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第6話:初めてのデュエル

>更新履歴

・5月23日午後2時57分付

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 午後1時35分、天津風ハルはアンテナショップの中へと入り、色々なショップを見て回る。


 数多くのソーシャルゲーム内アイテムを販売する大規模なアンテナショップは、秋葉原以外にも数多く存在し、池袋や渋谷、大阪等の都心にも設置されている。


 都心以外では北千住や千葉の幕張、有明など。そのショップ数は1万に迫る勢いにもなっている。幻想姫のアンテナショップにはさまざまなガジェットや関連グッズも置かれているが、マシンフォースに関しては通販以外では秋葉原と北千住を含めた一部エリア限定で、置かれている店舗は非常に少ない。


「ここが、マシンフォースのショップか」


 ショップ内に設置されているマシンフォースのコーナーは非常に広く、これだけでも1店舗クラスに匹敵する。マシンフォースはプレイヤー数の割に取扱店舗が少ない為、色々なお客が詰めかけている状態になっているのだが…。


 午後1時40分、マシンフォースのショップに到着した天津風だったが、かなりの人混みが出来ている事に驚いている。幻想姫の中でもマシンフォースは登録だけでも競争率が非常に高いのだが、ここまでの注目度だったとは思わなかった。


「申し訳ありません。現在、アイテムショップは約30分待ち、シミュレーションコーナーもキャンセル待ちになっております」


 スタッフの女性が他のお客に対してこう答えている所を見ると、来る時間帯を間違えてしまったのか―と天津風は思った。他のコーナーで時間を潰しても同じ結果になるのは目に見えていると判断し、近くに設置されていた待機席に座る。天津風が座った直後、既に待機席には整理券をもらう為の列が出来始め、その数は20人を超えた。


「確か、幻想姫コーナーは実際にプレイをしているプレイヤー以外の入場を制限していると聞いたが…」


『音ゲーの幻想姫ダンスステージ、カードゲームの幻想姫デュエル、育成型格ゲーの幻想姫女子プロバトルは入場制限をしていません。その辺りは、タイトルによって違うのでしょう』


 雪風はマナーモードの為に端末から声が出ていないという訳ではなく、天津風が途中のショップで購入したインカムのヘッドフォン部分から声が聞こえる。


「どちらにしても、幻想姫の飛躍は確実だろう―」


 他にも何か言おうとしていた天津風だが、スタッフの方が動き出したので、そろそろ整理券の番が来ると思い、端末をマナーモードへと切り替えた。


 整理券を手にしてから5分位が経過しただろうか、天津風はようやくショップエリアへと入る事が出来た。売られているのは基本的にデータのダウンロードと言う事もあって売り切れという概念は存在しない。


《アーマーパーツ:300PT》


《フレームパーツ:350PT》


《武者甲冑:400PT》


《西洋鎧:450PT》


《リニアレールガン:600PT》


《ビームカノン:1000PT》


《パイルバンカー:3000PT》


《追加スキル・パワーダウン:1000PT》


《索敵強化:200PT》


《思考高速化:500PT》


 基本フレームを強化する装甲、幻想姫のデザインを変更する装甲、追加武装、追加スキル、サポートスキル等のカテゴリーが存在し、その数は50以上にも及ぶ。

基本的には購入不能のフレームに、装甲と武器を装着、スキル等はお好みで装備するというケースが多い。本来であれば、フレーム、基本装甲、基本武器2種類は最初に搭乗機体を選択する際に手に入れる仕組みになっている。


 しかし、天津風の場合は前プレイヤーのフレームを引き継ぎ、武器と装甲だけを先ほどのバトルで稼いだポイントで購入しようという流れだった。

この部分が他のプレイヤーと導入が違うと言うべきか。マシンフォースの運営も、天津風のバトルは把握していると思われるが、現状では静観している気配であり、特に警告メッセージが送られてくるような気配はない。


『そのゲームで入手したコインでしか購入できないので注意して下さい。幻想姫の作品によっては、リアルマネーの使用が禁止されている作品もあります』


「リアルマネー禁止か。ソーシャルゲームとしては矛盾していると言うべきなのか」


『幻想姫の場合は幻想姫の端末を購入するのにリアルマネーを使います。それ以外は幻想姫で入手できるゴールド、ポイント、ミュージックストーン…他にも通貨単位はありますが、基本的には仮想通貨がメインですね』


「ソーシャルゲームではリアルマネーを投入しすぎによるバランスブレイカー、廃課金等が問題になっている。仮想通貨にしたとしても、やっている事に変わりはない」


 天津風は購入するアイテムを品定めしながら、雪風と少し話をしていた。リアルマネーは何処の世界でも話題になる問題の一つであり、これが超有名アイドル商法を生み出すきっかけになったのかもしれない…とネット上でも話題になったりする。


【幻想姫のリアルマネー禁止って、どの辺りからできたのだろうか?】


【最初から禁止されていたな。アンテナショップで初期チャージをする以外は、リアルマネーと言う概念は通じない】


【厳密にはプレイ料金でリアルマネーは使う。しかし、課金アイテムではリアルマネーが使えないという表現が正しいのかもしれない】


【ARガジェットの場合は、ガジェット購入後はプレイ料金以外で消費するお金は任意だと聞く】


【ゲーセンのアーケードゲームでも、プレイ料金以外でリアル課金する事でアイテムが得られる物もあったな】


【廃課金と言うと、超有名アイドルのCDを1人で大量に購入すると言うイメージもある】


【それは廃課金ではなく、アイドル版FX投資だな。有り金を超有名アイドルへ注いだ結果、自身が破滅すると言うのが社会問題化した事があった】


【しかし、それは全くのデマであると芸能事務所側が否定した事で、鎮火したという話を聞くが、あれは嘘なのか?】


【アイドル版FX投資と言う話自体が、ネット炎上勢による仕込みと考えた方がいい。タニマチという概念自体は、超有名アイドル商法が確立される前から存在していた】


【超有名アイドル、何時の世界でも彼女達がコンテンツ市場を制圧してしまうのだろうか?】


【もっと違うコンテンツにもスポットライトが当たっても―】


 つぶやきサイトでは、幻想姫の課金事情に関して議論されており、廃課金勢は隔離すべきという話題まで浮上する。それに加えて、いつの時代でも超有名アイドル商法の様な拝金主義がコンテンツ業界を制圧し、それはディストピアとまで例えられる位には―。


 商品の品定めをしていた天津風だったが、しばらくして背後に人影を感じるようになっていた。


「ソーシャルゲームだからこそ、学べる事だってあるかもしれない。そうは思いたくないかな? 天津風ハル」


 天津風の隣に現れた男性、それはビスマルク。天津風と直接会った事はないのだが、向こうは自分の事を知っているような口ぶりである。


「貴方は誰ですか? 一体、自分に何の恨みがあるのですか」


「恨みとは勘違いもほどほどにして欲しい。私は君に忠告をしに来たのだ」


 ビスマルクの忠告という一言を聞き、天津風の表情が変化する。雪風の方も話に加わろうと考えたのだが、余計に話を混乱させるだけと判断して口出しはしない方向にした。


「超有名アイドル絡みですか? それとも違う勢力の件?」


「そこまで知っているのならば話が早い。今すぐ、超有名アイドルの件からは足を洗った方がいい。下手をすれば、幻想姫が求めていない流血のシナリオが待っている」


 ビスマルクの忠告、それは超有名アイドル絡みで流血を伴う事件が起きる可能性があるという物だった。しかし、この話は簡単に信用出来るようなスケールではないのは確か……。


『過去に握手会でアイドルが襲撃される事件はあった。それに、過去をさかのぼれば芸能人をターゲットにした襲撃事件は稀に起きている』


 スリープモード中でも外の声は天津風のインカムを通し、雪風には聞こえている。


『彼の忠告が全くのでたらめではない事は否定できない。でも、彼は何かを意図的に伏せている』


 しかし、彼女もビスマルクの発言には何かの含みを残していると疑問に思っていた。


「さすがに、ここで戦おうという考えはない。あくまでも、ここは中立エリアだ。幻想姫のソーシャルゲームをプレイしている君ならば、その意味は分かるはずだ」


 言いたい事だけを言い残し、ビスマルクは天津風の前から姿を消す。一体、彼は天津風に何を伝えようとしていたのだろうか?


 その後、天津風は武者装甲をはじめとしたカスタマイズパーツを購入、何とか予算内で調整する事に成功した。カスタマイズした後、雪風はサイバー忍者のようなデザインに変更された。


 武装も以前のバージョンよりは軽装化されており、スピードに特化したスキルが新規に追加されている。この方が戦いやすいと天津風が判断したのかもしれない。


「近接オンリーですか。相当のやりこみプレイヤーでも、遠距離武装は1つ装備する物ですが、どうしますか?」


 男性店員も天津風のカスタマイズには疑問を抱いている。射撃系としてクナイランチャーを装備しているのだが、この武装は遠距離と言うよりは中距離に近い。


 その為、店員も狙撃系の幻想姫や遠隔操作系に対処できないのは厳しいとアドバイスは送る。しかし、天津風は断り続けた。


「幻想姫のゲームの中でも、下手なアドバイスが自分のプレイスタイル確立を阻害する作品も存在するので、敢えては言及しません。しかし、上位ランカーには遠距離系武装を多用するプレイヤーがいる事は覚えておいても損はしないでしょう」


 店員がそれだけを言い残して、別の客の対応へと向かう。天津風も別のゲームではアドバイスを受け付けないというスタイルを取っていた。今ならば、その時に味わった気持ちも少しは分かるかもしれない。


 午後2時前、一人の女性がアンテナショップへと近づいていた。それを見ていたギャラリーも彼女の通行を邪魔してはいけないと無意識に判断し、道を開けている。


「貴方が天津風ね。私と勝負しなさい」


 右目の眼帯にチャイナドレス、コスプレと言うには若干派手な衣装かもしれない。天津風に勝負を挑むという事は、マシンフォースのプレイヤーだろうか。


「店内では対戦禁止、ここは中立フィールドのはず!」


 ギャラリーの男性が注意をするのだが、それをあっさりと彼女はスパッと切り捨てた。


「それは百も承知よ! アンテナショップの外、コロシアムならばペナルティーは取られないはず」


 彼女の言う事も一理ある。勝負を挑まれた以上は、挑まなければ大変な事になるのは目に見えていた。100人近くの買い物客やスタッフがいる中で、あれだけの宣言をした彼女にもリスクはあるのは間違いない。


 乱入に拒否権のあるゲームも存在するが、マシンフォースでは拒否権よりも各種ペナルティーの影響が大きいのだろう。


「乱入に拒否権がないのは格ゲーのみ。しかし、こちらも拒否権は設定していない以上は戦うしかないか―」


 天津風も挑戦された以上は断れないという流れもあり、彼女の挑戦を受ける事にした。


「なら、決まり。私は高雄、マシンフォースの名前は愛宕…果たして、あなたに勝てるかしらね?」


 チャイナドレスの女性は高雄と名乗る。ツンデレと言う訳ではなく、単純に高飛車と言うタイプの女性かもしれない。あるいは、それを演じているだけなのか。


 天津風は高雄に付いて行くかのようにしてアンテナショップを出る。その姿を確認していたのは、花江和馬である。


「あの人物は、確か愛宕のプレイヤーか」


 花江は高雄の姿を一度確認している。それを見て彼女に付いて行こうとも考えたが、今はアンテナショップの様子を探る方が優先と考え、2人をスルーした。


「バトルの動画は後で見る事も出来るだろう。今は幻想姫の謎を解く方が先かもしれない」


 その後、花江は動画の内容を確認した時に一種の後悔をする事になるのだが、その結果とは―。

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