6 決断
汐里の息を呑む音が聞こえた。そうか、だから圭太は戦わずに逃げたのか。血液なんて、傷付けてしか手に入らない。採取するのが難しいから、毎日持ち歩くことなんてできない。もし、俺の条件が血液だったら。汐里に頼むことなんてできなかっただろう。それに、戦闘が始まると、その間は一般人を傷付けると敗北になるから一般人から採取はできない。
だから、同じクリーガーの俺を選んだんだ。傷付いてもすぐに治るクリーガーなら、戦いに参加しているクリーガーなら。
「でも、一郎にメリットはないでしょ?」
「ああ。一郎は毎日君から涙を貰って持ち歩けば良い。はっきり言って、クリーガーの協力は成り立ちにくいんだ。協力しても、勝つのは一人だからな」
圭太は、自嘲するように顔を歪めた。それをわかっていて、俺に協力を仰いだのか。
初心者だからといって嘗めているわけじゃない。利用するなら、何も説明しないまま巻き込むか、嘘の情報を教えれば良い。さっきだって、俺を相手に固定させないで、自分を固定させて俺に戦わせることもできた。圭太は一度相手に会ったことがあるから、相手はそんなに強くないこともわかっていたはずだ。俺が勝つと予想していたから、戦闘を提案してきたのだろうし。
だから、自分を固定させて、俺が勝って自分が核を手に入れた後に逃げれば良かった。戦闘開始後24時間は他のクリーガーと戦えないから、逃げるのは簡単だ。それを俺の背後に移動することによって俺が固定されて、戦闘で勝って俺が核を得ることができた。
なんて不器用で誠実なんだろう。
「一郎は普通に強いみたいだからな。俺の協力は必要ないだろう」
「じゃあ、何で誘ったの」
「絶対に取り戻したいものがあるからだ」
汐里ではなく、俺を見た。そうだ、今は俺と話しているんだ。
クリーガー同士、協力が成立しない理由はなんとなくわかる。チームで勝敗を調整したところで、『3回の敗北』が枷となる。2回負けた時点で焦りは生まれる。あと1回勝てば良い、より、あと1回負けるのが怖い。自分が勝ちたいから、最後には協力なんてできなくなる。皆それがわかっているから、協力は成立しにくい。
きっと、圭太はもう一度何かを失ってでも、今失っているものを取り戻す方が大事なんだ。そのためには、自分に不利なことも引き受けるだろう。協力する代わりにケルンを渡せと言われたら渡すのかもしれない。
それほど大切な何か。それを取り戻す助けになるなら。
迷うことなんてない。
「いいよ。協力する。お前が4回勝つまで、俺が条件を提供する」
「……いいのか?」
「今更? 生理的に受け付けないってのはナシだからな」
「いや、それは大丈夫だけど。まさかすぐに承諾されるとは思っていなかった」