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第3話:真実を求めて

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・5月23日午後1時16分付

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 5体の長良型を撃破し、雪風のコクピット内にいる天津風ハルは周囲に敵の反応がない事を確認してログアウトボタンを押そうとしていた、その矢先である。


「このアラートは一体……」


 ボタンを発見して、今にも押そうとした瞬間に突然アラート音が鳴り響く。アラートは緊急停止の類ではなく、天津風にとってはアラート音に聞き覚えがなくても雰囲気だけで何が起こったのか把握できる物だった。


【未確認の幻想姫を確認。バトルモードへ移行します】


 モニターに表示される特殊メッセージ、それは格闘ゲームで言う乱入を意味している物だった。


 音楽ゲームでは乱入と言う概念が存在しないが、マッチングと言う対戦要素は存在する。幻想姫を使用したゲームでも乱入と言うシステムを採用したゲームは指折り数える程度。それを踏まえると、天津風はログアウトのタイミングが悪かったと言える。


『お前のような奴に雪風を動かせるとは思えない』


 雪風の目の前に現れたのは、同じ位の全長、酷似したデザインを持ったマシンフォースだった。違いがあるとすれば、雪風とは違う連装砲、ビームナギナタを装備している点、ブラックをベースとしたカラーリングである事か。


 先ほどの長良型とは違い、雪風と若干酷似するという事は能力も同じ可能性は否定できない。


「乱入してきたという事は、初心者狩りか? それとも、ランキング稼ぎか?」


『そのどちらでもない。その機体を手に入れる為だ』


 乱入してきたのが、初心者狩りと呼ばれるタイプのプレイヤーかと天津風は考えていた。しかし、実際は雪風を狙っている人物だったのである。


 天津風の方は迎え撃つ状態ではなかったのだが、敵組織が雪風を狙っている以上、相手を倒すしか方法はなかった。


『同じ駆逐タイプのいなずまを甘く見るなよ!』


 目の前に現れた電は、速攻で両腕に装着されているハンドバルカンで先制攻撃を仕掛ける。しかし、それも天津風には把握されているらしく、全て回避されてしまう。


『馬鹿な! 雪風は素人が上手く扱えるほど―』


 その後も背中に搭載されたミサイルランチャー、ビームナギナタ等で雪風に攻撃を仕掛ける電だったのだが、雪風はスローモーションを見ているかのような華麗なステップで回避を続ける。


「お前は一つだけ勘違いをした。確かに雪風の操作性はマシンフォースの中で難しい部類に違いないだろう……だが、動かすプレイヤーが機体性能を把握していれば―」


 天津風は全てを話し終わる前に振り下ろされたビームナギナタを弾き飛ばす。飛ばされたナギナタは地上に落下する前に消滅し、その後ビームサーベルを構え直して電のミサイルランチャーを一刀両断、決着はその時点で着いた可能性が高い。


「何だ、あのプレイヤーは?」


「雪風自体は他にも使用しているプレイヤーがいるが、ここまでの動きは見た事がない」


「もしかすると、サブカードのプレイヤーか?」


「サブカードに関しては、基本的に禁止されているはず。特に幻想姫が関係するゲーム全般は同じだな」


「他のゲーム経験者かもしれない。同じジャンルでシステムが似ているようなゲームがあれば、覚えも早いという話を聞く」


 周囲で観戦しているプレイヤー、スマートフォンやタブレット端末で生中継を視聴する人物も存在し、更にはパソコン経由で衛星中継を見ている海外のファンも存在する。


 それ程に幻想姫は日本で一大ブームとなり、海外からも注目の的になっている。しかし、生中継を閲覧可能なのは秋葉原エリア限定である。それだけ、サーバーのアクセスも多いという証拠なのだろう。


【これならば、超有名アイドルも目を付けるか】


【海外にも存在したと言われる幻想姫を一番に解析したのは日本だと聞く。海外からの視線も増えるのは当然の話かもしれない】


【他国でも一部を解析できたが、それをどのように使うかが理解できなかった。それを即座に判別できたのは日本だけだと聞く。決して、ゲームに使用するという選択は異端と言う物ではなく、むしろ正当な物だったかもしれない】


【しかし、SF映画でありそうな世界が現実に迫っているというのは驚きと言うか―】


【幻想姫以外のARゲームもマンネリと言う訳ではないが、勢いがARゲームの流通し始めた時期とは異なる】


 ネット上のつぶやきでも、幻想姫に関しては色々な意見が飛び交っている。それも情報量が莫大過ぎて、どの情報が真実なのかと言う判別も困難となっていた。


 ネット上でも天津風が勝利すると考えていたユーザーは少ない。むしろ、長良型のプレイヤーは素人だと断言しているようなコメントも存在していた。


「どうやら、向こうも周囲もこちらを甘く見ているようだ」


 天津風は、サブモニターとして使用している自分のタブレット端末に流れるユーザーが発したと思われるコメントに反応する。


『あなたは、何をしようとしているの? もしかして―』


 雪風は天津風の戦法などに疑問を持っている。勝つ為だけであれば、そこまでの魅せるプレイの必要性は皆無だ。逆に舐めプレイとしてネット炎上の標的になる事も否定できない事を懸念している。


「ワンターンキルを決めろと言うのか? それは出来ない相談だ」


『そうでもしなければ、超有名アイドル勢が全ての歪みである事を示せない』


「超有名アイドルの商法に関して懸念を持っているのは、自分も一緒だ。しかし、力で全てをねじ伏せるようなやり方は―他のガーディアン勢力などと同じになる」


『それならば、何故に私の力を手にしたの?』


 雪風の疑問に天津風は答えるが、それでも彼女にとっては理解できない箇所が存在している。勝てば官軍のような考え方は超有名アイドルでも浸透しており、その為には非合法手段を用いる例も目撃されていた。雪風も天津風の考えを全て理解している訳ではない。先ほどのバトルだけで理解しろと言うのが難しいだろう。


「どうやら、自分がマシンフォースの抽選に落ちた理由が分かったような気がする」


 天津風は常人には考えられないような操作テクニックを使用し、気が付くと相手の電を機能停止させていた。使用した時間は1分にも満たない。


 先ほどの長良型の方が操作に不慣れな分だけ時間がかかったと言うべきだろうか。あるいは、長良戦が慣らし運転と言うべきだったのか?


『ワンターンキルは否定したのに、ワンサイドゲームは否定しないのね』


 雪風のさりげない一言が胸に刺さる。周囲の観客や中継を見ていた視聴者、その他の手段で見ているギャラリーを黙らせるには十分な結果だった。


【バトル終了】


 電に載っていた男性プレイヤーは思わず自分の足を拳で叩く。筺体を破壊すれば機体が暴走すると言う恐れがあって、台パン等の行為はNGとされている。


「何て奴だ。まるで、チートじゃないのか?」


「チートこそあり得ないだろ。仮に幻想姫でチートが見つかった場合、規模によっては永久追放だ」


「あれはチートと言う一言で片づけられるのか?」


「他のゲームの強豪プレイヤーだったという説もあり得そうだ」


 雪風と電のバトル終了後、別のバトルをタブレット端末で探しながらギャラリーがつぶやく。


 他にも、スマートフォンでマップ検索をしながら何かを探す人物、ゲーセンに置かれているセンターモニターを兼ねた端末で別のバトルを検索する者もいた。


「あれが雪風か…噂に聞く能力は発揮されていないようだ」


 他のギャラリーとは違う服装の男性は、ファストフード店の2階からバトルを観戦していた。幻想姫を使用したゲームに関しては、実体化したとしても周囲の建造物等に被害を与えないような作りになっている。幻想姫が戦争の道具として悪用されないようにする為のリミッターと分析する者もいるが、この考え方が正しいのかは不明だ。


「柏原、何を考えている?」


 青い陸上用のジャージを着た男性が柏原に声をかける。柏原も彼と同じ陸上用のジャージを着ているのだが、胸の鷹をベースとした刺繍はアキバガーディアンのそれと酷似している。


「幻想姫のおかげで秋葉原には多くの観光客が訪れるようになった。その一方で超有名アイドルが色々な手段を使って宣伝を繰り返し、秋葉原の治安は悪化寸前にまで到達していた―」


「治安強化ならば、自治体や警察の力を借りれば問題ないのでは?」


「自治体も警察も超有名アイドルの警備強化を理由に、治安維持にまでは手が回らないと言い出している。結局、資金力のある存在が有利に進められるという現実を見せ付けられた形だ」


「たったそれだけの理由で、アキバガーディアンを立ち上げたのか?」


 ジャージの男性が驚くのも無理はない。アキバガーディアンを立ち上げたのが、目の前にいる柏原だからである。詳しい理由を尋ねようと考えていたが、下手に刺激を与えれば逆に捕まってしまうという懸念から発言を止めた。


「どちらにしてもガーディアンの様な存在は必要だった。幻想姫が秋葉原や各方面でもサービスを開始している現状を見れば、それに対して対抗しようとする存在も出てくるのは否定できない―」


 柏原は、それだけを言い残してファストフード店を後にする。ジャージの男性は彼の後を追う事はせず、テーブルで黙々とコーヒーを飲んでいた。


「柏原、お前を変えてしまったのは一体、何だと言うのか」


 先ほどの男性も別の場所へと向かうようだ。彼自身は柏原に用があった訳ではないようにも見えるのだが…。


 ファストフード店を出た柏原の目の前に現れた人物、その外見は秋葉原以外でも不審人物と認識されるような物だった。

黒マントの下にはビキニ水着だが、黒のラバースーツを着ている為に露出度が高い訳ではない。黒髪のロングヘアーと見せかけて、髪の先端部分だけが青というのも特徴的である。


「誰かと思ったら、出雲か」


 しかし、出雲と呼ばれた女性は柏原を睨みつけている。彼女の方が身長は高く、柏原の方は1センチほど低いという気配だ。


「私は飛鷹だ。出雲とは呼ばないようにと言ったはずだが…隼鷹」


 飛鷹出雲ひよう・いずも、彼女もアキバガーディアンの一人であり、柏原と共に組織を立ち上げた一人でもある。しかし、彼も飛鷹と同様に何かに対して表情を曇らせているようにも見えた。


「ガーディアンの基地以外では、柏原と呼ぶようにと言ったはずだが。あくまでも隼鷹はコードネーム」


 柏原隼鷹かしはら・じゅんよう、元々は駅伝で有名な選手だったが、秋葉原の現状を知った事でアキバガーディアンを立ち上げる事になり、現在の状況に至る。


「アキバガーディアンの規模が大きくなりすぎたように見える。このままでは、超有名アイドルの買収を受ける可能性も否定できない」


 飛鷹は現状のアキバガーディアンに関して不安を抱いていた。自分達が生み出した組織なのに、第3者に丸投げと言う訳ではないが他人事のようなリアクションを取る。


「アキバガーディアンが分裂をするのであれば、それは起こるべくして起こったと言うべきだろう。それに関しては、こちらで無理矢理押さえつける事はしない。あえて問題点があるとすれば、莫大な資金を利用して秋葉原を第2の国会にしようと考えている超有名アイドルの芸能事務所だろう」


「第2の国会? 一体、そのような事をして得する勢力がいるのかしら」


「幻想姫に施されたリミッター、それさえ解除出来れば軍事転用は可能になる。そうなれば圧倒的な軍事力を利用しようと考える人物が現れてもおかしくはない」


「我々は戦争をする為に幻想姫の技術を生み出した訳ではない。幻想姫の技術は平和利用の為に利用されるべき物。それが分からなかった一部国家は、幻想姫の技術を解読する事が出来なかった―」


 飛鷹と柏原は立ち話を続ける。この話はテレパシーの類ではないが、周囲の人物に聞かれるような気配はない。だからと言って、スマホアプリを使用したメッセージの類と言う訳でもない。単純に、周囲の人たちは2人の会話に関心がないからだ。


 それから色々な話を歩きながらしていく内に午後1時となり、2人は別のコスプレショップがテナントとして入っているビルに到着した。


「アキバガーディアンが見せる可能性……その結果が、暗黒時代へ突入する流れを生み出そうとしているのか?」


 柏原は自問自答する。その答えは、今になっても出てくる気配はない。


「幻想姫のデータが入った物体が世界各地で目撃され、それから10年がたとうとしているが、その意味に気付く人物は未だに現れる気配がない」


 一方で飛鷹も幻想姫のデータが世界各地へ散らばっていた意味を考えていた。こちらも柏原と同じく答えは、いまだに出ていない。


 午後1時10分、天津風対長良戦の動画を駅近くのゲームセンターで視聴する別の人物がいた。


「なるほど。これが幻想姫と言う物か」


 細身で白い提督服を着た男性がモニターで動画を視聴していたのだが、その姿を見て驚いているギャラリーもいる。アキバガーディアンと疑われ、第3勢力と言われそうな様子なのは事実かもしれない。


「そこの白い提督服、第3勢力か?」


 アキバガーディアンの警備兵らしき人物が提督服の男性に対して詰め寄ろうとしたが、提督服の人物は武器を持っていないという事もあり、逆に疑われると判断、今回は見逃す事にした。


「紛らわしいコスプレをすれば、超有名アイドルファンやブラックファンの様な連中に狙われる。注意した方がいい」


 警備兵は一言忠告したのみで、その場から立ち去った。提督服の男性も緊張の糸がほぐれたような表情をするが、それを周囲に見せる事はない。


「ここのコンテンツに対する意識は非常に高いように見える。しかし、相変わらず超有名アイドルが拝金主義を続ける限り、悲劇は繰り返される可能性も高い」


 花江和馬はなえ・かずま、彼は別組織から秋葉原のコンテンツ産業について様子を見るように派遣されて来た提督の一人。しかし、今は街の様子を見ているだけで本格的な行動は起こす気配がない。


「あれは―?」


 花江が目撃したのは、自転車に乗った天津風である。丁度、このゲーセンへ立ち寄るようだ。そして、花江は一通りの様子を見終わったので、ゲーセンを後にする。


「やはり、アカシックレコードの技術で作られた物なのだろうか……幻想姫も」


 花江は少し疑問に思いつつ、別のゲーセンへ足を運んで幻想姫のゲームを見て回る。その中でも、おそらくはマシンフォースは特殊と言っても過言ではない。


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