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第5話:新たなる戦場へ

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・5月23日午後2時32分付

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 時間は再び西暦2017年4月1日に戻す。ゲーセンで雪風の再インストールを含めた各種作業を終えた天津風ハル、彼が次に向かっている場所は幻想姫のソーシャルゲームを総合的に扱うアンテナショップだった。


 秋葉原駅の近く、その昔に有名だったアイドルグループの劇場があった場所の近くに建てられている。劇場に関してはアイドル声優の訓練場として再利用され、取り壊しに関しては中止されている。


「あの当時とは秋葉原も大きく変わったな。ガーディアンの活躍が目立った事で、秋葉原の大改革が進んだのか」


 天津風も秋葉原のアンテナショップは初めてである。幻想姫を扱うアンテナショップは日本全国に存在するが、マシンフォースに限れば秋葉原と北千住、埼玉県草加市の3か所にしか存在しない。


 マシンフォースに関しては、まだプレイ環境が整っていないという理由もあるのかもしれないが、あの競争率も他の地域に導入出来ない理由の一つなのだろう。


『秋葉原の大改革はアキバガーディアンだけじゃない。そこまでの改革を進めるまでに至ったのは、超有名アイドルと政治家が深く結び付いているという事がネット上のごく一部から全国区への認知をされた為だ』


 天津風の持っている端末から雪風の声が聞こえる。天津風がなりゆきで手にする事になった幻想姫なのだが、謎が多いのは事実かもしれない。


「ネット上ではアカシックレコードと言われたアレの事か」


『アカシックレコードに関しては、どのような経緯で世界中へ散らばる事になったのかは分からない。ひとつ言える事は…幻想姫データが地球外から来たという話は、何者かが偽装したという話も浮上しているという事だ』


「つまり、幻想姫が地球外の技術と言うのも嘘だと?」


『そこまでは断定できない』


「アカシックレコードを作った人間は、何を地球で行おうとしているのか」


『ひとつだけ言えるのは、超有名アイドルと言う概念を地球上から消し去りたいという考えが読み取れる事だ。幻想姫の作られた目的、それと一致する』


 2人は適当に会話をしているが、目的の探り合いをしているようにも見える。


「自分は、完全に協力するとは言っていない」


『幻想姫を手にした人物が取るべき行動、それは他の幻想姫に触れた事のあるお前ならば分かるはずだろう』


 天津風には言われなくても分かっていた。幻想姫を手にした者が背負うべき宿命を。


【コンテンツ業界を炎上させ、全ての利益を自分達だけで独占しようとする超有名アイドル勢を全て駆逐する。そして、神をも滅ぼす事が出来る幻想姫の力を流血の伴う戦争に転用しない】


 この一文は幻想姫が関係するマニュアルに記載されている。幻想姫を使用している全てのゲームに記載されており、マシンフォースも例外ではない。

ネット上でも言われている幻想姫を運用する上でのガイドラインで最重要項目として記載されている項目であり、ある意味でも幻想姫を象徴する重要な一文でもある。


 しかし、兵器流用禁止は幻想姫に限った事ではない。それはARガジェットを扱うARゲームでも例外ではない。回りくどい言い回しとして「デスゲーム禁止」と言われているのは、この為だ。ネット住民は幻想姫の一文を把握した上で、さまざまな事件を起こしているので余計にたちが悪い。


 それらの動きは一種の釣りとも言及されているが、真相は不明。ネット上でも幻想姫の仕様に関してはトップシークレットと言う事もあって、どのような経緯でデスゲーム禁止なのか言及する事はなかった。まるで、これに触れれば地球消滅と言わんばかりである。


「マシンフォースは、どう考えても巨大ロボットバトル…戦争に利用されるのは時間の問題だ」


『それでも、数多くのセーフティーと無数のセキュリティによって構成されている』


「万が一、システムが突破された場合は?」


『その時は世界が滅亡する事を意味している。その引き金を引くのは、間違いなく超有名アイドルファンであるのは間違いない』


「他の勢力がセキュリティを外すという可能性は考えてないのか?」


『BL勢や他のフーリガンには財政的な部分でも不可能。超有名アイドルは無尽蔵とも言える資金力を持っている。それは、どの世界でも一緒』

話は平行線になりそうな気配がした。そして、天津風は何かを悟ったように一言つぶやく。その声には先ほどまでの力強い発言力はなく、半分呆れていた。


「全てはアカシックレコードの記された筋書き通りに進む……と言う事か」


 天津風の言うアカシックレコード、それは別の物を意味しているようだ。


 午後1時30分、2体の幻想姫がマシンフォースで対戦を行っている。片方は凄腕のプレイヤーらしく、その能力は周囲の目を注目させるほどだ。


『何故だ! 何故、この実力でも上位に進む事は出来ない!』


 白い機体に乗っている男性プレイヤーは、上位ランカーへなれない事に対して不満を持っているようでもある。白い機体の方は特に遠距離武装は持っておらず、ビームサーベルとシールドと言う西洋の騎士を思わせる装備でまとめられている。


『上位ランカーがスコアだけでなれると思っているようでは――』


 もう一方は格闘戦主体の装備で、白い機体とは全く違うバトルを想定しているようにも見える。


『マシンフォースを甘く見積もっていると考えていても、おかしくはない!』


 そして、もう一方の機体が振り下ろした刀は白い機体のシールドを切断、更には左腕をも切り落とす。切り落とされた手に関しては、ビルに激突する寸前には腕が消滅したのである。


『俺がタニマチやアイドル投資家のようなプレイヤーだと言うのか……』


 最終的には、白い機体の方が降伏をした事でもう一方の機体が勝利した。しかし、勝利したプレイヤーの方は満足のいくような試合展開ではなかったと感じている。


「マシンフォースに超有名アイドルの話題を持ち出した地点で、プレイヤー失格だと言うことはマニュアルにもない暗黙の了解だと言うのに」


 チャイナドレスに眼帯と言う異色のコスプレをした女性が機体のハッチが開き、そこから姿を見せたのである。


「どちらにしても、超有名アイドルが日本にとっては魔王の様な存在として君臨し、コンテンツ業界を支配していると言っても過言ではない」


 彼女は超有名アイドルの存在について、ファンタジーの魔王とでも思っているようだ。そして、彼女は何処かへと姿を消す。


「もう一方の機体は、愛宕か―」


 白い提督服を着ている花江和馬はマシンフォースの試合を観戦し、色々なデータを収集していた。愛宕はチャイナドレスを着ていた女性が動かしていた幻想姫である。


「観戦ばかりでも情報が偏るだろう。ここで何か別の物を―?」


 花江が周囲を見回していると、幻想姫を取り扱うアンテナショップを発見した。観戦の次はウインドショッピングでもするか、と花江は考える。


「果たして、この中に何があると言うのか―」


 花江は前知識なしでショップへと入ろうとするのだが、入口の途中で警備員とは違ったスタッフに呼びとめられてしまう。


「すみません。提督の入場は認められていませんので―」


 まさかの展開に花江は驚いたのだが、彼らが思っている人物ではないと口頭で説明をする。しかし、警備員もすぐには信用できないらしく、証明書等の提示を求めた。


「これは―?」


 彼が見せたのはタブレット端末に表示されたIDプレートである。電子式と言う事もあって、彼の手元にではなく所属する組織のサーバーに直接アクセスして表示するタイプだ。


「た、大変失礼しました。どうぞ―」


 警備員は花江が実は想像を絶する組織に所属していた事に驚きを隠せず、先ほどの行動が失礼に当たると即座に判断して謝罪する。


 午後1時35分、少し時間がかかってしまったが、花江提督は幻想姫のアンテナショップへ足を運ぶ。外見は近代的なショッピングモールと見分けがつかなかったが、中は過去の電気街を思わせるような部分も見受けられる。


「このガジェットはARガジェットにも類似している様な雰囲気がある。ガジェットデザインが被り気味になるのは、ある意味でも宿命か」


 花江は興味のあるガジェットを手に撮りながら、色々と商品を見定めているのだが、お目当ての商品は見つからないようでもあった。


###


 天津風がショップに到着した頃、秋葉原各地に設置されているマシンフォースのセンターモニターでは、マシンフォースのライブ速報が流れていた。


《上位ランカー赤城が50連勝を達成。現在も記録更新中》


「まさか、50連勝!?」


「数日前からの継続とは言え、マシンフォースで50連勝は至難の業だ」


「これが上位ランカーの力?」


 ライブ映像とは別に、画面下にはテロップが一定間隔でスクロールしている。その中に衝撃的な物が流れた。それは、赤城と名乗る上位ランカーが50連勝を記録した事。

マシンフォースでは他の幻想姫関連ゲームとは違い、格闘ゲームのように乱入が日常茶飯事と言う位に発生する。


 乱入に関してはオプションで不可にする事も出来るが、初心者プレイヤーはオプションの存在に気付かないというのも原因かもしれない。


 午後1時35分、花江がショップを散策し始めた頃、センターモニターにはギャラリーが数人ほど集まっていた。


「上位ランカーはチート勢とも言われているが、マシンフォースの場合は一概にそうと断言できない」


「ソーシャルゲームの場合、外部ツールによるチートプレイが多いのが現状だ。それは現在も変わっていない。対策をしたとしても新たなツールが開発される…という繰り返しになっているのも大きいだろう」


「その点、幻想姫はチートに類するようなツールの類は一切動作しない。幻想姫の技術が未完成と言うのも非常に大きいが。あれだけのシステムを持っていながら、未だに完成に至らないと言うのも皮肉な話だが」


「ソーシャルゲームの場合、ルール自体はどこも一緒というのが現状。ジャンルによっては急速に発展している物もあるのだが」


「どちらにしても、ゲームが存在し続ける限りチートも存在するという光と闇の関係になるのは……何とも皮肉な話だ」


 しばらくして、話しこんでいた2人組がセンターモニターから姿を消すと、そのタイミングを待っていたかのように別の女性が周囲に誰もいない事を確認し、幻想姫専用のタブレット端末をモニターの下にある認識装置に読み込ませる。


《データを認証しました》


 画面にもデータを認証したというメッセージが表示されると、その後に表示されたのは彼女が使用していると思われる巨大ロボットの縮小モデルと彼女の戦績だった。


「使用する武器は、微妙に変更した方がよさそうね。武装の方は、そのままで―」


 彼女は現状で使用しているビームスピアをレールガンに変更、近接武器はビームサーベルとレーザーチャクラムに変更した。それ以外のアーマーでも何処かで購入したと思われる物を次々と変更しつつ調整している。


「あのプレイヤー凄いな。カスタマイズも、手慣れている」

「ブラインドタッチの感覚でカスタマイズするなんて、自分には無理だ」

「それよりも、パラメーターの表示をキャンセルしてカスタマイズしているのが気になるな。時間の節約という理由ではないと思うが」

気が付くと、周囲には多数のギャラリーが集まり始めていた。彼らは彼女のカスタマイズ風景を見て色々な反応をしている。中には、言葉も出ないという人物もいた。


「これ以上は無理か。ならば、せめて手の内を見せる前に―」

最後に彼女はデータのセーブを行い、カスタマイズを反映させる。それがすぐに終わるとログアウト処理を行い、モニターでログアウトを確認して姿を消した。


「彼女に見覚えのあるような気配がしたが―気のせいか」


 身長174センチほどのラフな服装をした男性が彼女の歩いて去っていく方向を見つめている。しかし、とっさに名前が浮かばなかったという事もあって、今回は放置する事にした。


 そして、彼も端末をキャリーバッグから取り出し、センターモニターに読み込ませる。


《データを認証しました》


 その後に出てきたネームを見た周辺のギャラリーが急に沸き上がった。どうやら、ランカーの一人らしいのだが―。


《中位ランカービスマルク》


 画面に表示されたビスマルクの名前、これはハンドルネームの様なものであって、彼の本名ではない。しかし、周囲のどよめきが収まる様子はなく、それ程に影響力の高い人物である事も証明している。


「なるほど。彼女が名前を公開したがらない理由がわかった…」


 ビスマルクはカスタマイズデータログを確認し、先ほどの彼女が日向碧である事を確認した。


 カスタマイズ時にその様子を幻想姫端末のみで出力、センターモニターには非公開というオプションにする事も可能だが、日向はカスタマイズの様子は公開していた。


「だが、それならば完全非公開にするか家やアンテナショップでカスタマイズを行う事も可能だったはず。彼女が、敢えてセンターモニターを使用した意図が読めない」


 それを考えても無駄と判断したビスマルクは、簡単な武装の変更のみを行ってログアウトし、センターモニターを後にした。一部のギャラリーは別の場所へ向かったり、モニターの前に残ったり―それぞれの行動をとる。


 午後1時40分、花江は幻想姫のアンテナショップを発見する。人混みはなく、10人~20人程が店内の商品を品定めしているようだ。


「隣の混雑はマシンフォースだとすると、ここは何のショップなのか」


 花江が手に取っているのは、マラカスやエレキギター、太鼓のバチと言ったような物である。マシンフォースの様なロボットのパーツとは程遠い。


「ここは幻想姫で行う音楽ゲームを扱っている。手にしているエレキギターで、モニターに表示される譜面を演奏するタイプと言えば、分かるか?」


 花江の隣に姿を見せたのは日向なのだが、彼女との認識はなく、単純に情報を聞き出せそうな人間が現れたという感覚である。


「成程。これで楽器の演奏を体験できるという事か―」


 日向の方も花江の反応を見て、彼が幻想姫とは関連性が薄いと考えているのだが、それとは別に何か別の目的で来ている可能性も否定できないと思った。


「幻想姫は初めてなのか?」


 日向が尋ねると、花江は秋葉原でマシンフォースを見たと答える。そして、日向は―。


「ARガジェットに関して知識があるように見えるが、他のゲーム開発者か?」


 花江を何処かの産業スパイと考えていたのだが、日向の質問に花江が答える事はなかった。しかし、花江が首を横に振っていたので、スパイと言う訳ではないようだ。


「これを見せる必要性があるのか?」


 花江は日向にも警備員に見せた物と同じIDプレートを見せるのだが、その反応は警備員とは全く違っていた。


「そちらの勢力と言う事か」


 日向は向こうと敵対する気は全くないのだが、問題はアキバガーディアンだろう。これが理由で現状のコンテンツ争奪戦の様な展開となっている状態が、更に悪化しない事を彼女は願っていた。

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