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第9話:突きつけられる現実

>更新履歴

・5月23日午後3時20分付

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 4月5日午前10時、天津風と高雄のバトル動画が100万再生を達成した辺り、その状況下で動きだした人物もいる。


「飛鷹も隼鷹も動き出したか。どちらにしても、まずは向こうとあちらがぶつかってくれないと」


 雪風とは違う構造のコクピット内にいるのは、帽子を深く被った黒髪ロングの女性である。外見は長袖の青ジャケット、ジーパン、スニーカーと若干地味に見えるのだが、動きやすい物を選んでいるのかもしれない。

 

 彼女がモニターで確認しているのは周囲の様子ではなく、アキバガーディアンの動向だ。彼らの目的が本当に超有名アイドルにとって脅威なのか―という点でも。


「しかし、ARパルクールの運営が参戦するとなると大変な状況になるのは間違いない」


 彼女が懸念しているのは、超有名アイドルとアキバガーディアンという構図を意図的に変えようとしている勢力だ。例えば、一部のランカー、ARパルクールのプレイヤー及び提督と呼ばれる運営勢―。彼らの介入は彼女にとっては都合が悪いと言っても過言ではない。


「どちらにしてもパワーバランスは崩れる。それに、国際競技イベントで超有名アイドル推しを強行しようと考える勢力は出てくるだろう」


 そして、彼女は動き出した。最終的には若干大型の幻想姫である伊勢のコクピットが変形し、そこから姿を見せたのは日向碧ひゅうが・あおいだったのである。


 次の瞬間には、伊勢のコクピットから飛び降りると思われたが、さすがにそこまでは行わず、コクピット部分が道路の高さまで下がる仕組みであり、色々な部分で配慮がされている瞬間でもあった。


 日向碧が敵視しているのは超有名アイドルファンだけではない。確かに、一部のファンによるグッズ転売やCD大量購入によるランキング操作は、日向にとっても憎むべき存在だろう。

そうした事件の裏には、違うコンテンツの存在を抹消する為に何者かが動いているという話もある。その真相は不明のままであり、それを確かめようとしたネット住民がミイラ取りになったという趣旨のつぶやきも確認されている。


【日向碧の存在も都市伝説と聞く。もしかすると、連名扱いの存在では?】


【連名扱いで幻想姫の動画を投稿する事は出来ないはずだ。それも、マシンフォースとなると―】


【超有名アイドルファンにとって、脅威となる存在を作りたいと言うアキバガーディアンが生み出した存在と言う噂もある】


【各コンテンツにおける炎上目的の煽りコメント―それらは全て超有名アイドル勢が展開しているという噂もあるが、それは本当なのか?】


【どの世界線でも超有名アイドルは吐き気を催す邪悪であるのは変わらない。それはフィクションでもリアルでも同じと言う事か】


 さまざまなつぶやきがサイトに書きこまれるが、それらを日向がチェックしているのかは定かではない。


 日向が幻想姫《伊勢》から降り、周囲の様子を確認している。特に日向の方を振り向くギャラリーはいない。それを確かめ、彼女は近くのゲーセンへと向かう。


「元々、雪風の性能自体が幻想姫の中でも逸脱したパワーバランスだった。それを踏まえると、あれを投入した事は失敗と言えるのかもしれない」


 日向は雪風の性能に関して疑問を持っている部分があった。機動力、攻撃力、オプション各種、どれをとっても他の幻想姫とはケタが違う。一説によれば、雪風は幻想姫のアーキタイプとも言われているのだが、ネット上でも意見が分断されるほどには真相が不明と言うのが現状だ。


「しかし、あのアーキタイプを持ち出すまでは良かったが、他の勢力に見つかるとは―?」


 何者かの視線を感じた日向は、周囲を振り向く事なく秋葉原駅へ。その後の足取りは日向を追跡したと思われる黒服も発見できなかったという。


 同日午前10時15分、いつもとは違う私服姿でアキバガーディアンの本部へ向かっていたのは、柏原隼鷹である。


「ここまで騒がしいのは、一体?」


「実は、我々が調査用に保管していたアーキタイプの1体が何者かに奪われていたらしく……」


 この事実にアキバガーディアンが気付いたのは、つい最近だった。ガーディアンのメンバーがガジェット開発スタッフから話を聞く為、厳重に警備されたガジェット倉庫を見た時になって、初めて発覚する。ニューガジェットの開発用に運営が依頼する形で保管していたアーキタイプ―その内の1体が何者かによって奪われていた。


「あのアーキタイプガジェットが敵国のスパイにでも渡ったら、どうするつもりだ?」


「こちらとしても例のセキュリティを破れる技術があるとは計算外で―」


 スタッフの一人が言うセキュリティとは、銃刀法違反に引っ掛かるような物を含め、実体剣を感知して異常を知らせる物。それ以外にも刃物を持ちこめないようにガードマンを配置する等の包囲網があり、ちょっとやそっとではセキュリティを把握することは不可能。


「アーキタイプ自体はARゲームで運用するにも相当厳しい。産業スパイと言う路線はないだろう」


「産業スパイが求めるのはARガジェットの方であり、幻想姫を求めるのは考えにくいと」


 柏原とスタッフが話していると、そこへ姿を見せたのは制服姿の飛鷹出雲が通りかかった。首には、何時ものブルーライト対策のサングラスをかけている。


 飛鷹はスタッフと柏原から事情を聞き、そこでアーキタイプの一体である雪風が奪われた事を知る。しかし、飛鷹は奪われた事に関して悲しむような表情を見せず、逆に笑って見せた。


「あれを超有名アイドルファンやFX投資家ファンの様な連中に扱えるわけがない。あのセキュリティを突破出来る以上、持ち去った人物の特定は簡単な事―」


 そして、おもむろにスマートフォンを飛鷹が取り出し、ある人物の名前を手慣れたタッチで入力していく。


【日向碧】


 検索窓に書かれた名前を見て、スタッフと柏原が驚く。彼女が迷いなく日向碧と断定した事も気になるのだが―。


「何故、日向だと断定できる? 彼女は都市伝説じゃなかったのか」


 柏原は日向が実在する事に関して、完全に信用していない。柏原は元々が駅伝の選手。今も陸上選手としてさまざまな競技で活躍しているのだが、アキバガーディアンへも顔を出している。いわゆる名誉顧問と言う立ち位置だ。


 彼はアニメ等に詳しいという事もあり、飛鷹の提案した幻想姫へ興味を持った。ARゲームとは違う技術で開発された幻想姫、それが今のアニメやゲーム業界にどのような影響をもたらすのか―。


「日向は都市伝説ではない。むしろ、都市伝説と言うべきなのは世界線上にいるとされる伝説上の2人―アカシックレコードに名前の刻まれた人物だ」


 飛鷹の方は日向碧がネット上の架空人物ではなく、本当に存在しているとまで断言している。その目は、まるで宇宙人を信じているかのような気配にも感じられた。


 それから5分後、事態は更なる展開を迎える。ネット上のつぶやきで予想外の物が発見されたのだ。


【私は予言者。幻想姫は文字通りの幻想―宇宙から飛来した物ではない!】


【幻想姫のプログラム自体は本物であり、他国が研究していたのも偽りではないが……全ては仕組まれていた物である】


【この計画は超有名アイドルに恨み、憎しみを持った人物が戦争やテロ行為と言う流血のシナリオを伴わない手段―】


【それらを踏まえると、幻想姫はARガジェットのシステムを流用して生み出された存在―】


【結論を言えば、幻想姫は超有名アイドルというコンテンツを根絶する為に作られた自作自演の舞台なのです】


【皆様に訴えたいのは、赤字国債を償却したのは何かと言う事。それは超有名アイドルに他ならないのです!】


【今こそ、超有名アイドルは日本だけでしかヒットしていないという偽りを―】


 つぶやきまとめの内容は、幻想姫が自作自演の舞台だと言う事を告発した物だった。しかし、この予言者がどのような経緯で幻想姫の真相を知ったのかは明らかではない。


「予言者……お前がやっている事は、炎上を煽るアフィリエイト系サイトと同じ事だと言うのに」


 一連のつぶやきを見て一番激怒しているのは日向だった。彼女は思わず、スマートフォンをコンクリに叩きつけたい程の怒りで腕が震えていたのである。


「あの情報を何処から入手したのかは不明だが、情報源は間違いなくアカシックレコード―」


 日向は情報源がアカシックレコードである事だけは特定している。しかし、情報を流した予言者の正体までは分からずにいる。


 予言者の噂は瞬く間に拡散し、幻想姫の公式も対応に追われる位にまでパニックになると思われたが、予言者の予想は見事に外れた。


【幻想姫がARゲームの延長線である事は、公式ホームページを見ても確定的に明らか】


【他国がどのような経緯で情報を手に入れたかは不明だが、予言者の発言が事実とは考えにくい】


【ARゲーム自体が軍事転用禁止と明言している地点で、こうしたデマが流れる事は想定されているように思える】


【予言者の正体に関してはアキバガーディアンや警察に任せて、今は雪風の正体を探るべきだ】


【確かに、それは気になっている。あの性能は初心者が簡単に扱える代物とは思えない】


【ネット上ではアーキタイプとも言われているようだが―】


 ネット上では予言者の話題よりも、雪風とアーキタイプについての話題がトップワードになっていた。


 おそらく、この世界ではデマに対しての耐性が出来ている、ネット上のデマを拡散しているのは基本的に超有名アイドルのCD宣伝を目的としたファン等という結論に到達しているのだろうか。下手に反応をすれば超有名アイドルのCD宣伝に利用され、CDデイリーランキングで1000万枚と言う、あり得ないような売上枚数が記録される事を恐れているのかもしれない。


 午前12時、ニュースでは予言者が芸能事務所のスタッフである事が判明し、アキバガーディアンによって事務所が制圧されたと報じられる。しかし、このニュースは関東地方限定ニュースでも報道されず、ネット上で報道されている程度だ。


【予想通りの展開になったな】


【これがアキバガーディアンのチートと呼ばれる所以だ】


【超有名アイドルの違法な宣伝活動を、アキバガーディアンは許さない】


【政府が超有名アイドルを国債の部分で英雄として優遇したとしても、今の超有名アイドルは日本をディストピアへ突き落している張本人と言える】


【何としても、国会の政治家を一斉摘発出来るような―】


【政治家の摘発は難しいだろう。アキバガーディアンでも、国家権力程の実力を持っている訳ではない】


【アカシックレコードは万能でもなければ、賢者の石のような存在でもない】


【一次創作から二次創作ではなく、一次創作の知識を噛み砕き、そこから新たな一次創作を生み出す―それがARゲームと幻想姫の関係とでもいうのか】


【!!!】


【幻想姫は自作自演ではなく、初めから―】


 このニュースを受けて、大物政治家の摘発を望む声もあったのだが、それ以上に幻想姫の真相にまつわるつぶやきに衝撃を受けるユーザーが多かった。


 そのつぶやきを見て驚いていたのは雪風だった。天津風ハルと一緒に別のバトルを見学していた中、今回のつぶやきを知ったのだ。


『そんな―幻想姫が元々はARガジェットから生み出された物だったなんて』


 雪風のショックは想像を絶する物だった。一方で、天津風の方はあまり驚くような気配は全くない。


「ARガジェットも外部ツールに類するようなチートは禁止している部分がある。どちらにしても、この技術が地球外から来たと考えるには、無理があり過ぎる個所もあった」


 天津風が逆に驚かなかった理由は、アカシックレコードの記述が一種のWeb小説とも読み取れる個所があり、更には10年前にいわゆる『チート系』と呼ばれる作品に注目が集まったのである。


「チート系のテンプレが流行した結果、ネット上では色々な意味でも似たような文章が無数に存在し、それらをひとまとめにしたライセンスフリーのサイトが生まれる事になった―」


『それが、アカシックレコードの正体?』


「そう言った憶測がネット上に存在しているだけだ。本当の意味でアカシックレコードの真相に辿り着いているのはアキバガーディアンだけだろう」


『だから、それを悪用しようと考えた芸能事務所を摘発した―』


「それだけであれば、別のニュースに対して反応するはずがない」


 天津風がネットのニュースで発見した記事、それは『ある法案』を巡って、超有名アイドルを有する芸能事務所が無数の特許を獲得しようとしている物だった。

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