第8話 初めての野外デート
とある日曜日の朝、晴れ渡った空から降り注ぐ太陽の光に照らされながら、俺は一人で道端に立っていた。
正確には、秋葉原駅の入り口近くにある柱に寄っ掛かっている状態だ。
当然、俺がこんなことをしているのには理由がある。
こんな暑い日に、ただえさえ人口密度の高い秋葉原に来るほどの用事なんて、欲しいゲームがあるか、はたまた女の子と遊ぶためかのどちらかに決まっている。
そして、今回は後者ということになる。
相手が恋人ではないとはいえ、デートに秋葉原って……と思う人もいるかもしれないが、勘違いしないでほしい。
これは俺が、「遊ぶ場所はどこでもいーよ!」と完全にプラン決めを投げ出されてしまった俺が、数日間の吟味によって導き出した結論なのだ。
そしてその結論というのが、『ゲーム友達なんだからアキバでよくね?』というものだ。
……後悔はしていない。
今の俺にはこれが限界だ。
(そもそも先週まで非リア充だった俺がデートプランなんて立てられるわけねーだろ!)
情けない話だが、これだけはどうしようもない。というより、どうにかしようとしてもどうにもならないのが恋愛だ。
そんな俺に慈悲を与えてくださったのが、我が最愛の彼女、姫宮葉月というわけだ。
(さて、そろそろ約束の時間だけど……あれ?)
腕時計で時間を確認したところで、俺は重大なことを思い出した。
むしろどうして今まで忘れていたのかと思ってしまうくらい重大なことだ。
(俺、あかりんの顔知らない……)
そう、俺はあかりんの顔を知らないのだ。
それだけなら別に問題はない。
もし彼女の外見がちょっとアレだったら……とか、そんなことを気にしているわけでは断じてない。
(顔を知らないのに待ち合わせって無理じゃね?)
そんな疑問が頭をよぎった。
というより、それが答えだった。
(デート失敗した……って早すぎるだろ!!)
始まる前から失敗するなんて一体どれだけ恥を晒せば気がすむのか。
今すぐ彼女にメールを、とポケットからスマホを取り出したところで、俺は一人の女の子に声をかけられた。
「カズくん……だよね?」
「……え?」
俺のことをそんな風に呼ぶ人なんて、俺は一人しか知らない。
つまりこの子は……。
「もしかして……あかりん?」
「正解、やっぱりカズくんだったね。それじゃあ私も大正解ってことで!」
いきなり現れたその女の子は、綺麗な金色の髪をなびかせながら、ニッコリ笑ってそう言った。
対する俺は、何も言えずにただ硬直してしまった。
原因は彼女のその美貌にある。
葉月とほぼ同格のルックス。
好みにもよるが、彼女の方が上だという人もいるのではないだろうか。
しかしそれで俺が一目惚れをしたというわけではなく、単純に疑問に思ったのだ。
(なんでこんなに可愛い子がゲームなんか……)
別にリア充はゲームをするなと言っているわけではない。
ただ、ゲームのログイン率などを参考にする限りでは、彼女は相当なゲーム好きのはずだ。
ゲーム中心の生活を送っている俺でさえ、彼女は引き篭もりなのではと思ってしまうほどに。
「もしも〜し。聞こえてますか〜?」
ボーッとしている俺を不思議に思ったのか、あかりんが俺の目の前で手を振った。
「あ、あぁ、大丈夫だよ。えっと……あかりんって呼んだ方がいいのかな?」
「おっと、自己紹介がまだだったね。私の名前は七瀬あかり。よろしくね」
「こちらこそ……七瀬?」
俺がそう呼ぶと、あかりんは顔をしかめた。
現実では初対面だし、苗字で呼んだ方がいいかと思ったのだが……。
「あかりでいいよ。私、呼び方はあんまり気にしないから」
「気にしないなら七瀬でいいんじゃ……」
するとあかりはキッと俺を睨みつけた。
どうやら苗字で呼ばれるのが相当嫌らしい。
「わかったよ、あかり」
「うむ、よろしい」
俺が呼び方を訂正すると、あかりは嬉しそうに頷きながらそう言った。
どうやら機嫌が直ったようだ。
「それで、これからの予定は?」
「えっと、この近くにゲームセンターがあるみたいなんだけど……」
俺はあかりの反応を伺うように、恐る恐る目的地を告げた。
「りょうかーい。それじゃあゲームセンターへレッツゴー!」
目的地を聞いたあかりが口火を切って歩き出した。
よかった、ひとまずゲーセンに不満はないようだ。
(……ってこれじゃあ俺がエスコートされてるみたいじゃねーか!!)
慌てて俺は前を歩くあかりの横に並び立った。
(先が思いやられるな……)
もう少しデートについて勉強しておくべきだったと後悔しつつ、行く末に不安を感じながらも、頑張ろうと心に誓うのだった。




