5 戦闘
横に飛んでいった。10メートルくらい飛んでないか。人ってこんなに飛ぶのか。回復が早いと思って思い切り蹴ったけど、まさかここまでとは。
思った以上の力に、飛んでいくのを呆然と見ていた。
「甘い!」
離れたところからの恫喝に、体が動いた。叫んだ汐里の横で、圭太はじっとこっちを見ていた。観察するような目だ。
音を立て砂埃が舞う中を突っ込んで行った。男はまだダメージが残っているのか起き上がらない。その隙に足で仰向けにさせ、みぞおちを踏んだ。呻き声が漏れた。
大学生くらいか。動きやすいようにジャージを着ている。準備万端で挑んできてこれか。
「さて、どうする?」
「負けだ! ケルンはやるから止めてくれ!」
懇願するように両手を出した男に、足に体重を乗せた。勝負は最後まで油断してはいけない。
戦闘終了条件は、相手が気絶するか、負けを認めて「エンデ」と宣言することだ。だから、いくら男が負けと言っても戦闘は終わっていない。
男は痛みと苦しさで声が出ないのか、もがき始めた。演技かもしれない。足の力を少し抜いて、顔を殴ることにした。
「エンデ! エンデだ!」
宣言と共に、腕時計の熱さは消えた。振り下ろそうとしていた拳は止めらなかったため、腕を捻ってなんとか顔の横に落とした。少し地面が抉れた。これ、顔に当てていたら大変なことになっていたかも。でも、回復するから良いか。
遠くで見ていた汐里と圭太が駆け寄ってくるのをちらりと見た隙に、男は脱兎のごとく逃げ出した。クリーガーだと、逃げるのはこんなに速いのか。逃げなくても、もう戦闘は終了しているのに。
「相手も身体能力が上がってるんだからね!」
汐里のいきなりの説教に、逃げるように圭太を見た。圭太は呆れたように苦笑し、汐里を右手で制した。今から俺が話す。その合図に、汐里は口を噤んだ。
「やったな」
「相手が良かっただけだ」
木に登っていた時点で勝負はついていた。相手を探すために高いところにいたのはわかる。でも、戦闘開始時には降りておくべきだった。宣言するなら降りてからするべきだった。その間違いが、勝敗を決した。
あとは反撃の機会を与えなければ良い。急所を狙って、反撃させなければ良い。
「一郎、頼みがある」
圭太の硬い声に、じっと目を見た。圭太はこれを言うために、ここまで案内したのだろう。実際体験してみて、これからのことを考えるために。
「俺に協力してくれないか。俺に条件を提供してほしい」
「お前の条件は」
「血液だ」