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春男の足元には

春男の足元には


 春男の足元には、基本的にはなにも置いていないのだが、(両親からそれぞれに送られる食料品類は別にして)話を書くときにだけは資料が散乱する。あまり外に出かけない春男の資料はテレビか、雑誌になる。今回はひたすら、かっこよさげなスーツ姿の男性が、にこやかにほほ笑んでいる男性のファッション雑誌のページが開かれている。スーツ姿が必要らしい。

「できてるか?ん?春男、お前、ちょっと動くなよ?」

「んー?」

「動くなってば。なんだ、これ?」

 オレは、春男の部屋に入るなり春男の足元でなにか光るものを見つけて拾い上げた。

「ああ、そこにあったのか。そこにしまっておいてくれる?」

 机の上にちょこんと置いてある、目に入った二つのサイズの違う箱。

「そっちの小さい方ね。」

 春男が指をさして言う。オレは気になってすぐに春男に聞いた。

「……両方、開けていいか?」

「いいよー。」

 春男はあっさり返事。くるりと椅子ごとこっちを向いた。

「なんだ、これ……?」

小さい箱のほうには大きめなイヤリングのようなものが一つ、入っていてキラリと石が光っている。自分がいま手に持っているものと同じものが入っていた。

「カフスボタン。」

「あー、これ、カフスか、何かと思った。洋服のボタンか。」

 自分で言っておいてなにか違和感がある。しかし、間違ってはいないはずだ。

「こっちは……シャツ?」

大きめな箱にはシャツがきちんと折り畳んで入っている。

「そー。カフスボタンようのシャツですって。」

「カフスボタン用にシャツがあるのか!通常のと違うのか?しらなかった!」

「そうらしいわ。なんでも、袖口が違うんですって。」

 その時点でオレはやっと春男の口調がおかしいことに気がついた。こういう時のオレは、いないが、いたら彼女に絶対に振られるんじゃないかというくらい問う。

「なんで、カフスボタンが足元に転がってるんだよ。」

「ちょっと見たときに転がったのよ。でもねぇ、どこに行ったかわかんなくって。」

「どうしたんだ、これ。貰い物か?」

「うん、父さんの知り合いがくれたの。」

「ほー。お前に?」

「まさかぁ、着ようにもサイズ的に着られないんだよねー。」

 春男はため息をついた。広げてみるとたしかに春男には入らないだろう。

「へー。つーか、なんで親父さんが、カフスボタン?」

 春男の父親は洋風より和風が似合う顔立ちだ。

「いや、なんでも、知り合いのアクセサリーショップの店長から手作りカフスボタンができないか相談されたらしくって、現物を見たいって、送り先をここにしたらしい。」

 話しているうちに春男の口調が戻ってくる。

「あとで店長から電話があって、こうやって使ってねぇ、せび着てねぇって説明があったんだけど、サイズがね…。ま、父さんは着られると思うんだけど。」

「なるほど。」

オレはシャツを元どおりに苦戦しながら畳んだ。

「あ、いいよ、適当で。」

「いやいや。」

 春男の父親は春男の母親に黙っての趣味がある。しかし、それがアクセサリー作りにまで発展しているとは知らなかった。と、同時に春男の口調はその店長の影響だと判明した。

「だけど、カフスボタンなら男が持ってるもんだから、別に実家にあってもいいだろうに。」

「父さんがカフスボタンを最初からする人ならね。いままでしたことがないのに、自分で買うわけもないし。贈り物でも母さんに追及されると困るだろう。」

「うーん……。」

春男の父親の顔はじっと見つめられるだけで、心臓がドキドキして飛び出てくるのではないかというほど、怖い。そこにカフスボタン。偏見だが、想像するとそれこそスーツの下から二丁拳銃でも出てきそうだ。

 浴衣姿なら日本刀か。そして、そんな彼がもっとも恐れるのが愛妻に嫌われることだ。ケンカの話さえもほとんど聞かない。カフスボタン一つで夫婦の危機は避けたいものだ。

「で、作れるのか、こんなもんが手作りで。」

 オレは箱にしまいながら聞いた。

「どーかなぁ……。明日はこれを見に来るって言っていたけどね。」

「そうか。」

「いらなくなったら、洋介、着る?」

「いやぁ……着ないかなぁ……面倒だし。邪魔にはならないんだろうけど、毎回、これを付けるときはこのシャツを引っ張り出してこないといけないってことだろ?」

「そーかぁ。ま、ボタンのほうは女性にあげてもいいようなデザインだから、母さんにでも渡そうかな。」

「は?何言ってんだ、カフスボタンは男物だろ?」

「いや、僕もいままではずっと、そう思っていたんだけどね、昨日、母さんとシャツを作りに行ったら、女性でもできますって店員さんに言われてさぁ。あれはちょっと気になるね。」

 春男の話を聞きながら、聞きたいことは増える。

「マキさんと出かけたのか?」

「うん。なんでも、新しいシャツが欲しいって。セミオーダーの店に出かけたんだ。」

「で、なんでお前が一緒に行くんだ?」

 出かけることの嫌いな春男が珍しい。

「父さんの代わり。一緒に出かけたら、新しいやかんを買ってくれるって言われて。つい。」

「親父さん、どこかに行っているのか?」

「うん、こっそりメガネのチェーン手作り教室に。ほら、女性ものの老眼鏡とか付いているチェーンみたいなのがあるじゃん?あれをなんとかって、会社のビーズで作るんだとか、言ってたな。」

 オレは言葉を失って、ため息をついた。春男の作品は周りの影響を受けやすい。それなのに、今回はやけに出来事が盛りだくさんだ。カフスボタン、個性的な店長、シャツ作り、やかん、メガネのチェーン作り。

「しかしなぁ。足元が見えないなんて、ちょっと太りすぎかなぁ?」

 そう言って春男はパソコンに向かった。春男が腹をさする。

ちょっと?だいぶの間違いだろうと言いかけて、オレはやめた。絶対に今回の作品にはカフスボタンが入っているに違いない。急いで家に帰ってパソコンで調べねば。


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