マニアな世界 2
マニアな世界 2
普段、歩かずに丸くなっていく春男の情報源は基本的にはインターネットであるが、たまには、本当にたまには電車の広告で得ることもあるようだ。
「恐竜博?」
「そう、いつもは都会のでっかいところでしかやらないんだけど、一部が近くまでくるんだって。見に行こう!」
この間、切手を見に行ったというのに、次は恐竜らしい。ちなみに、切手はたしかに作品の中に織り込まれていた。あとで切手を見せてもらってよかったと思ったものだが、次は恐竜!どこで、作品に影響されるのか、恐ろしさのほうが勝つ。
「だけど、子供だらけですさまじく混んでいるんじゃないか?」
「……だよねぇ。」
春男は、人が多いのが嫌いというよりも、苦手だ。どうも春男の行く気力が切手展ほどはないようだ。人の多さが気になっているらしい。
「じゃ、今度の土曜日に会場まで出かけてみよう。それで、混んでいたらやめよう。」
「うん。」
春男はオレの提案に素直に頷いた。実際のところは、混んでいる気がしていた。しかし、春男を歩かせるチャンスでもあるのだ。会場にいくだけでも春男の運動になるなら、それでもいいかと行ってみることにした。
当日。
「すいてねぇ?」
「すいてるねぇ。」
意外なことに、すいているというよりも混んでいなかった、というほうが正しい。
「行こう!」
オレは恐竜が春男の作品にどんな影響が出るのかを恐れつつも、行くことにした。外からちょっとだけ見える骨が呼んでいるような気がしたからだ。
中には、骨の展示物がたくさん並んでいて、ライトアップされて展示されている。基本的には模型だが、岩から削り出されていない状態のもあって、こんなふうに埋まっていたのだとしることができる。
問題は、恐竜の名前とその説明文を見ないとどれがどの恐竜の骨だかわからないことだ。生きていた時代の順に並んでいる。映画で見たことのある恐竜の名前もある。
「あー、これ、聞いたこと名前の恐竜だなぁ。」
「あるある。これさ、歯がでかいねぇ。あ、肉食だって。」
「ん?うわー、小さいなこれ、子供?しっぽだけは長いな。」
「あー、これ、あれの子供だって。」
「あーこれがあのサイズになるのか、でかいな。」
「関節がしっかりあるんだねぇ!骨も大きいねぇ。あ、でも草食だってよ。」
「これが鳥かぁ?」
見て回っているうちに、楽しくなってきたのか、春男以上に楽しんでいる自分がいた。周りを見回せば、子供も確かにいるのだが、子供よりも大人のほうが楽しそうだ。子供のほうは年齢によってだが、泣いている子供もいる。怖いようだ。
「あ!」
「なんだ?あ!」
いい大人が、この口調はどうかと思うのだが、近くででっかい恐竜のロボットが動いていれば、誰だってこういう状態になるに違いない。春男は、いつも以上に早足でそれに向かって、歩いて行った。オレも慌てて、ついて行った。
近くで見ると、最新技術なのか、顔の上下移動はもちろん、口の中の下は動くし、目も瞬きをする。手も動くし、しっぽまで揺れている。そして、当然、でかい。像よりも大きいものが、近くでしかも大声で唸っていたら、ロボットでも怖いものがある。
泣く子供が急に増えた。
「こーわーーーいーーーー。」
「あちゃ、あっちこっちで泣いてるな。」
「そりゃあ、怖いよねぇ。この歳だから、平気だけどさ。子供にとったら怖いんじゃない?」
「そうかもな。」
そういいつつも、自分と変わらないであろうこの子供たちのお父さんたちの年齢にため息をついた。切手展の時も思ったが、いい年をした男二人が恐竜博とは、どうだろう。いや、なにも恐竜が悪いわけではないのだが。
「あ、触れる骨だって。」
「へぇ。」
コーナーをめぐるうちに、そんなところがあったのだが、正直なところ、骨ですと言ってもらわないとわからないような岩のサイズだ。ほかにも、ロボットの恐竜の草食篇がいたり、子供が操作できるコーナーもある。
「最新技術なんだろうなぁ。」
春男は感心したように、言った。
そして、展示をぬけると、お土産コーナーと子供のスタンプラリーと親子で体験できる化石発掘の体験場などが広がっている。土産コーナーを見ながら、春男がなにか思い出したようにぽつりと言った。
「そういや、昔の大学で考古学の先生が、骨の発掘はちょっとづつ、根気よくやるもんだと言っていたな。」
珍しく、春男にしては昔のことを覚えていたようだ。
「へぇ。考古学ねぇ。おもしろかったのか?」
春男とは違う大学にいたせいか、春男の大学時代の話を聞くのは珍しかった。
「うん、結果的に授業は面白かったよ。内容はほとんど覚えてないんだけど。たまたまその時間が開いてたんだよ。」
春男が大学時代の話をしない理由がなんとなくわかった。まぁ、記憶力のよくない春男に期待する方が無理というものだ。この恐竜展もどれだけ先まで覚えていられることやら……。
だが、記憶には残らなくても記録には残る可能性がある。春男の作品に恐竜の骨が紛れ込むかもしれないのだ。恐竜の骨のガチャガチャを回している後姿を見ながら、それがどこに出てくるのか注意せねばならないと思った。
「そういえばね?恐竜の皮膚の色って、まだ解明されていないんだって。」
「色?だってあのロボット、色が付いてたぞ?」
「あれは作者の想像なんだってさ。恐竜の肌の色が解明されるのと、タイムマシンとどっちが先だろうね。」
そう言って、春男はのんびりと歩き出した。




