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戻ってきた西岡くんに、ノートに貼り付けるように指示。

一応用意しておいた糊を使ってもらって、ペタペタと。

後は全訳を見ながら、判らない単語を調べつつ、活用系を調べさせる。

判らなかった単語の意味を、赤で書く事だけ覚えてもらった。


その間に、俺は持ってきてもらったテストを順番に眺める。

渡してくれたとき、若干恥ずかしそうな顔をしてたのは仕方がないだろう。

俺だって人にテストを見せるのは、割と抵抗がある。

何が出来ないのか調べるため、と説明はしたが、良く了解したものだと思う。


「――さて」


どうかなーと思いながら、まずは現国から。

52点。彼の平均点が39点と言っていたから、得意なのだろう。

全体的にチェックされている項目が多いが、半分以上は当てている。

ただ問題として、高得点の問題を軒並み落としているのが判る。

選択肢や漢字は当ててくるが、解釈や抜き出しは苦手のようである。


続いて古典と英語。36点、41点。50点満点のリスニングが18点。

彼にとっての平均前後、というところだろうか。

どちらも小問はそれなりに答えているが、記述の多い後半で落としている。

というか、書けてない。最後の方はそれこそ空欄もある。


数学のIIとB。36点、32点。うん、低い。

けれど回答内容としては、さほど酷いとは思えなかった。

どちらも基本問題は答えられている。全くできないわけではなさそう。

ただ、問題が少し複雑になってくると、計算問題でも空欄がある。

記述も簡単なものは丸が付いているが、難しいものはまず式が立てられていない。

解き方を理解するほど時間をかけられてないという辺りだろうか。


生物40、現代社会44、日本史42。比較的悪くない数字。

生物の範囲は遺伝が中心。問題の練習回数が足りてないのが回答で判る。

暗記要素が強い生物、現社、日本史であるが、どれも穴埋め系はそれなり。

用語理解が所々不十分で、説明の記述などはボロボロ。死んでいる。


そして、合計。リスニングを除く8教科で323点。

リスニングを二倍して足すと、359点と、俺の半分にも届いていない。

低いは低いのだが、総合して評価するとなると、悪くないと思う。

全くできない教科があるわけでもなく、似たような数字を取れている。

全体的に対策が足りていない面があるだけで、根本的な問題ではない。


敢えて言うなら、文章化が苦手、なのかもしれないけれど。

それはもう一つ、別の理由が見え隠れしているので、案外解決できるかもしれない。

……まあつまり、回答の時間配分ができてなさそうな雰囲気がある。

対策不足で回答に時間がかかるので、後半にある記述が書けないという印象。

大抵そういう問題ほど高得点であるので、こんな点数になっているのだろう。


結果として。

テストを見る限りでは、俺は西岡くんが馬鹿であるとは思わない。

要領が悪くて、対策しきれないから、努力が評価されにくいだけ。

好意的に解釈しなくても、大体こんな感想になる。

……俺とは違って先生たちに好まれるのも、こういう理由からかもしれない。

俺は一つ、大きなため息をついた。



切り替える。

隣にいる西岡くんも戸惑いながらではあるが、言った通りにやっているようだ。

手際はいいとは言えないが、詰まっているようにも見受けられない。

その間に、これからのことについて考えてしまいたいと思う。


問題は、時間が足りていないこと。対策できていないこと。

時間が足りていないのは、予習がテンポよく進めばなんとでもなるだろう。

普段から勉強しているのだから、寧ろかなり時間があると言える。

だからこそ、これからは効率のいいテスト対策をさせる必要がある。

今やらせている古典のノート作りも、その一貫といえるかもしれない。


今まで、テスト対策に時間が取れなかったということ。

それは対策の仕方を把握できてないということにもつながるだろう。

闇雲に、ではなく。テストで点を取るための勉強の仕方。

回答の傾向から、何をどうやって勉強させるのかをはっきりさせなければ。


「……むむむ」


むむむではない。ううむでもない。

古典と英語はノート作りをさせればいい。

赤のシートで“初見では判らなかったところ”を確認させるだけの話である。

そこはつまり“勉強しなければ解けない場所”である。勉強する必要があるのだ。

後は、全体像がちゃんと掴めているのなら、極端な点数は取らないだろう。


現国も、元がそれなりにできているのだ。

指示語の指すものを確認させ、段落の繋がりを認識してもらう。

その上で段落ごとに要約させて、最後に全体の要約をさせよう。

こんなのは数時間あればできる。後回しでも構わない。


現社と日本史は、時間をかけた分だけ点数が上がる代表。

だからこそ、時間をかけずにそれなりの点数で妥協できる。

具体的に言うと、副教材の出番である。

全部網羅している教科書と違い、必要分だけを取り出しているからこそ。

教科書よりも先に勉強することで、流れの中で何が大切なのかを認識できる。

早いうちの対策が必要になるだろう。


そして、問題は数学2つと生物。

出来ないわけでは無さそうだが、難易度の高い問題は答えられていない。

特に数学IIで記述から式を立てられていないのは、なんとも。

文章が何を意味しているのかを、きちんと理解させる必要があるはずだ。

この3つはかなり時間を掛けなければならない。


「――道は長いな」


本当に長い。これは長い。

テストまでに間に合うのか。間に合わせなければならないけれど。

カリカリとシャープペンを走らせる横顔は、集中している。

これだけ頑張っているのだから、いい点を取らせてあげたいな、なんて。

心を許しちゃっている自分にびっくりしたりなんかした。






「――出来た」

「………………終わったの?」


流石に、俺もテストばかり見ているのも飽き。

時折予習に口を出すだけになったので、昨日借りた本を読み。

そして5時を回ったぐらいに、西岡くんが声をあげた。

どこか呆然としたような声は、疲れているからだろうか。


背もたれから体を起こし、ノートを覗く。

言った通りのことは一通りやってある。字が下手なのはご愛嬌。

軽く訳文にも目を通す限り、予習としては十分な出来であると伺えた。

うん。やっぱり出来ないわけではないらしい。


「お疲れ様。出来てるみたいだね」

「……う、うん」

「…………どうしたの?」


どうも芳しくない反応である。

なんというか、ふわふわしている感じ。心あらず、みたいな。

目の焦点は合っているので、単純に疲れただけだろうか。


「俺、終わらせられた……」

「そうだね」

「複数回分の予習を、こんなに短い時間で……」

「うん」


まあそうだろうなというのは、俺にとっては判りきったことだった。

今日やらせたのは、大体授業5回分と言ったところだろうか。

古典は週2回なので、多分今回のテスト範囲はここまでだろう。

これで、少なくとも予習で手間取ることは無くなったというわけである。

西岡くんの努力が前提だが、目標も決して無理なものではなくなったのだ。


「――――よ、吉野くん」

「……?」

「凄すぎ……」

「凄くない」


今までの君がしょっぱかっただけである。

真面目であるけど、バカ丁寧にバカ正直だっただけである。

……一応、褒めている。バカだとは思っているけれど。

俺をキラキラした目でみる西岡くんが、不意に少し表情を曇らせた。


「あ、でも」

「どうしたの?」

「コピーとか、全訳見たりとかっていいのかな……」


何を今更なことを言っているのだろうか。

いいか悪いかで言ったら、良くはない。しかし、これで得られるものもある。

確かに、先生は自分の手で写すことを主張する人が多いのはそうだけれど。

それはまた別の理由があるのだから、仕方がない。


「……それで学べることもあるにはあるけど。

 今の君だとまだ早いし、余った時間の有効活用が先」

「……ですよねー」

「いずれの話。余裕が出来てからでいいよ」

「うん」


作者が何を考えて、一つ一つの言葉を選んだのを考えながら写す意味。

他の誰かの解釈を経ずに、自分の言葉で全てを訳すことの意味。

どちらも大切なことではあるのだけど、現状の西岡君にはほぼ必要ないものである。

……先生がこれを重視するのは、そういう癖を持ってもらうためなのだ。

だからといって、他の勉強が疎かになっているようでは、意味も何もないが。


「――――古典は、とりあえずこれで終わり。

 明日は英語をやる。持ってきて」

「うん、了解。……今日はこれで?」


終わりか、と言葉を省略した視線。

このまま頷いてもいいのだが、少し考えてみる。

日数に余裕があるわけでもない。かといえ他の教科を教える準備はしていない。

ならば。家で出来る作業をやってきてもらうか。


「……家でも勉強している?」

「してるよ。してるつもり」

「なら――――日本史と現社の副教材のサブノート。

 答え見ながら、解答欄に全部赤で回答してきて」


学校指定で選択者全員購入のサブノート。

一ページ一ページが単元ごとの問題集となっていて、纏められている。

こんな感じ、と自分のノートを見せながら、説明する。

古典もそうだが、赤のシートがあればそれだけで勉強できるわけだ。

当然すぎるけれど、みんながしている“当然”をすれば平均点はとれる。


これに関しては、見ればやり方はすぐに伝わる。

西岡くんも一目で理解してくれたらしく、やってくると言った。

――ならば、今日はこれで終了である。

なんだかんだで、普段の予習の数倍の量をやらせたのだ。

あまり長引くのも良くないだろうと、俺は終わりを告げて別れた。






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