3 出会い
どこにでもある俺と同じ黒い学ランは、個性を消していた。鞄は学校指定のもので、近くの高校のものだ。この辺で一番偏差値の高い高校だけど、そんな奴もクリーガーなのか。クリーガーになるのか。
いや、頭が良いからこそ、取り返すメリットと失うデメリットを考えて、参加しているだろう。
「警戒するなよ。ここでは戦えないだろ」
「あ、ここは人通りが少ないけど、広い場所じゃないね」
「そういうこと。それに、戦える場所でクリーガーに出会ったら時計が反応する」
汐里は戦闘条件を思い出し、背後から隣に移動した。昨日の説明では、戦闘場所は確か人通りが少なくて広い場所だったか。広い場所かどうかは時計が判断してくれるようだ。あとは戦闘開始の条件もあるけど、それは実際起こってみないとわからない。
そして、戦闘場所の条件がそろった時、クリーガーに相手として選ばれた時、否応なく戦闘は開始する。
「実際クリーガーと戦ってみるか? 俺は戦う気はないから他の奴な」
「何でそんなこと……お前にメリットはないのに」
「まあ、それは後で説明する。とにかく、今は敵じゃない。それで良いだろ」
「……良くはないけど、悪くはない、か」
「ああ。俺は圭太。土2つの圭に太いで圭太。よろしく、一郎」
俺の名前を知っているということは、大分前から俺と汐里の会話を聞いていたわけだ。無防備に時計を隠していなかったからそれを見たのだろう。どこにでもあるデザインの時計だけど、クリーガーが見ればわかる。デザインは何種類かあったけど、全部覚えることはできる。実際、俺も全部覚えた。
差し出された手を取るか悩んでいると、汐里に強引に握手させられた。
「敵じゃないなら、今のうちに助けてもらいましょう」
今は敵じゃない。ただし、今後敵になる可能性はある。それなら、今のうちにクリーガーについて教えてもらう方が良い。何も知らずに負けて、1回の戦闘を無駄にするのは避けたい。
俺がそんなことを考えていることも、圭太は予想しているだろう。そう考えるように仕向けた言い方だ。
「じゃ、移動するか。ここから20分ほど歩いたところに公園がある。前にそこで会ったことがあるんだ」
「勝ったのか?」
「逃げた。俺の条件が摂取できなかったからな」
表情を変えずに言い切り、公園に向かって歩き出した。汐里が背中を押すから、圭太の横に並んだ。
「摂取、か。自分以外の体液だったな」
「そ。血液、唾液、汗、涙のどれか。自分以外の体液を舐めるって抵抗あるっての」
「そうだよな。俺は研究所で実験されそうになったとき、汐里に協力してもらった」
クリーガーになったときに摂取したのは汐里の涙だったから、涙が俺の条件だとわかっていた。それでも涙に汗が含まれていて、それが反応したかもしれないとかで実験されそうになった。そこで汐里の涙を貰った。誰のものかもわからない体液を舐めさせられるなんて気持ち悪い。汐里はまあ、幼馴染みだから涙くらいなら口に入っても良い。
「良かったな。俺はクリーガーになったときの条件がわからなかったから、試された」
「誰のかわからないものを?」
「いや、用意されたものじゃなくて、その場にいた研究所の女の人から採った。生理的に受け付けないレベルじゃない人を選んでな」
汐里がいて本当に良かった。俺は女性でも知らない人の体液なんて無理だ。圭太もかなり我慢したんだろう。さっきは変化がなかった表情が少し歪んでいる。思い出して気持ち悪くなっているのかもしれない。
自分以外の体液。戦うときにどうやってそれを、自分の条件を摂取すればいいんだろう。