1 覚醒
頬に当たる水滴が、意識を浮上させた。
瞼が重い。目を開けようとして、上手くいかなかった。
「……い、ちろ」
嗚咽に混じって声が降ってきた。この声は。
早く目を開けないと。この声は昔から苦手だった。いつもと違う、悲しんでいる声は聞きたくない。
薄く目を開けると、泣き顔が近くにあった。
「一郎!」
大声が体に響き、痛みを感じた。体を動かそうとしても、指一本動かない。
汐里。声を出そうとして、呻き声が漏れた。
「大丈夫!? じゃないよね。でも、生きてて良かった」
勝手に殺すな。でも、何でこんなことになっているんだ。全身が痛い。
頭は汐里の膝に乗っているようで、また涙が落ちてきた。
額に、頬に、鼻に当たっていく。泣き止むように声を出そうと口を開けたところで、涙が一滴口の中に入った。
「ぐぁ……!」
体が熱くなった。細胞が活性化しているような、体が変わっていく感覚が全身を駆け巡る。
それは数秒のことで、熱が過ぎ去ったあとは体が軽くなっていた。勢いよく体を起こした。服は傷んで所々破れているが、肌には傷一つ見当たらない。
「……痛くない」
「まさか……クリーガーなの?」
聞き慣れない単語だった。汐里は信じられないとでもいうように、俺の全身を確認した。思い切りシャツを捲られた。幼馴染みだからなのか、遠慮がない。
「ちょっと立って跳んでみてくれない?」
さっきまで重傷だった奴に立って跳べというほど常識がないヤツではない。傷も治っているから大丈夫だと判断したんだろう。痛みもないから、完全に治っているはずだ。
ゆっくりと立ち上がった。いつもより体が軽い。試しに跳んでみると、思った以上に高く跳べた。ニメートル近く跳んだんじゃないか。
「ただの噂話じゃなかったんだ……でも、なんで一郎が」
「お前、何を知っているんだ? クリーガーって何だ?」
「いきなり身体能力が上がって、傷がすぐに治る人のこと。噂話だから詳しくはわからないけど」
噂話か。それだとどこまでが本当なのかわからない。ただ、自分の身に起きていることに当て嵌まる。
クリーガー。その時はただ、傷が治って良かったとしか思わなかった。




