表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/12

第8話:暗躍する第3勢力

>更新履歴

・5月23日午後3時10分付

行間調整

 4月3日午前10時、六本木の有名なオフィスビル。そこへ事務所を構えるアイドルグループの芸能事務所では、多数のプロジェクトが同時に進行している。

彼らのしている事は犯罪とは程遠い物なのだが、超有名アイドルアンチや超有名アイドル商法に対して規制を求める団体等にとっては脅威と言っても過言ではない。


 他にも複数の芸能事務所は存在するが、六本木の芸能事務所のように大規模なアイドルをデビューさせているような事務所はない。逆に、そういった大手以外の芸能事務所にとっても、このアイドルグループは脅威と言ってもよい状態だった。


 しかし、芸能事務所が超有名アイドルアンチ等と組めない理由は別にあった。アンチファンのやり口を知っている芸能事務所は、下手に組めば自分達が大手から圧力を受けて会社を吸収されてしまうと思っていたからだ。


 それに加えて規制を求める団体にとっては大手も中堅も関係なく、彼らは超有名アイドル商法に便乗する全ての企業を対象に考えている。

そうした組織と組む事は逆にリスクが高い。彼女達が現在の地位を確立しているのは、さまざまなメディア露出や炎上を巧みに使い分け、マッチポンプを行っている為とされているが―。


「我々が介入しなければ、コンテンツ業界が負の連鎖を築くのが分からなかったのか」


「それでも、超有名アイドルが全てを変えたと信じたくない人間が存在するのも事実」


「何としても、我々が日本を経済大国にしたという事実を世界へ配信しなくては」


 会議室のテーブルで議論を続けていたのは、芸能事務所の代表者達である。彼らは芸能事務所の資本提供者でもあり、その真の姿は政府与党に所属する政治家とも言われているのだが、その真意はネット上でも不明だ。


 彼らは超有名アイドルが日本を支えていたのは過去の話と切り捨てている現状に怒りを覚え、何としても超有名アイドルが日本を立て直した事を世界へ配信しようと考えていた。


「それならば、良い材料があります」


 会議の方は難航しており、何も決まらないまま平行線で終わりそうな気配もする。その中で1人の男性がドヤ顔でタブレット端末に動画を表示させ、それを会議の参加者に見せつける。


「幻想姫だと? それは超有名アイドルにとっては天敵―」


「ドラキュラにおける十字架とも言える幻想姫、それを何に使うと言うのか?」


「超有名アイドルに敵対するコンテンツを利用する事自体、受け入れられるとは到底思えない」


「お前は超有名アイドルを潰そうと考えているのか?」


 周囲からは怒号の様な反対意見、ぼやき、憤りとも取れる発言が相次ぐ。以前にも似たような事を発言した人物はいたが、その時の提案は却下された経緯がある。


「貴様、面白い事を言うな」


 会議の参加者の中で、唯一彼の意見に対して賛同する人物がいた。会議参加者の中で唯一の虎の覆面を被り、その素顔を関係者にも見せる事はない程の徹底さを見せる。


「アヴァロン、貴様は何を考えている?」


「お前の様な投資目的のアイドルファンが、一連の事件を生み出したのだぞ!」


「投資家ファンがいなければ、我々の所属アイドルも解散をしなくて済んだ―」


 虎の覆面をした人物、アヴァロンが発言すると周囲が再び慌ただしくなった。それに対して、彼の取った行動は予想外の物である。


「投資目的以外のファンしかいなくなった? アイドル業界にマンネリを感じ、ファンが呆れ果てていなくなったのは自分達のせいだと言うのに、責任のなすりつけをするつもりか? 冗談はやめてもらいたい」


 アヴァロンの開き直りとも言える発言は、周囲を激怒させるには十分だった。彼は煽りスキルでも所有しているのだろうか?


「確かにアヴァロンの言う事にも一理ある。今日のアイドル業界不況とも言えるような状態を生み出したのは、我々の力不足だ」


 先ほどの幻想姫マシンフォースの動画を見せた人物、冬元春樹ふゆもと・はるきは現在のアイドル業界に行き詰まりを感じていた一人でもある。彼自体はカリスマプロデューサーとしても有名だが、一方で黒い噂も絶えない人物だ。


「さすが、カリスマプロデューサー。分析も完璧と言う事か」


 アヴァロンは覆面で表情を確認できないが、ニヤリと笑みを浮かべているに違いない。


「そこで、幻想姫マシンフォースでの活動をメインとしたグループを―」


 その後、冬元によるグループの説明が行われ、それに会議参加者も賛成する事で超有名アイドルの復権を目的とした組織が誕生する事になった。


 会議終了後、会議室を出たアヴァロンに対して待ち伏せをしていると思われる人物が彼の行く手をさえぎった。


「珍しい外見だな。何かのコスプレか? ハロウィンには気が早すぎるが、お台場のイベントにでも行くのか?」


 アヴァロンは彼をからかっているようにも見える一方で、周囲からは全身鎧のマネキンに対して独り言を話しているようにも見えなくはない。


『お前がアヴァロンだな』


 ノイズ交じりの声を聞いたアヴァロンも表情を変える。何時もの煽りスキルを封印して話さないと危険と感じたのかもしれない。


「ご指名がある以上、用件は超有名アイドルの事か?」


『その通りだ。私を起用して欲しい』


「起用か。ずいぶんと具体的だな。さっきの会議の内容をどこで聞いた?」


『それは話せないが、このような能力がある』


 話の途中、全身鎧の人物が指をパチンと鳴らすと、彼の手からモニターと思われる物が現れる。そして、そこには先ほどの会議の内容が映し出されていた。


「一体、何者だ? 警察関係者か、それとも……」


 アヴァロンの問いかけに彼は何も答える気配はない。仮に彼が警察関係者であれば外には大量の警官隊がいても不思議ではないだろう。


「疑って悪かった。お前を迂闊に煽れば、超有名アイドルが壊滅しても不思議ではない事は分かった」


『分かればいい。私の目的は、お前の目的にも似ている』


 全身鎧の人物は自分の名前をかたることなく姿を消した。しかし、アヴァロンは何か引っかかるものを感じ、彼が姿を消した後でネット検索を始める。


「そう言う事か。向こうも本気を出している証拠かもしれない」


 彼が見つけたニュース、それはアキバガーディアンが本格的に超有名アイドルのブラックマネーに関して調査を始めたという物だった。


 ビルを出た全身鎧の人物は、何かのシステムを調整して兜を外す。


「第1段階は成功したか―」


 その人物の正体、それはビスマルクだったのだ。その目的は謎が非常に多い。アヴァロンに接触した目的とは何なのか。


 同日午前11時、秋葉原で幻想姫のプレイ動画やショップを偵察していた時雨アスカ、彼女は現状の幻想姫にコンテンツ業界のバランスを変えられるのか疑問を持っていた。


「さまざまなアニメやゲーム作品が聖地巡礼、タイアップ商法、その他にもファンサービス等……それも行き詰まりを見せている」


 時雨がタブレットでチェックしているのは株式情報だが、彼女なりにカスタマイズされた物になっており、リストアップされているのはゲーム会社、レコード会社、映像関連会社というような会社ばかりである。


「今の報道やニュースメディアが信用できない状況下、テレビ離れもネット上で言われている。やはり、テレビはアニメの為だけの存在になったというのは真実なのか?」


 時雨はネット上で度々議論になる過熱報道等の話題を見る度に、信用出来るコンテンツはアニメ・特撮しかないと考えるようになっていた。猛獣を無理に目覚めさせるような報道を行って、何を正義と言うのだろうか。


「本当の意味での正義は失われた。全ては超有名アイドルを目立たせる為に利用されている【宣伝】と言う名の【正義】―それこそ偽善じゃないのか」

色々な事を悩みつつも、時雨はアンテナショップの散策を再開する。


 同刻、天津風ハルの様に幻想姫を始めたてのプレイヤーが新たに誕生する。それを目撃したプレイヤーは口を揃えて、こう言った。


「あれだけのスペックを持ったプレイヤーは天津風だけで十分。これ以上の出現はトータルバランスを崩し、ゲーム運営にも致命的となる」


 言い方はそれぞれで違うのだが、意味としては同じである。つまり、この人物の出現はゲームバランスを崩すというのだ。


【使用しているのは天津風とは違うロングレンジタイプか】


【ロングレンジは一部武装でバランスブレイカー疑惑があっただけに、それに拍車をかけるのか?】


【しかし、あいつが使っているのは、確認できただけでスナイパーライフル2丁、ハンドガン、シールドビット、有線式ビット、小型バルカンファランクス、広範囲レーダーか】


【どれも安価で購入出来るパーツじゃないか。バスターランチャーやサテライトの様な制限武装を複数持っているとばかり―】


【あの武装で相手の幻想姫をノーダメージ撃破とか、どうかしているとしか思えない】


【どう考えても、別ゲーム出身者―リアルチートじゃないのか?】


 ネット上では、このプレイヤーの戦術を見て天津風の再来と思う人間もいる一方で、存在自体がチートと語る人物もいる。


『幻想姫? あれはARロボットバトルじゃないのか』


 加賀かがミヅキ、彼女は少し前に出会った黒マントの人物の発言を思い出す。それが彼女を突き動かしたわけではないが、2000倍近い抽選に当選した事でマシンフォースに足を踏み入れる事になった。


 彼女の使用する幻想姫はSFチックなデザインをしているが、細部は汎用機体と違う部分もあった。たとえば、ヘッド部分のカメラアイは2つ、ヘッドデザインも有名なSFアニメを思わせる。


 それ以外の武装でも、マウント部分、バーニア、アーマー等のカスタマイズも一般的な手法とは大きく異なり、彼女が説明書を見ないでカスタマイズをしたような形跡も見られた。


「確かに、操作方法や細かい演出等でARロボットバトルとは異なる。幻想姫と言うAIシステムを搭載したロボットシミュレーションという―」


 加賀は周囲のコクピットを細部まで確認し、それが別のARロボットゲームや他にもプレイした事のあるゲームとも比較した。それを踏まえても色々と違う部分があり、どれくらい違うかどうかは一目見ただけでは判別不可能だろう。


「果たして、このゲームにコンテンツ業界を変えるだけの力はあるのだろうか」


 彼女の外見、それはサバイバルゲーム用のラバースーツに防弾チョッキ―どう考えても幻想姫をプレイする為の衣装ではない。


 幻想姫をプレイする為の衣装は全裸でなければ自由らしいが、別のARゲームをプレイする為に時短として次のゲームで着替える予定のコスチュームで幻想姫をプレイするユーザーもいる。


 午前11時30分、加賀のプレイ動画が出回り、このプレイスタイルを見た天津風は何かを感じている。


「加賀と言うプレイヤー、もしかすると別ゲーム出身の可能性がある」


『可能性って? あのプレイスタイルを扱える人物が別に現れたと?』


 ガジェット端末内にいる雪風も加賀のプレイスタイルに、天津風と類似した物を感じる事はあっても、全く同じとは考えていなかった。


「別のARゲーム、あるいはゲーセンで稼働している別のロボットゲームで使用される様な戦法、それを使っているような動きがある」


 天津風が雪風へ細かく加賀の動きに関して説明する。あまりにも専門用語が多すぎて、雪風の方もパンクしそうだ。


 その一つとして、スナイパーライフルを撃った際にリチャージタイムをキャンセルする為、同じライフルを二丁使う戦法がある。この戦法はFPSゲームで使用出来る作品を知っていた。


「同じスナイパーライフルは一丁あれば十分対処できるという考えが普通なのに対し、加賀と言う人物は同じライフルを二丁装備し、片方がチャージ中でもチャージ終了したもう片方を撃つ―」


『確かに、その戦法ならばロスタイムを減らす事は可能だけど、スナイパーライフルを買う場合でも1000はかかるわ』


「そう思うだろう。しかし、初期機体で遠距離タイプを選び、スナイパーライフルは別の資金で買ったとしたら?」


『もしかして、同じ型の武器を2つ持っているのは―』


 雪風の方も加賀のカスタマイズに気付き始めた。チャージ時間の節約をする為のカスタマイズ、それを加賀は発見したのである。


『それだけ便利な戦法なら、次々とプレイヤーに真似されて運営が対策する可能性も―』


「しかし、この発想を思いついたとしても他のプレイヤーがあっさりと真似をして確立されるとは思えない。あの技術が流用出来る事を気づいたプレイヤーは何人もいるだろう」


『何人も? それって、どういう事なの?』


「自分が使っても役に立たないような技術は、他の人物が使用し、相性が良い時には予想以上の効果を発揮する。使い古されたテンプレだとしても、見せ方の違いで変化するWeb小説と同じだ」


 雪風の疑問に天津風は答えるが、簡単に言うと運営も把握したうえで使用出来るプレイヤーも限られた戦法を制限するとは思えないという事だった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ