出会い1
遡ること、一か月前。
入学式を終えた千夏は、新入部員の勧誘ビラを山ほど抱えて歩いていた。
校門までまだ十数メートルはあるというのに、どこもかしこも生徒で溢れかえっていて一向に進めない。
「っだぁ~、もう!進めない!」
堪えきれずに叫んだ声すら、周囲の喧騒にかき消された。入学式で仲良くなった友人たちとも、とっくの間にはぐれてしまっている。
ただでさえ、ちょっとしたお祭り並みの人の量なのだから当然と言えば当然だが、千夏の場合はそれだけが理由ではなかった。
「ねえねえ!」
後ろから声をかけられ、またか、と疲れ気味に振り向く。
「キミ背高いね! バスケやってみない?」
「マネージャー募集してまーす!」
「ちょっと、男バス邪魔! あっ、もしかして経験者だったりする?」
「もー、ずるいバスケ部! バレー! バレーどうですか? うち身長高い子少ないし、あなたならエースも夢じゃないよ!」
様々なユニフォームやジャージ姿の集団が我先にとチラシを差し出してくる。少し立ち止まっただけで、あっという間に囲まれてしまった。
そう、とにかく千夏は目立つのだ。
――身長的な意味で。
小学校の時から、ずっと背の順は後ろの方だった。お世辞にも女の子らしいとは言い難い外見や性格も相まって、ネタにされ続けること早数年。
すっかりコンプレックスになったこの長身に貼られたデカ女のレッテルは、どうやら高校生になっても剥がれてはくれないらしい。
「あ、あはは、考えておきますね……」
我ながらぎこちない愛想笑いを浮かべてチラシを受け取ると、軽く頭を下げてそそくさと立ち去る。
結局、校門を出るまでに計5回も同じようなことを繰り返した。
「は~っ、つっかれたー!」
寝る支度を終えると、盛大な溜息と共にベットに倒れこむ。ごろりと仰向けになってリュックからファイルを取り出すと、その中から乱雑に詰め込まれたチラシの束を引っこ抜いた。
「バスケ、バレー、陸上。あ、ダンスなんかもあるんだ。わ、何これすごい。なるほど美術部か……吹奏楽、合唱、書道……文化部もけっこうあるなぁ」
時折つい感想なんかをもらしながら、順番にぱらぱらと見ていく。
どこかで見たことのあるようなキャラクターに似ていたり、かわいいコラージュだったり、本格的な芸術作品だったり、はたまた至ってシンプルだったり。どこもそれぞれ特色があって、見ているだけでも面白い。
一通り目を通したところで、千夏は小さく伸びをして起き上がった。
学校にいる時は考える暇もなかったが、こうして見るとどの部活も楽しそうだ。
『エースも夢じゃないよ!』
不意に昼間言われた言葉が浮かんでくる。案外今度こそ、このコンプレックスを武器にできちゃったりするかもしれない。
「んー、悩んじゃうなーっ」
エースとして活躍する自分を想像でもしたのか、にまにまと頬を緩めた千夏は、満更でもない表情でそう言いながらベットに潜り込んだ。