生命(いのち)の営みを、色鮮やかな世界を、無感動に眺める。


 春の神様が、花を綻ばせるその様を。

 夏の神様が、生命を育むその様を。

 秋の神様が、実りを分け与えるその様を。


 他の神様達のように甲斐甲斐しく世話をやくこともなく、流れゆく生命を気にかけることもなく、冬の神様は唯々世界を眺めていた。それが、世界が終わるその日まで続くものなのだと、冬の神様ですらもそう思っていた。


 独り過ごす時間がどれほど経ったのだろうか。ある時、冬の神様は小さな生命に出逢った。生まれては消え、消えてはまた生まれる。それを繰り返す小さな生命に。

 初めてこの世に(しょう)じたその時から、その生命は冬の神様を見つめていた。


 生まれては消える。


 繰り返される日々の中で、ずっと冬の神様だけを見つめ続けていた。その生命はそっと冬の神様に寄り添っていた。二人だけの時が何度も何度も繰り返されていく。けれども、冬の神様は寄り添う生命に気付かない。自分の為だけに在るその小さな存在に、冬の神様が気付いたのは、もう、独りを嘆くことも出来なくなる程に長い季節(とき)が過ぎていた。唯々傍に寄り添うその生命に気付き、冬の神様の凍てついた瞳に一滴(ひとしずく)の涙が浮かんだ。


 これからの日々が、光に溢れているような気がした。自分を取り巻く、白く冷たい世界が、温かいもので溢れているような気がした。独りではない、ただそれだけでこれまで過ごしてきたひとりぼっちの時間が報われた気がした。


 これが「幸せ」と言うものなのかと、冬の神様は涙を零しながら微笑(わら)った。ハラハラと零れ落ちる涙を、その生命は必死に拭い取る。「もうひとりぼっちじゃないんだよ。ボク(ワタシ)がずっと傍に居るよ。ワタシ達(ボクら)冬の神様(愛しいヒト)」と、その生命は優しく冬の神様に寄り添った。

 

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