春男と遺品
春男と遺品
自分の家の犬とか、あかちゃんの顔を携帯の待ち受け画面にする心理はいままで、まったく理解できなかったが、オレはついに、自分の甥っ子を待受け画面にした。
それくらいに可愛いのだ。だが、浮かれていると、頭上からハンマーを落とされたかのような衝撃を受けることをする奴がいる。春男だ。
どうやら、次のテーマが遺品らしい…。
「遺品?」
「そう。君の携帯画面を見て浮かんだんだ。」
どうしてそんなテーマになったのか。どうもよくわからない。
初めはサラリーマンが妻を亡くした後の余生の話を書こうとしていたらしい。ところが、未来ではなく、過去を思い浮かべたらしく、妻との出会い、初恋…と過去へゆっくり移動していくのかと思いきや、春男の頭の中では、急に主人公の両親の葬式に移ったらしい。
「君の携帯画面見てて、子供のときにみた自分の親の風景が浮かぶ設定にしたんだよ。」
そう、春男は言った。
主人公の両親は、母親が残り、先にだんなを亡くしている、ということになっているのだが、母親が父親の遺品を整理している姿を思い出し、子供がいなかった主人公は自分も妻の遺品を整頓し始める、というシリアスな話となっている。
そこまで書き進めた、春男は言った。
「でもさぁ。自分が今まで残してきたものの処分を託すって勇気がいるよね。」
「…そうか…そうだなぁ。」
オレは家においてあるイロイロなものを思い浮かべながらうなずいた。
「そうだよ。携帯やらパソコンやら、そうじゃない部分も多いしね。自分はとくになんにもないからいいけど、うちなんか、どうするんだろう。絶対に、父さんのほうが、母さんより長生きしなきゃ。」
春男の父親は、掃除や裁縫、料理などの家庭的趣味を妻に愛されたいが為だけに黙っている。
「…でも、亡くなった後なら、そんなに怒らないんじゃないか、バレても。」
「甘い。絶対に、同じ墓には入らないとか、言い出す。」
「う…。」
春男の母親ほどの給料があれば、墓は軽く買えそうだ。
「それで、絶対に、怒りがこっちにまでやってくる。」
「…ありそうだな。」
「母さんも怒りそうだけど、父さんが幽霊になって、文句を言いそうだなぁ。なんで、見つける前に片づけておいてくれなかったのかとかさぁ。」
春男は自分で言っていて、想像したら怖くなったのか、体を震わせて言った。
「長生きしてもらわねば。」
そういうと、春男は作品の続きを打ち始めた。めずらしく今回は作品の最後に作者の、つまり春男の意見が入った。
『結婚をするならば、まったく秘密のない生活を送るか、秘密を死んでさえも守る生活を送るかで、円満な死後の世界が待っている』
オレは携帯の待受を見ながら、少なくとも弟の遺品整理は俺の仕事にはならないだろうと考えていた。だが、オレが先に逝ったら弟か、親が来るだろう。もしかしたら甥っ子も来るかもしれない。オレはちょっとだけ、自分の部屋の整頓を心に誓った。




