出会い4
次の日の放課後、千夏は三年生の教室の前で難しそうな顔をして立っていた。
今日は一斉部会の日。
各部活ごとに割り当てられた教室に部員たちが集まり、新入生は原則的にはそこで入部届を出し、先輩たちと顔合わせをすることになっている。
千夏は、入部届とにらめっこしながら先程から廊下をうろうろしていた。
他の新入生たちはどんどんと教室に入っていき、もう廊下には人もまばらになってしまっている。そろそろ決めなくてはいけない。
――よし!
大きく深呼吸をした千夏は、ある教室の前で立ち止まり、勢いよくドアを開けた
「失礼します! あの! これっ、お願いしま……す……」
勢いに任せて手にしていた入部届をばっと差し出したものの、あまりの静けさに千夏はおそるおそる目を開けて顔を上げる。視線の先にはたった三人しか居なかった。
「え、あれ? もしかしてあたしだけ「わー! やっと来てくれた!! いらっしゃい!!」
きょろきょろと教室中を見回し目を瞬かせると、何度目かの小柄な先輩が心底嬉しそうにこちらに駆けてきて、ぎゅっと抱き着かれた。
「いつも部活見学はたくさん来てくれるんだけど、入部してくれる子ってなかなか居なくて…一人も入らなかったらどうしようって思ってたのー」
「ほい、入部届どーも」
状況を呑みこめない内に、ドアの近くに腰かけていた男の先輩に入部届を抜き取られる。
「え、あ、ちょ…っ」
「あ、そっか。ごめんね、ちゃんと自己紹介しなきゃ。」
千夏の動揺っぷりをどう受け取ったのか、小柄な先輩はそう言うとようやく千夏から離れた。
「三年生、部長の園田美織です。よろしくね。ほら、2人も!」
ふわりと微笑んだ小柄な先輩、もとい美織は千夏から奪い取った入部届を見ていた男の先輩と、教卓の近くで本を読んでいた美人な先輩にも声をかける。
「二年、副部長の篠崎拓真。ま、よろしく」
「二年、会計、神木朔良。…よろしく」
2人の二年生の対応はいささか事務的だったような気がしなくもないが、当然の流れとして自分の方に視線が集まってくる。
――ああもう、どうにでもなれ…!
「一年、橘千夏です。よろしくお願いします!」