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第1話:その名は雪風

・5月23日午前12時59分付

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 今から10年前の西暦2007年頃、宇宙から飛来したと言われる謎の物体、それは多くの国が解析作業を行ったのだが、その内容を最初に解析できたのは日本だった。


 一方で解析できたとしても実用化出来る訳がないと、他の国は日本が技術を独占すると考えてはいなかった。


 幻想姫、別名をミラージュ・アイドル。公式にはナンバーワンアイドルを決める為のシステムと発表されており、ARを利用したバーチャルアイドル、新世紀の次世代アイドル等と週刊誌に書かれる事はあった。そのシステム詳細を含めた仕様は企業機密扱い。地球外からの技術を日本ではゲームに利用したのである。


 これには一部週刊誌報道を含め、海外の主要メディアも驚きの声をあげた。実際、ネット上には幻想姫の様な物ではないが、バーチャルアイドルと言う概念自体は存在する。そうした事もあって、日本では大きく取り上げられる事はないのだろう。


「あの技術は兵器転用が可能な程の可能性を持っている」


「何故、我々には解析が出来なかったのか?」


「日本に解析方法を聞き出す手段を―」


 各国の技術者は、このようなコメントをインタビューで残している。それ程、他国が欲しがるような技術だったのは言うまでもない。発表から一カ月経過した時には「いかにも日本らしい」と言う声が浮上する一方で「日本でなければ、軍事利用される危険もあった」と言う市民の声も出るようになった。


 幻想姫の詳細は発表当時には不完全な部分もあって不明な箇所も存在する一方で、使い方を間違えると危険な技術だったのは間違いないだろう。


 しかし、日本では軍事利用されるという部分に関して一切触れられていないのは理由があり、「未確定情報を流し、ネット炎上する可能性がある」と言う事で流していないとするネットユーザーの話も存在する。


【兵器議論に発展すれば、この技術はリアルチートと言われる可能性がある】


【発表段階データの推測でも、国を滅ぼせる技術だと言う事が立証されている以上、兵器転用の話を出すのは禁句なのだろう】


【幻想姫の技術を兵器転用するなんて『Web小説のチート系作品の見過ぎである】と言われる位には、世間の反応が悪い】


【今の時期だと有名男性アイドルのCD売上や経済効果に関して議論されている。幻想姫の話題は広げようとするだけ無駄かもしれない】


【結局、この技術には無関心の企業が多いのだろうか】


 ネット上ではこのような書き込みが存在し、幻想姫の研究は一部ゲームメーカーで開発が進行する程度にまで触れられなくなった。


 西暦2017年、日本が最速で解析した幻想姫を使用したゲームはシェア4割と言われる所まで到達。家庭用ゲーム以外にもソーシャルゲームやアーケードゲーム等の選択肢もある中でシェア4割は大健闘と言ってもいい程の急成長を遂げていた。


 幻想姫と対抗するような形で成長している拡張現実を使用したARゲームは開発費が100億を超える状況になっていた。これにはゲーム業界も頭を抱えているようだ。


 しかし、幻想姫のシステムを使えば約半分で同じクオリティの作品を開発できるまでに成長を遂げている。


 現在はARゲームよりもタイアップ付きのソーシャルゲームの方が利益回収率は高いという事で、次第に幻想姫のシステムはアーケードよりもソーシャルゲームの方で利用される事になった。


 単純にソーシャルゲームで幻想姫のシステムを導入しただけでは、スマッシュヒットに発展するようなゲームが生まれない事はゲーム会社も把握している。ネット上でも幻想姫を使ったゲーム以外でヒットする作品を例に挙げ、幻想姫のシステムありきではない事を証明する動きがあった。


 そう言った状況もある為、ソーシャルゲームでも失敗しないようなアイディアを考え、それを形にしていく事が急務とされた。


 そして、誕生したのがいつの時代でも流行していたロボットを利用したゲーム、幻想姫マシンフォースである。プレイヤーはロボットのパイロットとなり、さまざまなエリアに出現する敵を倒し、ラスボスを目指していく。ロボット物としてはよくあるシチュエーションであり、今更ヒットするような要素はないとロケテスト前には言われていた。


 しかし、実際のロケテストの時にはラスボスは設定されておらず、中ボスを撃破までという―体験版に近いような仕様でテストが行われていたと言う話がある。


 ロケテストに関してはサービス開始時と一部内容が異なる仕様があったらしいのだが、オープンテストのページが閲覧できなくなっている以上は事実関係を確かめるのは困難を極めている。


 こうした情報に関しては、ネット上でも大手のサイトであれば容易に入手は可能だ。海外向けには情報規制がされている可能性も……と言う事はないらしい。一部の国では幻想姫の情報規制がされている可能性もあるが、日本ではそのような心配はないようだ。これを踏まえると、日本政府も現状では様子見である事が分かる。


###


 3月某日、こうしたネットにおける事前情報も仕入れず、自分は幻想姫マシンフォースの正式版に応募をしていた。

ベータテストでも募集枠10万人に対し、受け付け〆切の20日には200万人が集まったという大盛況ぶりだった事から、相当の強運がないと落選するのは目に見えていた。


【ベータテストの感想を見た感じでは受け入れられるとは思えない】


【ロボットゲームは一定の人気がある。アイドルゲームと同じ位にはプレイヤーを集められるだろう】


【基本無料とは書かれていなかったようだが、ソーシャルゲームとして成立するのか?】


【ソーシャルゲームと言っても、一般的なソーシャルゲームとは概念が違いすぎる面がある】


【どちらかと言うと、幻想姫におけるソーシャルはARゲームと言う単語が使えない為の商標対策かもしれないだろう】


 ネット上のつぶやきでは、このような意見がある。しかし、200万人が集まると言う事は、それだけの期待の裏返しとも考えられる。


 4月1日、マシンフォースの事前情報を仕入れなかった事は募集の競争率にも影響していた。


【幻想姫マシンフォースへの予備エントリー応募、ありがとうございました。残念ですが、今回のエントリーには―】


 自分のタブレット端末に届いたのは予想通りという気配のする落選の告知。ネット上では「スタッフが応募枠を独占している」や「オークションで転売されている」という話も浮上するのだが、これらの話が真実なのか分からない。


 仕方がないので、自分は秋葉原へ自転車で向かう事にした。家からは20分もかからずに秋葉原駅へ到着できるというのも大きい。


【マシンフォースの競争率が高い】


【当選権利が転売された場合、その権利は無効となる。しかし、何処かで横流しされている可能性は否定できない】


【しかし、マシンフォースは他の幻想姫を使用したソーシャルゲームと違って、稼働しているエリアが少ないのがネックだ。関東と関西以外で利用できるエリアがあるのかどうかも分からない】


 ネット上では当選権利が転売されている可能性が低い事が言われている。仮に転売されていたとしても、権利が無効化、使用出来るエリアが限定されるという事で人によっては無価値に見える可能性もあるかもしれないだろう。


 秋葉原に到着したのは午前10時30分頃、その時には大勢の観光客や一般客等で人混みが出来ている個所もある。


「あれは、一体…」


 秋葉原のビルを見上げると、そこには1体のロボットが倒れる場面を目撃する。コスプレ衣装の専門店が入っているビルが一番目立っているのだが、そこではなく別の裏路地方角に倒れる。


 一方で倒れたロボットではない別のロボットは何処かへと姿を消してしまった。そして、周囲で警備を行っている警察の物とは違う防弾装備をしている警備隊と思われる集団は2体のロボットに見向きもしないのは気になる。


 その警備隊は別のアイドルファンが起こしていると思われるトラブルに対処、犯人を電光石火の如く鎮圧する。警備隊の名称はアキバガーディアン、現在の秋葉原の治安を急速に強化させた警備隊である一方で、巨大ロボットには見向きもしないのには理由があるのだろうか?


「こちらガーディアン、通報のあった一団を鎮圧成功―」


『ご苦労。引き続き該当地点に出現している一団の確保を続行せよ』


「了解。暴徒鎮圧を続行します」


 このようなやり取りを無線でしていたのかは不明だが、彼らの様子から超有名アイドルファンが何か事件を起こし、それを鎮圧していたというのが分かる。


「こっちはこっちで―」


 今の自分にとって、アキバガーディアンは関係ない。彼らの行動原理は超有名アイドルが関係した転売等を事前に阻止する事である。

ロボットの方に見向きもしなかった点を考えれば、こちらが下手に刺激をする必要性はない。彼らに捕まった場合、下手をすれば多額の賠償金を求められるだけでなく、秋葉原を出入り禁止にされる可能性もあった。


 仮にガーディアンを刺激しても、マシンフォースの当選結果が変わる訳でもない。こんな事でストレスを解消したとしても、待っているのはネット上での炎上やマスコミに叩かれる末路が待っている。


 それを百も承知でアキバガーディアンにケンカを売ろうとするのはかなりの物好き。あるいは自分がネット上で目立ちたいとする自己主張が強い人間だけだ。

しかも、捕まった場合にはネット上には【BL勢、またもやアキバガーディアンに対してテロ行為】や【夢小説勢がアキバガーディアンへ攻撃を仕掛ける】と言うような理由をアフィリエイト系まとめサイトに書かれるだろう。


【そう言えば、マシンフォースは何故に競争率が高いのか?】


【ロボットに乗るタイプのゲームならば既出の作品でも…】


【マシンフォースの凄い所は、リアルな操縦感覚を味わえる事らしい】


【ようするに、レースゲームで自動車免許がなくても車道を走る感覚が味わえるような物か?】


【ざっくりしすぎだが、大体そうなるだろうな】


 ネット上のつぶやきでもマシンフォースの人気が過熱傾向にある事を疑問視する動きはある。何故、ここまで人気が出たのか? 現時点で真相がネット上で判明する事はないようだ。


 色々な事があったが秋葉原に到着してから10分位が経過した午前10時40分、気が付くと裏路地近くのゲームセンターに到着していた。そして、自転車置き場に自転車を置き、何故か先ほどのロボットを探し始めていた。本来はゲームセンターに用があったはずなのだが、それを忘れてまで捜索をしている。


 間違いがなければ、秋葉原上空で戦闘をしていた2体のロボットの正体は―。


「まさか、本当にマシンフォースなのか」


 自分の目の前にある光景、それは一般人からすれば常識を疑う物である。しかし、ここは秋葉原。彼らにしてみれば、目の前にロボットがあるという光景には何か感じる者があるのだろう。


 秋葉原のビルの路地裏、その道路を占拠していたのは全長10メートル位のロボットだった。周囲のビルには損傷したような部分はなく、ARによる映像としては良く出来ていると感心するギャラリーもいた。


 デザインはSFでよく見かけるような量産型、カラーリングは白と青とグレーをベースとしたトリコロール、武器は両腕のハンドバルカン、両肩のシールドに搭載されたホーミングレーザー、ビームサーベルと言ったところか。


 胴体のコクピット部分が開いており、人が乗っている様子は感じられない。ハッチの開き方に不自然な部分もあり、もしかすると乗り捨てる事が前提だったとも考えられる。不自然な部分は乗り捨てられた事だけではない。


 それに加えて、ビルの残骸が周囲を見回しても確認できないのである。これに関しては驚く野次馬も存在するのだが、「良くある事」と切り捨てるギャラリーも確認出来るため、反応が分かれている可能性が大きい。


 マシンフォースに関しては仕様を含めて賛否両論あるのだが、市民の反応もバラバラとは…。まるで、超有名アイドルに関係する事件を思わせる。


 自分は、何故か無意識に目の前のマシンフォースが気になっていた。そして、その機体へ近づこうとしたその時である。


『そこにいるのは、誰?』


 マシンフォースのコクピットから姿を見せたのは、自分よりも身長の低い女性。少女と言うには年齢が低く見えず、肌を露出するようなタイプとは違ったコスチュームを着ている。


 それに加えて彼女には実体と言う概念は存在しない。幽霊とは違うのだが、ARゲームでも一部に実体をもたないCGモデルが登場している。それと似た存在だろうか。


 それだけ、ゲームと現実の境界線は崩れつつあるようだ。俗に言う2.5次元というシチュエーションに酷似している可能性もある。


「雪風なのか?」


 自分には見覚えがあった。彼女の名前は雪風、他の幻想姫を扱っているゲームでもプロモーション的な立ち位置として存在していた。


 いわゆる、ソーシャルゲームで新規加入特典に付属しているプロモカードみたいな立ち位置の人物でもある。


 その為、彼女のスペックは長期に渡って使用出来るような物に調整されているのが現状だ。雪風の名前は共通という一方で幻想姫の担当絵師によってはデザインが異なるのも特徴であり、ゲームによっても装備しているアクセサリー等に差異は存在する。


『その通りよ、私は雪風。この世界は超有名アイドルによって占拠されようとしている! だからこそ、世界を救う為の救世主が必要なのよ』


 彼女は自分に向けて警告し、まるで意思を持っているかのような言動で話しかけてきたのだ。普通の幻想姫は喋る事はあっても、このような行動は起きない物である。


 その理由として、幻想姫にはメモリーが存在する一方で、主な役割としてはタブレット端末やスマートフォンの様なものだと聞いた事がある。


 それが事実かは別問題になるが……ネット上では、その理論で話が通じているようだ。


「幻想姫は、本来であれば登録した持ち主がいるはず!」


 自分は雪風に向かって叫ぶ。すると、彼女は予想外の事を口にした。


『私は見捨てられた。何度も敗戦が続くから―』


 自分で捨てられたと言ったのである。幻想姫に携帯電話で言う所の解約手続きが存在するのかは不明だが、二重契約と言う物があるのかも分からない。


「見捨てられた? 幻想姫マシンフォースと言えば当選確率も大変だと言うのに、あっさりと連敗が続いただけで止めるプレイヤーがいるのか?」


 マシンフォースの競争率が大変な事になっているのは、見捨てたプレイヤーも百も承知している可能性があるが、そうした情報を全く知らないで見捨てるとは考えにくい。

もしかすると炎上ネタを投稿する為の罠と言う可能性もあるかもしれない。


『このゲーム自体、脱落者は多い……脱落者が多いのは―』


 雪風が途中まで話している辺りで、別の人影の気配を感じた。囲まれていると感じる位の大人数で、これだけの数をアキバガーディアンが放置していたのかと疑うレベルなのは間違いない。


 あるいはマシンフォースに関してノータッチなのか。彼らの装備に関してはFPSやTPSで見かける物であり、拳銃のような物も見えた。武装組織と言う可能性もあるが、日本では滅多にあり得る事ではないだろう


『見つけたぞ!』


『あれがマシンフォース、雪風か』


『雪風を手にする事が出来れば、マシンフォースを掌握する事も容易になる』


 他にも周囲に人がいないか警戒をしている人物もいれば、雪風の捕獲を考えているメンバーも存在する。


 目的が雪風であるのは会話等からでも把握できるが、彼らの素性が分からずじまいなのが非常に痛い。サバゲの同好会や他のゲームをプレイしている途中で雪風を発見したという偶然とは違って、ピンポイントで雪風を狙っているようにも見えた。


「仕方がない。これを諦めるしかないのか」


 自分は雪風との接触を途中で切り上げ、その場から逃げる事にした。そうでもしなければ襲撃される可能性もあったからだ。


 しかし、その考えは既に見破られているらしく、一部は雪風の調査にメンバーが割かれていたのだが、その中の5人がこちらを追跡している。


 ゲーセン内に逃げたとしても一般客に迷惑がかかる可能性があり、他の店舗に逃げ込んでもそれは変わらない。結局は、路地裏に逃げ込むという手段を取るしか方法はなかった。


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