二重人格
『お前さぁ、二重人格なんだよ』
『……』
お弁当の時間、男子に言われたこの一言で、この後に続くお昼休みが地獄へと変わっていく。
「私は、二重人格なの?」
私の周りに、今この声を聞いてくれる人はいない。お昼休みの教室と言えば、男子の笑い声やらが響くものだと私は考えているが、いまそんな状況で、私は一人自分の机に顔を伏せている。先ほどの独り言は、この伏せの状態での発声なので、しっかりと篭もっている。
話は戻して、なぜ「二重人格」と言われたのか。自分でもう一度考えてみよう。
そう、あれは先ほどのお弁当の時間のこと。班のみんなと楽しく会話をしながら食べようと思っていたのだが……。
『駅前のあんみつ屋、すごく評判良いんだって』
ご飯そっちのけで夏美ちゃんに話しかけていた私。
『あぁ、あそこはおいしいよね』
夏美ちゃんは笑顔で答えてくれる。私と大の仲良し。
『夏美ちゃん行ったことあるんだ』
『家族でね』
夏美ちゃんは笑顔を絶やさずに返してくれる。
『良いなぁ。ねぇ、今度一緒に食べに行こう』
『良いよ』
笑顔で会話って最高にいい気分になれる。この一時も最高……。
『原田、気持ち悪ぃ!』
この声は……
『中新田!貴様ぁ!』
原田と言われた私は、声の主、中新田に目を向けた。
『お前、原田って姓じゃなかったっけ?』
『違う!その後の言葉よ』
中新田め。相変わらずむかつくヤツだ!
『だって本当の事だろう?ニコニコしちゃって気持ち悪!』
『貴様ぁ、表出ろ!!』
食いかからんばかりに私が立ち上がろうとしたとき
『桃華ちゃん』
と私の名を呼ぶ声が……。
『なぁに、夏美ちゃん』
私は出来るだけ先ほどの「笑顔で会話中」の時の声に近くなるように、高い声で返事をする。
『だから気持ち悪いって』
中新田の一言を漏らさず私がキャッチする。
『中新田!』
低い声と鋭い目で、私は中新田を攻撃!
すると夏美ちゃんがクックッと笑い出した。私は目を丸くして彼女を見る。今のどこに笑いどころがあったのだろうか。
『桃華ちゃんって面白い人だよね』
とまたまたびっくりする一言。
『えぇ?そうかなぁ。ありがとう』
私は照れながらもお礼を言った。すると、
『面白くなんかねぇよ』
と中新田が口をはさんできた。中新田は尚も続ける。
『原田はな、変人なんだよ。だから面白い人じゃない』
キッパリと言われ、その言葉は氷の矢となって私のハートに突き刺さる。
『そんなこといっちゃダメだよ、中新田くん』
夏美ちゃんは直ぐに中新田の発言を取り消そうと試みたらしい。だが中新田は止まらない。
『だって本当のことじゃん?いつもはニコニコしてるかと思ったら、いきなり怖い顔になるし』
『それは中新田くんが桃華ちゃんを怒らせるようなことを言うからでしょう』
夏美ちゃんは私のフォローへと回ってくれる。
『でもさぁ あまりにも変わりすぎなんだよなぁ 特に顔』
同じ班の男子他の2名がふきだす。
『あんたねぇ……』
私はとうとう口を開いた。二人のやり取りを見ていて、中新田の発言に限界を感じていたのである。だが、その先を言うよりも速く中新田が口を開いた。
『お前さぁ、二重人格なんだよ』
私のハートが一気に砕け散ったのが分かった。
『……』
私は何も言い返すことが出来ず、ただ硬直していた。
その後ショックのあまり、それからの会話に入っていけず、お弁当の時間は去ったわけで……。終わりのチャイムと共に周りの子が席を立っていったが、私は机に顔を伏せて……
今に至る。
考えてみれば、私が言い返せば良い話だったのかもしれないのだが……。後悔の渦が先ほど受けた傷をえぐっていく。思い返すんじゃなかった!! とまた後悔。
「桃華ちゃん」
聞き慣れた声。この声は、先ほどのお弁当時間に私を中新田からかばってくれた……
「夏美ちゃん」
半泣きの声で伏せていた顔を上げ、私はその声の主の名を呼んだ。夏美ちゃんは、私の声と、どことない雰囲気から、いまの状態を察知して、夏美ちゃんは渋い顔。
「さっきのことで、何か悩んでいるの?」
鋭い質問だった。私はとっさに「違うよ」と言いそうになったのだが、この状況を口にすることで、少しは重荷がなくなるのではと考えて
「実はそうなの」
と言ってみた。すると夏美ちゃんは一層渋い顔をした。言わない方がよかったか。
「ごめんなさい。わたしが中新田くんの事を止められなかったから……」
今にも泣き出しそうな夏美ちゃん。
「夏美ちゃんのせいじゃないよ。わたしがあそこで言い返せなかったのが悪い」
なんか私が夏美ちゃん励ましてない?ってかさっき自分で自分を追いつめている言い方をしていたような……。
「……ごめんね。本当は桃華ちゃんを励まそうと思ってきたんだけど、逆に桃華ちゃんに迷惑を……」
本当だよ!いや、ここでこんな事を思ってはいけないな。とにかく夏美ちゃんに相談にのってもらおう。
「話、聞いてくれる?」
「私で良ければ」
夏美ちゃんはキリッと引き締まった表情になり、自分の席に座った。なんせ私の前の席だからね。
「実はさぁ」
私は今まで自分が考えていたことを事細かく伝えた。うまく伝わったかは別として……。
「思ったんだけど」
全て話し終えた後で、夏美ちゃんが口を開いた。
「中新田くんが言った『二重人格』って、たぶん裏表が激しいって意味で言ったんじゃないかな」
「どういう意味?」
私のどこが裏表激しいのよ。
「ほら、さっきだって私には笑顔だったけど中新田くんにはそうじゃなかったでしょう?」
「確かに」
考えてみればそうだ。
「だから、きっと中新田くんが伝えたかった意味と桃華ちゃんが取った意味が違ったんじゃないかな」
なるほど、そう考えてみれば、まとまりがつく。
「良い所に気づいたよ。凄いよ、夏美ちゃん」
「それほどでも」
「それじゃぁ、私の裏表の激しさをどうすれば良いわけ?」
この自分をどうするのかがこれからの問題だ。
「……」
「……」
「……」
「そうだなぁ」
口を開いたのは夏美ちゃんだった。
「何か良い案でも?」
「声優でも目指してみたら?」
「……」
「……だめ?」
夏美ちゃん、そんな簡単に……。
「ちょっと、わかんないなぁ」
まだまだ先の話だもの。
「あはは、やっぱり」
夏美ちゃんは苦笑して言った。
結局この『裏表の激しさ』をどう使うかまでは至らなかったけど、きっといつか解決方法は見つかるはずだと思う。
まぁ、中新田の言葉を、私が誤解して受け取ったと信じることに決めたけど、そう受け止めて良いのか否か、それは昼休みが終わって中新田が戻ってきたとき全てが決まる。
END
こんにちは。初投稿小説です。いかがだったでしょうか。
この小説は私の体験をもとにした小説です。
登場人物の名前設定から始まり、内容をおおいに変えまくったので予定以上の時間がかかりました。あげくの果てには最初からやり直しになったり……。こんな感じでできあがった小説です。
読んでいただき本当に有り難うございます。また他の作品でお会いしましょう。